北原白秋作詞の子守歌「揺籃のうた(ゆりかごのうた)」とは
童謡『揺籃のうた(ゆりかごのうた)』は日本を代表する詩人・北原白秋が作詞を務め、1921年に雑誌『小学女生』にて発表された子守歌です。
ゆりかごが「揺籃(ようらん)」と呼ばれることから、子守歌は別名“揺籃歌(ようらんか)”とも呼ばれています。
そんなゆりかごをモチーフにした歌詞を草川信作曲の優しいメロディにのせて歌うこの楽曲は、まさにゆりかごの中の子供を寝かしつける子守歌にふさわしい曲です。
第二次世界大戦後に教科書の編纂(へんさん)が文部省から民間出版社に変わったことを機に、“平和になった社会を守る子供たちに”という願いから、学校でも歌われるようになりました。
2007年には日本の歌百選にも選出され、日本を代表するわらべ歌として今なお親しまれています。
しかし、どんな歌詞なのかあまり意識したことがないという方もいるのではないでしょうか?
さっそく4番まである歌詞の意味を考察していきましょう。
カナリヤが子守歌を歌う春
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揺籃のうたを
カナリヤが歌う よ
ねんねこ ねんねこ
ねんねこ よ
≪揺籃のうた 歌詞より抜粋≫
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『揺籃のうた』の歌詞の特徴は、自然のものを登場させることで奥行きのある情景を想像させているといえるでしょう。
1番では黄色い羽色の小鳥「カナリヤ」が出てきます。
見た目の色鮮やかさや可愛らしさでも知られているカナリヤですが、美しい歌声を持つ鳴禽(めいきん)でもあります。
さらに音声学習能力もあって実際に様々な歌を覚えて歌う鳥なので、「揺籃のうたをカナリヤが歌うよ」の歌詞はファンタジーのようでいて事実に基づいたシーンです。
江戸時代から昭和初期まで、人々は家族の人手が足りない時に赤ちゃんを世話する子守奉公を雇うのが習慣となっていました。
子守娘が赤ちゃんのために歌う子守歌を聴いていたカナリヤが、その子守歌代わりに自身の歌声を聴かせてあげている様子が見えてくるかのようです。
何とも穏やかで優しい世界観ですよね。
そして後半では「ねんねこねんねこねんねこよ」と繰り返されているのも印象的です。
「ねんねこ」という表現は、江戸時代からわらべ歌などでよく用いられていたフレーズ。
眠ることを意味する幼児語で、重ねて使うことで子供をあやして眠らせる時に使っていたそうです。
昔ながらの言葉を用いることによって、多くの人になじみやすく歌いやすい歌にしたかったのかもしれませんね。
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揺籃のうえに
枇杷の実が揺れる よ
ねんねこ ねんねこ
ねんねこ よ
≪揺籃のうた 歌詞より抜粋≫
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2番では「枇杷(びわ)の実」が登場します。
枇杷の実は3月中旬から4月にかけて大きくなり、5月から6月頃が収穫の時期です。
「揺籃のうえに枇杷の実が揺れるよ」と歌われているため、この曲の時期は4月から6月頃と考えられるでしょう。
春のうららかな陽気の中、ゆりかごの上に枇杷の葉と実の影が落ちて揺れています。
まるで赤ちゃんが眩しくないように、陰を作っているかのような光景です。
「木ねずみ」はねずみじゃない?
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揺籃のつなを
木ねずみが揺する よ
ねんねこ ねんねこ
ねんねこ よ
≪揺籃のうた 歌詞より抜粋≫
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3番に出てくる「木ねずみ」は、ねずみのことではありません。
“木鼠”と書いてリスと読むので、これはリスのことだと分かります。
ここではリスがゆりかごの綱を揺すって、赤ちゃんが心地良く眠れるようにしている風景が想像できますね。
もしかしたら子守娘がそばを離れた間に、赤ちゃんがぐずってしまったのかもしれません。
そんな赤ちゃんを「ねんねこねんねこねんねこよ」と優しくあやすリスの姿を思い浮かべると心が温まります。
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揺籃のゆめに
黄色い月がかかる よ
ねんねこ ねんねこ
ねんねこ よ
≪揺籃のうた 歌詞より抜粋≫
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4番では時刻は夜になり「黄色の月」が出てきます。
ゆりかごの中で眠る赤ちゃんは、どんな夢を見ているのでしょうか?
その夢を照らすかのように、窓の外から柔らかい月の光がゆりかごに降り注いでいます。
こうして赤ちゃんの穏やかな一日は幕を閉じるのです。
赤ちゃんを大切にする気持ちが伝わる子守歌
『揺籃のうた』の歌詞を振り返ると主に黄色っぽいモチーフが使われていて、温かみのあるイメージがより伝わってきます。子供への愛おしい気持ちやしっかり眠って大きく成長するようにという願いさえ見えてくるかのようです。
北原白秋が込めた優しい想いを想像しながら赤ちゃんに歌ってあげたい名曲です。