「silent」ってどんなドラマ?あらすじを解説
楽曲『Subtitle』はフジテレビ系木曜ドラマ『silent』の主題歌として書き下ろされました。歌詞の意味を考察するにあたり、まずはドラマのあらすじをご紹介します。
『silent』の主人公は、川口春奈演じる青羽紬。
紬は高校生のときに、目黒連演じる佐倉想の声と言葉に惹かれ、恋に落ちます。
やがて二人は付き合うことになりますが、高校卒業後、紬は想から一方的に振られることに。
それから8年という月日が流れ、紬は鈴鹿央士演じる戸川湊斗と付き合い、新たな人生を歩んでいました。
しかし、紬と想は偶然再会し、初めて紬は想が“若年発症型両側性感音難聴”を患い、聴力をほとんど失っていたことを知ります。
『silent』は音のない世界で再び出会った二人が織り成す、切なくも温かいラブストーリーです。
このあらすじを踏まえて『Subtitle』の歌詞を見ていきましょう。
佐倉想視点で「Subtitle」の歌詞を考察
楽曲『Subtitle』の歌詞には「僕」と「君」が登場します。
「僕」に誰を当てはめるかで、歌詞から伝わる情景が変わってくるでしょう。
ドラマ『silent』のヒーローは佐倉想なので、「僕」=佐倉想、「君」=青羽紬と考えて考察を進めましょう。
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伝えたい伝わらない その不条理が今 キツく縛りつけるんだよ 臆病な僕の この一挙手一投足を
言葉はまるで雪の結晶 君にプレゼントしたくても
夢中になればなるほどに 形は崩れ落ちて溶けていって 消えてしまうけど
≪Subtitle 歌詞より抜粋≫
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「伝えたい 伝わらない その不条理が今」という歌詞は、聴力を失い、紬とコミュニケーションをとる手段を失った想の気持ちとリンクしています。
特に紬は想の声と言葉に惹かれたという経緯があるため、紬が好きだと言ってくれた声と言葉で想いを伝えられないのは、想にとって、とても心苦しいことでしょう。
「キツく縛りつけるんだよ 臆病な僕の この一挙手一投足を」という歌詞も、紬を愛していながら、病気のことを打ち明けられずに離れてしまった想の姿と重なります。
言葉を雪の結晶に例えた歌詞も印象的ですね。
単なる「雪」ではなく「雪の結晶」とすることで、言葉というものの美しさや、言葉に乗せて伝えたい想いの美しさを表現したのではないでしょうか。
しかし、いくら叫んでも声による言葉は、聴力を失った相手には届かないし、手話は手話を習得している相手にしか届きません。
確かに言葉は雪の結晶のように溶けてしまう、儚さも持ち合わせています。
「言葉はまるで雪の結晶」という歌詞は、伝えようとすればするほど、伝わらないという苦しさに直面し、音のない世界にいる想と音のある世界にいる紬がすれ違っていく様も表現しているのかもしれません。
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言葉など何も欲しくないほど 悲しみに凍てつく夜でも
勝手に君のそばで あれこれと考えてる 雪が溶けても残ってる
≪Subtitle 歌詞より抜粋≫
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『Subtitle』の歌詞は「雪が溶けても残ってる」という言葉で締め括られます。
聴力を失い、紬とのコミュニケーション手段がなくなっていくことや紬を悲しませることを恐れて、紬の元から離れても、想の心から紬の存在は消えてくれなかったのです。
再会したことによって、心の奥底に押し込められていた想いがどのように動き出すのか、ドラマの今後の展開が楽しみですね。
「僕」が「君」に与えたいものとは?
