アニメ「チェンソーマン」の第5話ED
『うっせぇわ』をはじめ数々の人気作で注目されるsyudouが2022年11月9日に配信リリースした『インザバックルーム』は、TVアニメ『チェンソーマン』第5話のエンディングテーマです。モテたくて音楽を始め現在も続けていると語るsyudouは、この点で主人公のデンジにシンパシーを感じているそう。
それで楽曲を担当するにあたり「自分がデンジだったらどんな曲を作るのか」と考え、「おそらく彼なら自分の感情を叫び散らすのだろう」という結論から生まれたのが『インザバックルーム』です。
タイトルの「インザバックルーム」とは、海外の都市伝説を指す“クリーピーパスタ”のひとつ。
2019年に英語圏の大型匿名掲示板・4chanに投稿された画像を元に、ユーザーが様々なストーリーを加えることによって生まれたインターネットミーム「The Backrooms」に由来しています。
そのストーリーは、間違った場所で現実から抜け出してしまうと何もないオフィスが無限に広がる空間に落ちてしまい、そこから出られなくなるというものです。
この楽曲が起用された第5話ではデンジたちが悪魔の力でホテルに閉じ込められてしまうため、アニメの内容にぴったりのモチーフといえるでしょう。
どのような歌詞なのか、詳しく意味を考察していきます。
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ちょっと待ってやっぱよくないって
明日も続く地獄だね 出口が無い
一切見つからないんだけど
アナタなんか知ってる?
思えば出会いは単純だった
キツめの酒を喰らった様に
頭がぐらぐらぐらした
そして目が合った
≪インザバックルーム 歌詞より抜粋≫
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冒頭から、出口が見えず無限に続く空間にいることへの不安や戸惑いが表現されています。
曲の主人公をデンジと捉えるなら、「出会い」はチェンソーの悪魔・ポチタやマキマとの出会いのことと解釈できそうです。
それまでの人生を一変させるようなそれらの出会いは衝撃的で、「キツメの酒を喰らった様に頭がぐらぐらぐらした」という歌詞ともマッチします。
またsyudou自身の目線で考えると、ファンを公言している米津玄師の音楽と出会い、音楽の道に進んだことを回想しているようでもあります。
どちらにしても、目標を持って進む途中で迷いや壁にぶつかり抜け出せなくなる様子を「The Backrooms」になぞらえて描いているようです。
重なるデンジとsyudouの想い
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一瞬の新興と引き換えに
一生と心臓を渡すのさ
永遠続く不安と悪夢
目覚めた時には毒虫になっていた
≪インザバックルーム 歌詞より抜粋≫
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自分の「一生と心臓」を捧げ、デビルハンターとして生きるデンジ。
ポチタと共に送った普通の食事もままならない生活は、確かに「永遠に続く不安と悪夢」の言葉通り彼を苦しめてきました。
そして公安のデビルハンターとして生活が保障されてからも、今度は自分の中に目指すべきものがないことへの言いようのないもどかしさを抱えている様子にも繋がる歌詞ですね。
「目覚めた時には毒虫になっていた」というフレーズは、フランツ・カフカの小説『変身』のストーリーを思い起こさせます。
目覚めると巨大な毒虫になっていた男性の視点で社会の不条理を描いた作品で、主人公は醜く役に立たない存在として家族にも蔑まれ、最後には孤独に死を迎えてしまいます。
これは5話で胸を揉むという夢が叶ったのに、思うような高揚感が得られなかった時のデンジの心境といえるかもしれません。
頑張って追いかけてきた夢が大したものではなかったと気づいた瞬間の虚無感は、自分自身やその努力を無価値なものに思わせてしまうのではないでしょうか。
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知ったこっちゃないって言われる様な
価値も意味も無いプライドの理由は何一体
気づいていない様で実は全部知ってる
求愛だ崇拝だふざけんな
無い方が楽勝に生きれるさ
散々流してきた涙
救いもせずただ音楽は鳴っていた
だけどさっさと切るべきプライドを
一つも捨てずに成し遂げる
愛した苦汁と辛酸だ
一粒も残さず飲んでやる
≪インザバックルーム 歌詞より抜粋≫
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周囲にとっては価値も意味もなくて「知ったこっちゃない」と言われてしまうようなプライドが、人の原動力になるものです。
