ガンダムシリーズ最新作の主題歌はエアリアルが主役
2022年10月1日に配信リリースされたYOASOBIの新曲『祝福』は、アニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の主題歌として書き下ろされました。5年ぶりのガンダムシリーズ最新作となる本作は学園が舞台。
テレビアニメシリーズとしては初の女性主人公スレッタ・マーキュリーにスポットを当てた、これまでにない“新しいガンダム”として注目されています。
主題歌『祝福』の原作小説である『ゆりかごの星』は『機動戦士ガンダム 水星の魔女』のシリーズ構成・脚本を担当する大河内一楼が書き下ろした小説で、スレッタに寄り添うガンダム・エアリアルの目線で綴られています。
どんな世界が広がっているのか、歌詞の意味を考察しながら覗いてみましょう。
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遥か遠くに浮かぶ星を
想い眠りにつく君の
選ぶ未来が望む道が
何処へ続いていても
共に生きるから
ずっと昔の記憶
連れられて来たこの星で君は
願い続けてた
遠くで煌めく景色に
飛び込むことが出来たのなら
≪祝福 歌詞より抜粋≫
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「遥か遠くに浮かぶ星」は地球のことであり、「君」はスレッタのことを表しています。
スレッタはとある理由から、幼い頃に母親に連れられ水星へと逃げてきました。
水星で生活しながら地球での暮らしを夢見る少女の姿をそばでずっと見守ってきたエアリアルの優しい眼差しが見えてくるかのようです。
スレッタがどんな未来を選択し、その結果がどうなるとしても「共に生きる」ことを約束しています。
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一人孤独な世界で
祈り願う
夢を描き
未来を見る
逃げ出すよりも進むことを
君が選んだのなら
誰かが描いたイメージじゃなくて
誰かが選んだステージじゃなくて
僕たちが作っていくストーリー
決して一人にはさせないから
いつかその胸に秘めた
刃が鎖を断ち切るまで
ずっと共に闘うよ
≪祝福 歌詞より抜粋≫
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母親は仕事で忙しく、子どもは自分だけという環境で、スレッタは「一人孤独な世界」に耐えてきました。
それでも彼女は前向きで「逃げ出すよりも進むことを」選んだようです。
その根底には母親からもらった“逃げたら一つ、進めば二つ”という言葉がありました。
エアリアルはスレッタが「誰かが描いたイメージ」や「誰かが選んだステージ」を進めばいいとは思っていません。
スレッタが自身の意志で紡いでいくストーリーの中で、生きてほしいと願っています。
「僕達が作っていくストーリー」という言葉から、自分の存在はスレッタの願いを叶えるためにこそあるのだという想いが垣間見えるでしょう。
「その胸に秘めた刃」とは信念や強い意志のようなものと解釈できます。
エアリアルはいつかスレッタが自身の背負わされた運命という鎖を断ち切る時まで「ずっと共に闘うよ」と誓います。
君だけの人生を生きて
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決め付けられた運命
そんなの壊して
僕達は操り人形じゃない
君の世界だ 君の未来だ
どんな物語にでも出来る
≪祝福 歌詞より抜粋≫
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スレッタの「決め付けられた運命」とは、母親の復讐のために地球の学校へと入れられたことを指していると考察できるでしょう。
エアリアルは母親の復讐にスレッタを利用するのを止めようとしましたが、うまくいきませんでした。
人は操り人形のように誰かの手を借りなければ生きられないわけではありません。
確かにその先の未来は前途多難ですが、スレッタが自分で学校に行くことを決めたのであれば、エアリアルはその決定を支持するだけです。
今見ている世界もこれから待ち受ける未来も、全ては君だけのものだから、自分の思う通りに行動していいのだという優しくも力強いメッセージが伝わってきます。
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逃げる様に 隠れる様に
乗り込んで来たコクピットには
泣き虫な君はもう居ない
いつの間にかこんなに強く
≪祝福 歌詞より抜粋≫
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幼い頃は泣き虫で、コックピットを逃げ場にしていたスレッタ。
しかし、同じ場所にいる今の彼女の表情には、決意や覚悟が見えるのでしょう。
その心にはきっとあの頃と同じような不安や恐れがあるはずですが、少女は確実に成長しています。
「いつの間にかこんなに強く」と呟く感慨深げな様子に、スレッタの成長を見守ってきたエアリアルの親心が感じられますね。
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これは君の人生
(誰のものでもない)
それは答えなんて無い
(自分で選ぶ道)
もう呪縛は解いて
定められたフィクションから今
飛び出すんだ
飛び立つんだ
≪祝福 歌詞より抜粋≫
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人生には答えはなく、全て自分で選んで進むのみです。
母親が用意したシナリオは、まさに「呪縛」のようにスレッタの気持ちとは無関係に彼女の人生を縛っています。
そんな「定められたフィクションから今飛び出すんだ」と自由に生きることを後押しするのは、スレッタに自分の人生を何にも縛られず心から楽しんでほしいという気持ちの表れだと思われます。
自分を愛せるように目一杯の祝福を君に
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誰にも追いつけないスピードで
地面蹴り上げ空を舞う
呪い呪われた未来は
君がその手で変えていくんだ
逃げずに進んだことできっと
掴めるものが沢山あるよ
もっと強くなれる
この星に生まれたこと
この世界で生き続けること
その全てを愛せる様に
目一杯の祝福を君に
≪祝福 歌詞より抜粋≫
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自分の行く先が「呪い呪われた未来」だと知ったなら、絶望を感じて何もかも諦めてしまいたくなるかもしれません。
しかし、ここでは「君がその手で変えていくんだ」と励ましています。
「逃げずに進んだことできっと掴めるものが沢山あるよ」というフレーズも、未来に無限の可能性があることを伝えてきます。
時に思うような結果にはならないとしても、諦めず行動したことが自分の自信に繋がったり、次に成功するためのヒントを得られたりすることもあるでしょう。
きっと変えられない未来はありません。
今はまだ難しくても「もっと強くなれる」と信じて進むなら不可能はないのです。
「この星に生まれたこと」は自身のルーツを、そして「この世界で生き続けること」は人生や未来のことを意味していると解釈できます。
スレッタが自分の過去も未来も含め自分自身そのものを愛せるよう「目一杯の祝福を君に」贈りたいとエアリアルは願っています。
祝福の対義語は呪詛なので、祝福と呪いは正反対の力を持っているといえるでしょう。
復讐の呪いをかけられたスレッタを祝福の力で解放したい、という気持ちが込められているのではないでしょうか。
限られた中で自分にできることを何でもしてあげたいという純粋で深い愛に心が温まりますね。
一歩踏み出す勇気をくれる愛の歌
YOASOBIの『祝福』には、大切な人を想う気持ちが詰まっています。スレッタとエアリアルの間には血の繋がりがあるわけでもなく、まして人間と機械という全く異なる存在同士でありながら、互いに寄り添い支え合っていることが伝わってきました。
アニメのストーリーの枠を跳び終えて、懸命に生きる全ての人を力づける歌詞から前へ進む勇気をもらってください。