『Subtitle』の歌詞には、「君に渡したい」「伝えたい」「君にプレゼントしたくても」など、大切な人に何かを与えたいと願っているような表現が多く見られます。
「僕」が「君」に与えたいものとは、どのようなものなのでしょうか。
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火傷しそうなほどのポジティブの 冷たさと残酷さに気付いたんだよ
きっと君に渡したいものはもっとひんやり熱いもの
≪Subtitle 歌詞より抜粋≫
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「火傷」「冷たさ」「ひんやり熱いもの」など、温度の感じられる表現が散りばめられた歌詞となっています。
ポジティブすぎる言葉が相手の気持ちを置いてけぼりにしてしまったり、相手にとって押しつけがましいものになってしまったり、言葉を発する人と言葉を受け取る人の間には、大きなギャップが生じることがあります。
「僕」が「君」に渡したいものは、「ひんやり熱いもの」。
自分の思いをそのままぶつけるのではなく、相手の求める温度感に合わせて伝えたいという気持ちが込められた歌詞なのではないでしょうか。
ドラマ『silent』では、紬の交際相手である湊斗や親友が紬に優しく寄り添い、想には音のない世界で出会った女性や家族が適度な距離感で寄り添います。
ドラマの各シーンと重ねれば「ひんやり熱いもの」がどのようなものを指すのか、より具体的にイメージできるかもしれませんね。
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救いたい=救われたい このイコールが今 優しく剥がしていくんだよ 堅い理論武装 プライドの過剰包装を
正しさよりも優しさが欲しい そしてそれを受け取れるのは
イルミネーションみたいな 不特定多数じゃなくてただ1人 君であってほしい
≪Subtitle 歌詞より抜粋≫
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「救いたい=救われたい」という歌詞も印象的です。
大切な人を救いたいと思っても、そもそも相手に頼ってもらえないときってありますよね。
相手が大切な存在であればあるほど、頼ってもらえないことは悲しくなるもの。
救いたいと思うとき、その気持ちに応えてほしい、自分を頼ってほしい、求めてほしい、そんな気持ちも、人は同時に抱いてしまうのではないでしょうか。
人に手を差し伸べることも救いですが、差し伸べられた手を振り払うのではなく、しっかりと掴むこともまた、相手を救うことになります。
救って、救われて。そんな関係を築けたら素敵ですね。
『Subtitle』の歌詞には、ドラマのあらすじに当てはめても、自分の日常に当てはめても、胸に響く言葉がたくさんあります。
Official髭男dismと歌詞の関係性
最後に、ドラマから離れた視点で歌詞を考察してみます。
歌詞に登場する「僕」=作詞作曲を手がけたヒゲダンの藤原聡と解釈すれば、また違った歌詞考察ができるでしょう。
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かけた言葉で 割れたヒビを直そうとして 足しすぎた熱量で 引かれてしまったカーテン
そんな失敗作を 重ねて 重ねて 重ねて 見つけたいんだいつか 最高の一言一句を
≪Subtitle 歌詞より抜粋≫
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「かけた」「割れた」「足しすぎた」「引かれて」と、四則演算を表現する言葉が散りばめられている、遊び心たっぷりの歌詞ですね。
上手く言葉をかけられず、失敗してきた様子が描かれており、日常生活におけるコミュニケーションについて歌っているように聴こえます。
しかし「僕」=藤原聡と解釈すれば、作詞における最高の一言一句を探している、という意味とも捉えられそうです。
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絶えず僕らのストーリーに 添えられた字幕のように
思い返した時 不意に目をやる時に
君の胸を震わすもの 探し続けたい 愛してるよりも愛が届くまで
もう少しだけ待ってて
≪Subtitle 歌詞より抜粋≫
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「僕らのストーリー」という歌詞は「僕」=佐倉想と解釈すれば、佐倉想らのストーリー、つまりドラマ『silent』を指すことになり、「僕」=藤原聡と解釈すれば、髭男自身の音楽活動を指すことになるでしょう。
音楽の聴き手が自分自身を重ねて聴く場合は「僕」=聴き手自身となり、「僕らのストーリー」=聴き手自身の人生と解釈できます。
この歌詞には、ドラマのストーリー・聴き手の人生・ヒゲダンの音楽活動など、さまざまな人々の物語に寄り添えるような楽曲を届けたい、という藤原聡の思いが込められているのではないでしょうか。
歌詞には「字幕」という言葉が使われていますが、実は楽曲のタイトル『Subtitle』も「字幕」を表す英単語です。
聴力を失った想にこの楽曲のメロディは届かないかもしれませんが、言葉である歌詞は届きます。
逆にメロディは、言葉を読めない、あるいは理解できない人にも、思いを伝えてくれます。
楽曲『Subtitle』は音や歌詞がそれぞれの受け取り方で様々な人々の元に届き、人生に彩りを添える字幕として感情に形を与え、彩りをもたらしてくれる、ヒゲダンからのプレゼントなのかもしれません。
Official髭男dism (オフィシャルヒゲダンディズム) 山陰発4人組ピアノPOPバンド。2012年6月7日結成、島根大学と松江高専の卒業生で結成されており、愛称は《ヒゲダン》。このバンド名には髭の似合う歳になっても、誰もがワクワクするような音楽をこのメンバーでずっと続けて行きたいという意思が···