ドラマ「ラスト・フレンズ」主題歌
『Prisoner Of Love』は、2008年5月21日にリリースされた宇多田ヒカルの21stシングル。同年4月から放送されたフジテレビ系ドラマ「ラスト・フレンズ」の主題歌にも起用されました。
また、ドラマに合わせて制作された『Prisoner Of Love -Quiet Version-』は、同ドラマの挿入歌にも起用。
胸を震わせるような切ないメロディーと、心の隙間に存在する深い心理を描いた歌詞が印象的な楽曲です。
「ラスト・フレンズ」はDVやストーカー、性嫌悪症といった社会問題に加え、性同一性障害などのパーソナルな問題を投影した作品です。
一軒のシェアハウスを舞台に描かれる複雑な恋愛模様や友情は、多くの視聴者を釘付けにしました。
衝撃的なストーリー展開もさることながら、それぞれに抱える悩みと対峙する登場人物の繊細な描写は、本作の真髄と言えるでしょう。
長澤まさみや上野樹里、永山瑛太や元関ジャニ∞の錦戸亮といった豪華出演陣の共演も人気の理由でした。
『Prisoner Of Love』は、ドラマの登場人物の気持ちを代弁するかのような歌詞が集約されています。
さっそく、その内容を読み解きながら本作の魅力を掘り下げていきましょう。
自分を隠して生きる人々の嘆き
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I'm just a prisoner of love
Just a prisoner of love
≪Prisoner Of Love 歌詞より抜粋≫
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本作は、冒頭からタイトルの『Prisoner Of Love』が歌詞に登場し、一瞬で惹きこまれる力を持っています。
「Prisoner of love」とは、日本語に訳すと「愛の囚人」という意味になります。
このタイトルに集約されている想いは、歌詞を辿っていくと徐々に明かされることになります。
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平気な顔で嘘をついて
笑って 嫌気がさして
楽ばかりしようとしていた
≪Prisoner Of Love 歌詞より抜粋≫
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長澤まさみ演じるドラマの主人公・藍田美知留(あいだみちる)は、明るく優しい性格の持ち主です。
その反面、優柔不断で人に流されやすく、職場でも先輩からいじめられてしまう等、自分の居場所を感じられずにいました。
恋人の宗佑(演:錦戸亮)からの突然の同棲の誘いも断り切れず、結果的に彼の束縛やDVから逃げ出せなくなってしまいます。
人に嫌われないよう八方美人を演じてしまうが故に、美知留を取り巻くジレンマが図らずも歌詞の中にも投影されているのです。
「ラスト・フレンズ」には、本当の自分を隠しながら社会に順応しようとする登場人物がたくさん登場します。
その方が楽だと分かってはいても、本当の”自分らしさ”を押し殺す生活を続ければ、きっといつか崩壊してしまうでしょう。
そんな偽りの自分に一番辟易してしまうのは、結局自分自身なのです。
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ないものねだりブルース
皆安らぎを求めている
満ち足りてるのに奪い合う
愛の影を追っている
≪Prisoner Of Love 歌詞より抜粋≫
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人はいつでも”愛されたい”と思ってしまう生き物です。
本当ならば満ち足りているはずなのに、他人を羨ましがり、その手にないものばかりを目で追ってしまう一面も持っています。
それは決して「愛そのもの」ではないのに、「愛の影」に依存してしまう人の儚さを歌っているのかもしれません。
ここで登場する「ブルース」という言葉に注目してみましょう。
ジャズの一種を表す音楽用語としてもよく耳にするこの言葉。諸説ありますが、元々ブルースは奴隷階級にあった黒人がその過酷な境遇を嘆き、歌にしたものが起源とされています。
つまりここで言う「ないものねだりブルース」とは、手にしたもので満足できず、自分の置かれた環境が恵まれていないと思い込んでいる”悲しい人々の嘆き”を表しているのではないでしょうか。
繊細に描かれる様々な「愛の形」
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退屈な毎日が急に輝きだした
あなたが現れたあの日から
孤独でも辛くても平気だと思えた
I'm just a prisoner of love
Just a prisoner of love
≪Prisoner Of Love 歌詞より抜粋≫
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サビの歌詞は、様々な解釈で読み解くことができます。