自分自身ですらはっきり分からないとしても、心の中には頑張る理由としてしっかりと根づいているはずです。
「求愛」や「崇拝」など誰かを求める感情は、同時に傷つく原因にもなり得るので「無い方が楽勝に生きれる」と感じるのも無理はありません。
syudouも音楽の分野で憧れの対象がいるからこそ、そこに届かない歯がゆさや葛藤が理解できるのでしょう。
それでも「さっさと切るべきプライドを一つも捨てずに成し遂げる」と宣言しています。
プライドによって飲まされた「苦渋と辛酸」を愛し「一粒残らず飲んでやる」という歌詞から、全てを乗り越えて前へ進もうとする気合いが伝わってきます。
憧れに出口はない
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一種の若気の至りだと
舐めてた奴らに恥かかす
こっちは生まれたその日から
言葉と刃なら研いである
思えば出会いは単純だった
恥に恥を塗る生涯だった
それでも俺は一つ勝ち取った
眠れぬ夜や消えぬ後悔が
何度も何度も何度も何度も
何度もあったがここで歌っている
≪インザバックルーム 歌詞より抜粋≫
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夢を追いかけて頑張っていると「一種の若気の至りだ」と否定してくる人もいますよね。
音楽のような厳しい世界では特に、そういう反応を見ることが多いでしょう。
実際、今では人気アーティストとなったsyudouもボカロPとしてうまくいかず、就職していた過去があります。
しかし、就職してからも活動を続けられたのは、いつかその「舐めてた奴らに恥かかす」という反骨精神を持っていたからだと思われます。
成功するまでの間は不安や後悔を何度も味わい「恥に恥を塗る生涯」だったものの、自分の武器を磨き続けた結果、憧れの人がオープニングテーマを務めるアニメで自分も歌うというひとつの勝利を得ました。
その苦難と成功の体験は、苦しい境遇の中を生きてきたデンジが悪魔への勝利や人としての気づきを得ていく姿と重なります。
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ジャンクで汚れたこの声で
うるせぇ外野を黙らせる
アンタがとやかく言わずとも
こちら側が殴り込んでやる
邪悪な輩と蔑んだ
奴らの思考の外に出る
愛だかなんだか知らねぇが
望み通り深く堕ちてやるんだ
≪インザバックルーム 歌詞より抜粋≫
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周囲がどう言おうと、また憧れの人から反応がないとしても自分の決めた通りに行動する決意が言い表されています。
「邪悪な輩と蔑んだ奴らの思考の外に出る」のフレーズは、誰も想像がつかないような方法で戦って必ず勝利してみせるという想いを反映していると解釈しました。
デビルハンターもアーティストも、他者を圧倒するような戦い方で挑まなければ敵に飲み込まれてしまうという意味で似ている存在といえるかもしれませんね。
そして愛をまだ知らないデンジが、本当の愛を求めて力強く戦い続ける心境を覗き見ているような気持ちになります。
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辿り着いたぜアンタの背だけを追って
この呪縛と束縛逃れてやるから
ちょっと待ってやっぱまたループ
like the backroom 憧れに出口は無い
実際まだ出れないんだけど
アナタなんか知ってる?
≪インザバックルーム 歌詞より抜粋≫
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「辿り着いたぜアンタの背だけを追って」の歌詞には、目標とする人に近づけた喜びが込められています。
「この呪縛と束縛」の表現は暗く聞こえますが、最後に「憧れに出口はない」とあるように心が惹かれてやまない憧れの気持ちを示しているのではないでしょうか。
いつかは追いかけるのではなく追い越して、この呪縛と束縛から逃れてやるという熱い想いが感じられます。
しかし、追いついたと思ってもまた離されては追いかけてを繰り返すさまは、延々とループして逃れられない「The Backrooms」のようです。
これからも変わらず憧れの人を追い続けられることへの喜びや楽しさが滲むような歌詞ですね。
強い気持ちで進む姿がかっこいい!
『インザバックルーム』はsyudou自身の持つ感情に、デンジの気持ちを重ねた歌詞が印象的です。綴られている不安や戸惑い、愛や憧れは誰しもが心に秘めている感情です。
歌詞をアニメのストーリーやsyudouの軌跡と重ねると共に、自分自身にも当てはめながら聴くときっと諦めずに進むためのパワーをもらえますよ。