コードブルー作品に欠かせない主題歌「HANABI」
山下智久主演の『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』のドラマシリーズと劇場版の主題歌として愛されるMr.Childrenの33枚目のシングル『HANABI』。物語の中で登場人物たちが悩みながら成長していく様子といつも共にあった楽曲であり、より世界観を引き立てる“6人目の登場人物”とも言われる名曲です。
楽曲の中でどのようなストーリーが描かれているのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
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どれくらいの値打ちがあるだろう?
僕が今生きているこの世界に
すべてが無意味だって思える
ちょっと疲れてんのかなぁ
手に入れたものと引き換えにして
切り捨てたいくつもの輝き
いちいち憂いていれるほど
平和な世の中じゃないし
≪HANABI 歌詞より抜粋≫
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主人公は自分が「今生きているこの世界」の不条理さを目にして、そんな世界に「どれくらいの値打ちがあるだろう?」と少し投げやりな気分でいるようです。
どんなに頑張ってもどうにもならないなら「すべてが無意味だって思える」くらいに、現実の厳しさに苦しんでいます。
それでもそう考えてしまう自分を「ちょっと疲れてんのかなぁ」と表現するところに、主人公の生来の前向きな性格が垣間見えるでしょう。
人生で必要な何かを手に入れるためには、引き換えに大切な何かを犠牲にしなくてはならない場面がたくさんあります。
あまりにも多いので、手放したもののことを「いちいち憂いていれるほど」の暇もありません。
輝きを失っても必死で生きていくしかできない人生の苦しさに、きっと多くの人たちが悩まされています。
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一体どんな理想を描いたらいい?
どんな希望を抱き進んだらいい?
答えようもないその問いかけは
日常に葬られてく
君がいたらなんて言うかなぁ
「暗い」と茶化して笑うのかなぁ
その柔らかな笑顔に触れて
僕の憂鬱が吹き飛んだらいいのに
≪HANABI 歌詞より抜粋≫
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どんな理想や希望を持って進めばいいのかさえ分からなくなる現実。
誰にも答えられない問いかけは、代わり映えせず過ぎていく日常の中に消えてしまいます。
ここで出てくる「君」は、おそらく主人公にとって大切な存在なのでしょう。
疲れてマイナス思考になってしまう主人公を「暗い」と茶化して笑ってくれる明るい人で、その人柄と笑顔にいつも救われていたことが伝わってきます。
しかし「君がいたら」と想像しているため、実際にはそばにいないことも分かりますね。
だからこそ、余計に日常をつらく感じているのかもしれません。
花火のような希望に手を伸ばしたい
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決して捕まえることの出来ない
花火のような光だとしたって
もう一回 もう一回
もう一回 もう一回
僕はこの手を伸ばしたい
誰も皆 悲しみを抱いてる
だけど素敵な明日を願っている
臆病風に吹かれて 波風がたった世界を
どれだけ愛することができるだろう?
≪HANABI 歌詞より抜粋≫
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サビの歌詞ではタイトルでもある「HANABI(花火)」のフレーズが登場します。
花火は力強く鮮明に輝くのに、すぐに儚く消えてしまうものです。
そして目の前にあるかのように大きいのに、決して手の届かないところにあります。
主人公は自分自身にとっての希望を、そんな遠く儚い花火の光と重ねて見ているようです。
それでも「もう一回 僕はこの手を伸ばしたい」と、目の前の希望を諦めたくないという想いをはっきり示しています。
もちろん「誰も皆 悲しみを抱いてる」状況は変えられませんが、同じく誰もが「素敵な明日を願っている」ことも事実です。
「臆病風に吹かれて波風がたった世界」とは未来への不安のあまり、誰も行動できないせいで問題ばかりが押し寄せていることを表している状態と解釈しました。
希望を掴み取れるかどうかは、そんな世界を受け入れてどれだけ愛することができるかにかかっているのかもしれませんね。
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考えすぎで言葉に詰まる
自分の不器用さが嫌い
でも妙に器用に立ち振舞う自分は
それ以上に嫌い
笑っていても
泣いて過ごしても平等に時は流れる
未来が僕らを呼んでる
その声は今 君にも聞こえていますか?