「ラスト・フレンズ」は、美知留が同級生の瑠可(演:上野樹里)と再会するところからストーリーが動き出します。
偶然の出会いが、結果的に彼女達自身を救う未来に繋がっていくのです。
同時に、美知留と宗佑との出会いもまた、この歌詞の内容と重ね合わせることができます。
男性を連れ込む母親の元で育った美知留は、それまで明確な愛情というものを感じたことがほとんどありませんでした。
前述した通り、勤め先も不遇な環境だったため、彼女の拠り所は宗佑だけだったのです。
2人の歪んだ関係性が美知留の人生を狂わせていくのですが、彼女にとってそれは紛れもない「愛の形」だったのでしょう。
そして、美知留に好意を寄せていた瑠可や、瑠可を愛おしく思うタケル(演:永山瑛太)の視点を通せば、また異なる愛の形が浮かび上がります。
自分を受け入れてくれる人の存在が生きる理由になる。それもまた、人としてひとつの在り方なのかもしれません。
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人知れず辛い道を選ぶ
私を応援してくれる
あなただけを友と呼ぶ
≪Prisoner Of Love 歌詞より抜粋≫
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ドラマの劇中では瑠可とタケル、そして宗佑の元から逃げてきた美知留の3人でシェアハウスを始めます。
知られざる恋愛感情を抱きながら、友人として美知留をあたたかく迎える瑠可とタケル。
宗佑のDVに脅かされていた美知留にとって、このシェアハウスは唯一安心できる場所でした。
たとえ、その友愛の気持ちが恋愛に繋がらなくても、そこには彼らにしか分かり合えない愛情がありました。
切なさを内包しながらも、この上ない信頼感を感じさせるフレーズです。
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強がりや欲張りが無意味になりました
あなたに愛されたあの日から
自由でもヨユウでも一人じゃ虚しいわ
I'm just a prisoner of love
Just a prisoner of love
≪Prisoner Of Love 歌詞より抜粋≫
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楽曲の冒頭では、笑顔で物事をなんとなく流していた主人公。
しかし、この部分の歌詞からは「無償の愛」を知って生き方が変わった様子が伝わってきます。
目に見えない鎧で自分を固める必要がなくなった主人公は、以前に比べて自分らしく生きられるようになっています。
自分を大切に出来るようになった主人公は、愛しい人の存在をよりいっそう大切に感じられるようになりました。
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残酷な現実が二人を引き裂けば
より一層強く惹かれ合う
いくらでもいくらでも頑張れる気がした
I'm just a prisoner of love
Just a prisoner of love
≪Prisoner Of Love 歌詞より抜粋≫
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ドラマのキャッチコピーは「ほどこうとするたびに、離れられなくなっていく」。まさにそのフレーズがピッタリとハマる歌詞が並びます。
美知留を愛しすぎるがあまり、壮絶な結末を遂げた宗佑。最後まで宗佑の愛情を断ち切らなかった美知留。そんな美知留と最高の友達でいることを誓う瑠可。瑠可を見守り続けるタケル。
この歌詞は全ての登場人物に当てはまり、錯綜するそれぞれの想いがダイレクトに感じられます。
「Prisoner Of Love」が指すもの
今回は、宇多田ヒカルの『Prisoner Of Love』の歌詞を、ドラマ「ベスト・フレンド」の内容と照らし合わせながら考察してみました。驚くべきことに、宇多田はドラマの内容をほとんど知らない状態でこの楽曲を書き下ろしたのだそう。
元々は「恋愛」をテーマにした楽曲だったようですが、ドラマのタイアップにあわせて「友情」ともとれるような内容に書き直したそうです。
独自の解釈を深く楽曲に落としつつ、ドラマの世界観に浸透する作品を書きあげられる才能には脱帽です。
ここまでの考察を踏まえて、タイトルの『Prisoner Of Love』について今一度考えてみると”拠りどころ”という言葉が浮かび上がりました。
言い換えると、時には「信頼」にもなり、時には「依存」にもなり得ます。
人にとって無くてはならないものでありながら、人を狂わせるものでもあります。
重要なのは”拠りどころ”を前に、どんな選択をしていくのかということです。
このテーマは「ラスト・フレンズ」でも深く描かれているので、ぜひこの機会に主題歌の『Prisoner Of Love』とあわせて楽しんでみてはいかがでしょうか。