劇場アニメ「ぼくらのよあけ」主題歌を考察
2022年10月24日に配信リリースされた三浦大知の『いつしか』は、劇場アニメ『ぼくらのよあけ』の主題歌としてNao'ymtによる作詞作曲で書き下ろされました。『ぼくらのよあけ』は講談社「月刊アフタヌーン」で連載された同名SFジュブナイル漫画を映画化したもの。
2049年の東京の片隅にある団地を舞台に、ロボットと宇宙を愛し地球に接近する彗星に夢中になっていた小学4年生の少年・沢城悠真が、ある日出会った宇宙から来たという未知の存在を宇宙へ帰す重大なミッションに挑む冒険ストーリーです。
その主題歌の『いつしか』にはどんなメッセージが綴られているのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
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いつしか
苦しいほど笑うことも
なくなるのだろうか
いつしか
胸を張り
胸を張り
なくなるのだろうか
いつしか
本当の気持ち
夜に閉じ込めてしまうのだろうか
いつしか
流れ星に気づかず
地面ばかりを見て
歩くのだろうか
≪いつしか 歌詞より抜粋≫
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1番冒頭ではタイトルの「いつしか」のフレーズを用いて、主人公が抱える将来への不安が綴られています。
「苦しいほど笑うこと」や「胸を張り大きな夢を語ること」は、子どもの無邪気さを示しているのでしょう。
まだ子どもの主人公は、自分が思い切り笑い自由に夢を語っているのに対し、大人たちはそうでないことに気づいています。
そして自分もいつしかそんな風になってしまうのだろうかと考えているようです。
また、いつしか自分の「本当の気持ち」を誰にも打ち明けられなくなったり、貴重な流れ星にすら気づかずに俯いて「地面ばかり見て」歩いたりするような、苦しい日々を送るようになるのだろうかとも想像します。
大人になることへの不安、今の楽しさや喜びを感じられなくなることへの寂しさを思う気持ちが伝わってきます。
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忘れないで
今日のことを
期待どおりの
未来じゃなくても
忘れないで
約束しよう
いつかまた
ここで会おう
見上げれば
いつでもそこには
僕らの夜明けが
待っている
≪いつしか 歌詞より抜粋≫
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サビでは「今日」という日に、特別な出会いがあったことが示されていますね。
それによってこれから直面するのが「期待どおりの未来じゃなくても」希望を持っていようと前向きに考えるようになったことが分かるでしょう。
「いつかまたここで会おう」と約束をして、この素敵な思い出を忘れないでと願います。
それはおそらく出会った相手と将来の自分への願いです。
この先難しい日々に苦しむことがあるとしても「見上げればいつでもそこには僕らの夜明けが待っている」ことを忘れず、再会の希望を胸に大人になっていこうという決意を感じさせます。
不安に倒れたらどうか思い出して
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変わっていくことばかり
変わらないことは得難い
信じていられるだろうか
≪いつしか 歌詞より抜粋≫
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歳を重ねるにつれて、多くのものは「変わっていくことばかり」だと気づかされるものです。
街の風景がどんどん変わっていくように、自分自身の外見や考え方も変化し、大切にしたかった交友関係なども自然と変わってしまいます。
しかしだからこそ、その中で数少ない「変わらないこと」が見つかるとすれば、それはとても貴重な宝物です。
主人公はあの日出会って築いた関係もそんな「変わらないこと」のひとつであればいいと考えていると解釈できます。
そして自分は大人になってもそのことをずっと「信じていられるだろうか」と自問し、変わることへの恐れをにじませています。
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いつしか
消えない不安に
君が倒れたら
どうか思い出してほしい
忘れないで
今日のことを
肩を並べ
見つけた世界
忘れないで
約束しよう
いつかまた
ここで会おう
≪いつしか 歌詞より抜粋≫
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主人公は自身も不安を抱えていながら、出会った「君」が同じ不安に苦しむことを心配しているようです。
もし倒れてしまったら、今日一緒に「肩を並べ見つけた世界」のことを「どうか思い出してほしい」と伝えています。
その美しさや胸の高鳴りを思い出したら、きっとまた立ち上がれるはずだと信じているのかもしれません。
これはリスナーに対して語りかけている言葉でもあるように思えます。
子どもの頃に見た景色や出会った人、交わした約束や抱いた夢などは、大人になるにつれて記憶から薄れていってしまいます。
とはいえその中でも覚えているものはきっと自分にとって本当に大切な思い出で、振り返る度に気分を上向きにしてくれるはずです。
常に付きまとう不安に負けてしまいそうな時には、そうしたきらめく記憶を思い出してみてと励ましてくれているかのように感じます。
いつまでも忘れないから
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そろそろ旅立ちのときが来たみたいだ
花火を上げ
みんなで輪になって祝おう
手を広げ
飛び立とう
僕たちはどこへでも行ける
心から
ありがとう
君の明日に届くように
≪いつしか 歌詞より抜粋≫
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「旅立ちのとき」というフレーズは、この楽しかった時間の終わりと別れを意味していると解釈しました。
それでも悲しい別れではなく「花火を上げみんなで輪になって祝おう」と前向きに捉えていることが示されています。
おそらくこの部分には、大人になることは決して怖いことではないというメッセージも込められていると考察できます。
成長するということには責任が伴いますが、「僕たちはどこへでも行ける」という言葉の通り自由を手にすることができるようにもなります。
不安だった主人公がそのことに気づけたのは「君」と出会えたからなのでしょう。
だから「君」がしっかりと未来を進んでいけるように、お返しとばかりに「心からありがとう」と伝えています。
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忘れないから
今日のことを
離れていても
いつまでも
忘れないから
≪いつしか 歌詞より抜粋≫
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最後に「いつまでも忘れないから」と約束します。
別々の人生を歩む2人が再会できるのは、いつになるか分かりません。
それでも希望がある限り、人は強く生きられます。
この歌詞は、大人が聴くと子どもの頃の大切な記憶をいつまでも守っていきたいと思わせてくれるでしょう。
そして同時に、子どもたちにいつまでも忘れたくない思い出を今たくさん作るように教えてくれる優しさが詰まっていて温かい気持ちになりますね。
映画とリンクする世界観に感動!
三浦大知の『いつしか』には幼少期の記憶に触れるような切なさと温もりが感じられる楽曲です。過去も未来も大切にする気持ちは、きっとその人を力づけてくれるはずです。
作品のストーリーとのリンクにも注目しながら、音楽でさらに広がる壮大な世界観を味わってくださいね。