大型フィギュアプロジェクト「プラントピア」とのタイアップ曲
2022年6月よりソロ活動を無期限休止中のまふまふが、自身が作詞作曲と歌唱を務める新曲『失楽園』を10月12日にリリースし大きな注目を集めています。この楽曲は活動休止前に制作されており、大型フィギュアプロジェクト『プラントピア』のプロモーションビデオに使用されています。
今プロジェクトはイラストレーターのLAMとくっかによるイラストを基にしたフィギュアを起点に、様々なコンテンツを展開中です。
Web小説サイト・カクヨムでは九岡望による小説『プラントピア』が連載されており、「花人」と呼ばれる新しい生命体が生きる遥か遠い未来で唯一存在する人間の少女・ハルを主人公にストーリーが進んでいきます。
『失楽園』がどのようにこの世界観を描いているのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
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契る千の生涯は
深く目を閉ざした
芽吹けば枯れゆく
ボクら何処にいるのだろう
≪失楽園 歌詞より抜粋≫
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「契る千の生涯」とは長い時を刻んできた人間の生きる世界のことかもしれません。
作品の中ではハル以外に人間がいない世界になっているように、約束されていたかのような人間の文明は閉ざされてしまった状態と言えるでしょう。
人間も植物も命が芽吹けばいずれ枯れて朽ちていくという意味ではきっと似通った存在です。
自分の命や人生でさえままならず、「ボクら何処にいるのだろう」と不安になってしまいます。
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「もしも一切を分かち合えるのなら」
願いはただ追憶の知らせ
風間の貰い火
これでいい これでいい
すれ違った刹那に 過る空想
君を愛していたよ
≪失楽園 歌詞より抜粋≫
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たとえ人間同士であれ異なる者同士が理解し合うのは難しいことです。
「もしも一切を分かち合えるのなら」と願いますが、現実はそう甘くはありません。
風が吹いて火種を飛ばして燃え移る「風間の貰い火」のように、些細なことをきっかけに関係がこじれてしまうことはよくあります。
しかし、主人公はそのことを寂しく思う一方で「これでいい」と受け入れてもいるようです。
それは「君を愛していた」から。
気持ちを全て分かち合うことができなくても、自分がその人を愛した事実に変わりはないという純粋な想いが伝わってきます。
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両翼の運命も笑い合う今日も
機関銃の空へ
心に意味がある意味もない躯体
何処かで出会っていた
出会っていたんだ 此処じゃない世界なら
映し鏡の瞳に映る 少女は夢見ている
春の事触れ
≪失楽園 歌詞より抜粋≫
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「両翼の運命も笑い合う今日も機関銃の空へ」のフレーズは、戦争をイメージしていると解釈しました。
生きて帰れるか分からない戦闘機の乗組員たち、何気ない日常の中で笑い合う人々。
たった一瞬で全ての行く末が決まってしまう無情さが感じられます。
そして、壊された建物を見つめて「心に意味がある意味もない」と自身の無力さを嘆いているようにも思えます。
「映し鏡の瞳に映る少女」は、相手の瞳に映る自分の瞳にも相手が映っていることを指しているのでしょう。
「此処じゃない世界」なら出会っていたかもしれない君を渇望している様子が垣間見えます。
この世界でボクは生きているよ
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値札のついた命で
日和見主義な世界だ
惨めでした 惨めでした
ボクには当然ふさわしい
≪失楽園 歌詞より抜粋≫
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世界ではその人の地位や立場によって命の価値を格付けしていて、常に自分の都合のいい方に揺れる日和見主義が横行しています。
その中で主人公の「ボク」はおそらくあまり価値がないとされてきた人物なのでしょう。
周囲からの扱いに惨めさを感じ続けた結果、そんな扱いが「ボクには当然ふさわしい」と自己評価が低くなってしまっていることが分かります。
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泥にまみれたこの手に
配られたカードは
ああ 幸か不幸か 絵柄さえ
汚れに見えてしまうな
これでいい これでいい
空の降った地べたを睨む後世
ボクは生きているよ
≪失楽園 歌詞より抜粋≫
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「泥にまみれたこの手」も主人公の良くない境遇を表していると考えられます。
その手に配られたカードは「絵柄」とあるのでトランプを連想させ、何かのカードゲームが始まりそうです。
このカードは主人公の未来を左右する手札を象徴しているのかもしれません。
しかし、汚れた自分の手にあるカードは絵柄さえ汚れのように見え、すでに人生をかけたゲームに打ち込む意欲もないようです。
それは戦争の歴史を感じるこの世界に期待していないからでしょうか。
それでも「ボクは生きているよ」と叫ぶところに、生きることまで諦めたわけではないことが感じられます。
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トラウマとハイオクで満たしていくんだ
空っぽの心は
拭えども消えない暗闇の黒色
翡翠の音 外光に戸を叩いた
見つけてほしいんだよ
巡る未来世 正鵠を射る
その時間の狭間へ 今
≪失楽園 歌詞より抜粋≫
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主人公は絶望に染まった空っぽの心を抱えながらも、過去のトラウマさえ原動力にして進むことを決意します。
「正鵠を射る」とは物事の要点を正しくおさえることを指す言葉です。
「見つけてほしい」という思いで希望を求めて真っ直ぐ未来へ進もうとする姿が見えてくるかのようです。
ここで出会う君は違う君?
