語り合う2人を描く歌詞の解釈に迫る
Mr.Childrenの『タガタメ』は、2004年4月リリースの11thアルバム『シフクノオト』の収録曲です。カップヌードルのCMソングや愛・地球博「国際赤十字・赤新月パビリオンのイメージソング」に起用されています。
タイトルの「タガタメ」は、ヘミングウェイの代表作である『誰がために鐘は鳴る』からつけられたと考えられます。
『誰がために鐘は鳴る』はスペイン内戦を舞台とした作品のため、『タガタメ』も平和への願いが込められていることが伝わってくるでしょう。
また、この楽曲が制作された背景には当時立て続けに起こった未成年が関わる事件が関係していると言われています。
事件を受けて、桜井和寿が自分に何ができるか考えた上でのひとつの答えが『タガタメ』であったということです。
----------------
ディカプリオの出世作なら
さっき僕が録画しておいたから
もう少し話をしよう
眠ってしまうにはまだ早いだろう
≪タガタメ 歌詞より抜粋≫
----------------
1番の冒頭部分から、この曲には2人の人物が登場していることが分かります。
この関係性は親子とも考えらえますが、全体の内容から恋人同士として解釈していきたいと思います。
「ディカプリオの出世作」と言えば『タイタニック』『ギルバートグレイブ』『ロミオ&ジュリエット』が挙げられるでしょう。
その中でも、国の争いに巻き込まれる若者が主役であることや主役が恋人関係にあることから『ロミオ&ジュリエット』のことを指しているのではないかと考察しました。
どの作品だとしても、テレビで放送される名作映画を見ようとしている恋人に「さっき僕が録画しておいたからもう少し話をしよう」と語りかける男性の姿が見えますね。
恋人と語り合う時間を大切にしようとする主人公に、温かな愛情が感じられます。
どのような会話が繰り広げられるのか、続く歌詞の意味も考察していきましょう。
いつか生まれる子供たちのために願う
----------------
この星を見てるのは
君と僕と あと何人いるかな
ある人は泣いてるだろう
ある人はキスでもしてるんだろう
≪タガタメ 歌詞より抜粋≫
----------------
2人は並んで星を眺めながら話をしているようです。
この世界で自分たちのように星を眺めている人たちのことを想像しています。
ある人が悲しみに暮れて泣いている一方で、ある人はキスでもして愛を分かち合っているのでしょう。
同じ星を見ている人たちでもこんなにも境遇に違いがあることを示しています。
----------------
子供らを被害者に 加害者にもせずに
この街で暮らすため まず何をすべきだろう?
でももしも被害者に 加害者になったとき
出来ることと言えば
涙を流し 瞼を腫らし
祈るほかにないのか?
≪タガタメ 歌詞より抜粋≫
----------------
恋人同士の2人にはいずれ子供が生まれるかもしれません。
そんな未来を考えて、自分たちの元にもやって来るかもしれない「子供らを被害者に 加害者にもせずにこの街で暮らすため まず何をすべきだろう?」と話し合います。
未来ある子供たちを何らかの事件に巻き込みたくないという切実な思いが見えてくるでしょう。
とはいえ、全く避けることは誰にもできないことです。
もし事件に巻き込まれた時、「涙を流し 瞼を腫らし祈るほかにないのか?」と自分の無力さに悩んでいます。
これは裏を返せば、ただ悲しんでこんなことが二度と起こらないように祈りながら怯えて生きる以外に何かできることがあるのではないだろうかという問題提起のようにも感じます。
----------------
タダタダダキアッテ(ただただ抱き合って)
カタタタキダキアッテ(肩叩き抱き合って)
テヲトッテダキアッテ(手を取って抱き合って)
≪タガタメ 歌詞より抜粋≫
----------------
主人公の心からの願いは人々がただ抱き合うこと。
互いに肩を叩き手を取って抱き締め合うことができれば、望むような平和な世界が実現できるのではないかと考えているようです。
平和のためにできることはただ愛すること
----------------
左の人 右の人
ふとした場所できっと繋がってるから
片一方を裁けないよな
僕らは連鎖する生き物だよ
この世界に潜む 怒りや悲しみに
あと何度出会うだろう それを許せるかな?