≪HANABI 歌詞より抜粋≫
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考えて話すことは大切ですが、考えすぎて何をどう言えばいいか分からなくなるということもあるでしょう。
主人公はそんな「自分の不器用さが嫌い」と明かしています。
かといって不器用さを隠すために上辺だけ繕って「妙に器用に振る舞う自分はそれ以上に嫌い」と、自分らしさについて悩んでいる様子が読み取れます。
どんな風に日々を過ごそうと、必ず平等に時間は流れていくものです。
未来が呼ぶ声が「今 君にも聞こえていますか?」という言葉に、もう隣にはいない「君」を大切に想い心配する気持ちが表れているように感じます。
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さよならが迎えに来ることを
最初からわかっていたとしたって
もう一回 もう一回
もう一回 もう一回
何度でも君に逢いたい
めぐり逢えたことでこんなに
世界が美しく見えるなんて
想像さえもしていない 単純だって笑うかい?
君に心からありがとうを言うよ
≪HANABI 歌詞より抜粋≫
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「さよならが迎えに来る」とあるように、出会いがあれば別れがあります。
医療ドラマである『コードブルー』の内容と合わせると、死を表現しているフレーズとも考察できるでしょう。
いつかはやがて死に別れてしまうのが人の常ですが、そうして別れてしまっても「何度でも君に逢いたい」と願います。
それはその人とめぐり会えたことで、想像もしていないほど世界が美しく見えたから。
きっと単純だと笑われてしまうけれど本当にそう感じたから「君に心からありがとうを言うよ」と告げる主人公の温かい気持ちが表現されています。
透き通る水のような心であるために
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滞らないように 揺れて流れて
透き通ってく水のような
心であれたら
≪HANABI 歌詞より抜粋≫
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この楽曲を制作する際、Mr.Childrenの桜井和寿は自身が飼っている金魚の世話の中でインスピレーションを受けました。
水槽にあらかじめ水を溜めて塩素を除去する薬を入れて水を替えていたところ、水を替える度に金魚が衰弱していく事態に。
すると相談を受けたペットショップの店員が、水は絶えず動いて新鮮な空気を取り込まないと腐り、死んでしまうということを教えてくれたそうです。
その話を聞き、人の心も水と似ていて楽しんだり悲しんだりと常に揺れ動くことで澄んだ心になると思い、それがこの部分の歌詞に反映されました。
放っておくと悪感情やネガティブな気持ちで淀んで汚れていってしまう心。
だから滞らないように様々な感情と向き合っていき「透き通ってく水のような心であれたら」という純粋な願いに納得できますね。
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逢いたくなったときの分まで
寂しくなったときの分まで
もう一回 もう一回
もう一回 もう一回
君を強く焼き付けたい
誰も皆 問題を抱えている
だけど素敵な明日を願っている
臆病風に吹かれて 波風がたった世界を
どれだけ愛することができるだろう?
≪HANABI 歌詞より抜粋≫
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まだ死という本当の別れが来るまで時間があるなら「逢いたくなったときの分まで 寂しくなったときの分まで」目と心に「君を強く焼き付けたい」と強く思っています。
問題のない人生を送れている人は、きっと一人もいません。
そして全ての人が問題を抱えながらも素敵な明日を願い、花火のように儚い命を懸命に生きています。
問題も不安も多いこの世界をこれからどれだけ愛していけるかはまだ未知数でも、愛していきたいと考えていることが伝わってくるのではないでしょうか。
今目の前にいる愛する人との時間を大切にしたい、もし別れが来ても希望を持ち続け恥じない生き方をしていきたいという想いが、歌詞で繰り返される「もう一回」のフレーズに込められているように感じます。
Mr.Childrenの名曲で人生を考える
メンバー全員の納得が得られず一度はお蔵入りしたものの、再度Aメロから作り直して完成させたという『HANABI』。そこまでこだわって制作されたからこそ、別れを描きながらもミスチルらしい優しさに満ちた楽曲となっています。
心を掴む名曲を聴きながら、自分の人生や別れについてじっくり考えてみませんか?
1992年ミニアルバム「EVERYTHING」でデビュー。 1994年シングル「innocent world」で第36回日本レコード大賞、2004年シングル「Sign」で第46回日本レコード大賞を受賞。 「Tomorrow never knows」「名もなき詩」「終わりなき旅」「しるし」「足音 〜Be Strong」など数々の大ヒット・シングル···