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傷つけることを知って
これだけ人を憎んで
それなのにボクは
君の名前も知らない
これが間違いだと言うなら
これは間違いだと言えたら
どれだけ夢見た世界だろう
ボクらの違わぬ未来へ行こうよ
≪失楽園 歌詞より抜粋≫
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憎むというのはかなり強い感情で、愛とは正反対の意味で相手のことを思う気持ちです。
主人公は自分を傷つけてきた人たちのことはずっと考えてきたのに、大切な「君の名前も知らない」でいることに気づきます。
「名前も知らない」ということは相手のことを何も知らないのと同義と言えるでしょう。
そのことに少なからずショックを受けていると思われます。
だからこんな世界はおかしいと声を上げることができる世界が理想です。
本当は君と出会い、名前を含め様々なことを知って愛していると伝えたいのです。
それで「ボクらの違わぬ未来へ行こうよ」と未来を変えたい気持ちを言い表しています。
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両翼の運命も笑い合う今日も
機関銃の空へ
刹那でも時を止めて見せて お願い
何処かで出会っていた
繋いでいたんだ 此処じゃない世界なら
映し鏡の瞳に映る ボクはきっと知っている
春の事触れ
≪失楽園 歌詞より抜粋≫
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衝撃的なことに遭遇した時、時間が止まってほしいと願うことがあるのではないでしょうか。
主人公も戦争によって「笑い合う今日」が奪われたために「刹那でも時を止めて見せて お願い」と切実に祈ります。
「繋いでいたんだ」とあるのは、手を繋いでいたという意味かもしれません。
こことは違う世界なら、君とただ幸せに手を繋いで走り回ることができていたはずなのにと考えていると解釈できます。
「春の事触れ」とは春が来たことを知らせるという意味なので、植物が芽吹き咲き誇る希望のイメージと言えそうです。
思い描く未来がきっと訪れると信じていることが伝わってきます。
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真実なんてさ どうせ
都合のいい錯覚だろう
どんな言葉も君の目には二度と映らない
幻のまま
≪失楽園 歌詞より抜粋≫
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真実とはうそ偽りのないことであるはずですが、ここでは「どうせ都合のいい錯覚だろう」と投げやりに感情をぶつけています。
おそらく主人公は願いを叶え、君と会うことができたのでしょう。
しかし、違う世界で会った君は愛した君とは違う存在で、「どんな言葉も君の目には二度と映らない幻のまま」となってしまったことに気づいたのだと思われます。
切ない終わりですが、これを新たな出会いと思えば出会えたこと自体を喜べるような気もします。
タイトルに用いられている「失楽園」とは旧約聖書の創世記に記されている挿話で、神に反逆したサタンに唆された人間アダムとイブが禁断の果実を口にして楽園追放となる話のことです。
この楽曲で言えば、自分の欲っするものを追い求めた結果、今ある大切なものを失くしてしまうということを意味していると考察できます。
喪失感や歯がゆさ、期待や希望といった人が持つ様々な感情が込められていることが伝わってきますね。
まふまふ×プラントピアの世界を楽しもう!
『失楽園』は『プラントピア』の物語をまふまふらしい人生観と共に垣間見ることができる楽曲でした。ハルの気持ちとも花人アルファの想いとも取れる歌詞が美しい世界観を際立たせるMVも必見です。
ぜひプロジェクトを追いながら、改めて歌詞の意味を考えてみてください。