≪タガタメ 歌詞より抜粋≫
----------------
たまたま隣り合った知らない誰かも「ふとした場所できっと繋がって」います。
それは世界を見ても同じで、地球の裏側に住む誰かにも大切な人がいて、回り回って自分と繋がっています。
そう考えると、自分の個人的な見方で人を裁いたり正義を押しつけたりできないはずです。
しかし人々がそんな大切なことを忘れているせいで、人の命を軽視した事件や戦争が起こっています。
主人公はこれからの人生で「この世界に潜む怒りや悲しみにあと何度出会うだろう」と考え、「それを許せるのかな?」と自問します。
きっと数え切れない理不尽に晒され、胸を痛め苦しむことになるでしょう。
もし大切な家族が巻き込まれたとしたら、気持ちをコントロールできなくなるのが人の心ではないでしょうか。
----------------
明日 もし晴れたら広い公園へ行こう
そしてブラブラ歩こう
手をつないで 犬も連れて
何も考えないで行こう
≪タガタメ 歌詞より抜粋≫
----------------
この部分では明日というより身近な未来へと目を向けています。
晴れたら公園へ行って、2人で手を繋いでのんびりと散歩をしようと恋人に提案します。
将来の不安や世界の問題について考えてばかりでは気が滅入ってしまうものです。
だから今はただ愛する人と共にいられる時間を慈しみ、「何も考えないで行こう」と優しく語りかけます。
----------------
タタカッテ タタカッテ(戦って 戦って)
タガタメ タタカッテ(誰がため 戦って)
タタカッテ ダレ カッタ(戦って 誰 勝った?)
タガタメダ タガタメダ(誰がためだ? 誰がためだ?)
タガタメ タタカッタ(誰がため戦った?)
≪タガタメ 歌詞より抜粋≫
----------------
世界で繰り返し起こってきた戦争は、一体誰のためのものだったのでしょうか?
戦争で大切な人を失い悲しみに暮れる人たちがいて、勝利したはずなのに過酷な状況が変わらず嘆く人たちもいます。
桜井和寿はこの歌詞を通して、争いや他者を攻撃することに何の意味があるのかと問いかけているのです。
----------------
子供らを被害者に 加害者にもせずに
この街で暮らすため まず何をすべきだろう?
でももしも被害者に 加害者になったとき
かろうじて出来ることは
相変わらず 性懲りもなく
愛すこと以外にない
≪タガタメ 歌詞より抜粋≫
----------------
1番で出てきたのと同じ問いがもう一度繰り返されています。
ここで出した結論は「相変わらず性懲りもなく愛すこと」。
どんなに持っている力が弱くても不器用でも、誰もが人を愛することはできるはずです。
そして人が愛し合えば、無益な争いや間違った感情に振り回されて誰かを傷つけることも誰かに傷つけられることも避けられるでしょう。
ほかに何ができるか分からないけれど、まず目の前にいる人を真っ直ぐに愛したいという素直な想いが伝わってきます。
名曲からあふれる想いを感じて
Mr.Childrenが歌う『タガタメ』からは、世界の悲痛な現状への嘆きと子供たちを危険に晒したくないという優しい気持ちが感じられました。世界から全ての危険を取り除くことはできませんが、後の世代の子供たちのためにも自分自身が愛を忘れないようにすることは、きっと回り回って世界の平和に繋がるはずです。
名曲に込められた大切なメッセージをずっと心に留めておきたいですね。
1992年ミニアルバム「EVERYTHING」でデビュー。 1994年シングル「innocent world」で第36回日本レコード大賞、2004年シングル「Sign」で第46回日本レコード大賞を受賞。 「Tomorrow never knows」「名もなき詩」「終わりなき旅」「しるし」「足音 〜Be Strong」など数々の大ヒット・シングル···