「人柱アリス」のタイトルに込められた意味とは
『人柱アリス(ひとばしらありす)』は2008年4月30日にニコニコ動画に投稿された雪那(歪P)のデビュー曲。
初投稿でありながらKAITO、MEIKO、初音ミク、鏡音リン、鏡音レンというクリプトン社製の全てのボーカロイドを用い、『不思議の国のアリス』をモチーフとしたホラーな雰囲気で注目されました。
オリジナルMVのイラストは雪那(歪P)本人によって描かれたものですが、歌詞の解釈から様々なPVが生まれたことでも話題となった人気ボカロ曲です。
タイトルにある「人柱」は人身御供の一種で、大規模な建設工事などの難事を成し遂げるために生きた人間を水や土に沈めていけにえにすることで、転じてある目的のために犠牲になることを意味します。
つまり“アリス”が何かの犠牲になったということのようです。
『人柱アリス』はまず次の前口上から始まります。
あるところに、小さな夢がありました。
だれが見たのかわからない、それは小さな夢でした。
小さな夢は思いました。
このまま消えていくのはいやだ。
どうすれば、人に僕を見てもらえるだろう。
小さな夢は考えて考えて、そしてついに思いつきました。
人間を自分の中に迷い込ませて、世界を作らせればいいと。
歌詞の内容については「ボカロ達の経緯」であるとコメントされていることを踏まえると、舞台はニコニコ動画だと考えられます。
コンテンツへの注目度を上げて活発化させるために、生身の人間の代わりとなるいわば“いけにえ”としてボーカロイドを使い、世界を広げようとしている様子と捉えられるでしょう。
アリスとして世界に取り込まれたボーカロイドたちがどうなっていったのか、気になる歌詞の意味をじっくり考察していきましょう。
ボーカロイド人気のの火付け役となったMEIKOとKAITO
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一番目アリスはいさましく
剣を片手に、不思議の国。
いろんなものを斬り捨てて、
真っ赤な道を敷いていった。
そんなアリスは、森の奥。
罪人のように閉じ込められて。
森にできた道以外に、
彼女の生を知る術はなし。
≪人柱アリス 歌詞より抜粋≫
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「一番目アリス」は初代ボーカロイドのMEIKOのことです。
2004年誕生の最初の日本語版ボーカロイドということもあり、世界を切り拓こうと「いさましく剣を片手に」進む剣士のようにやる気に満ちあふれていました。
MEIKOの歌声は肉声と比べればまだ不自然さが残っていたものの、個人で気軽に女性ボーカルが制作できることからアマチュアDTM愛好家の支持を得ました。
そのように製品としての問題と戦いながら進んでいきましたが、やがて森の奥で「罪人のように閉じ込められて」しまいます。
これは売り上げが伸び悩んだことや、新たなボーカロイドの誕生で注目されなくなっていったことを示しているのでしょう。
ニコニコ動画やボカロ曲に繋がる道を切り拓いたことは確かでしたが、MEIKOの存在は忘れ去られていってしまいます。
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二番目アリスはおとなしく
歌を歌って、不思議の国。
いろんな音を溢れさせて、
狂った世界を生みだした。
そんなアリスは、薔薇の花。
いかれた男に撃ち殺されて。
真っ赤な花を一輪咲かせ
皆に愛でられ枯れていく。
≪人柱アリス 歌詞より抜粋≫
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「二番目アリス」はMEIKOに続いて2006年に登場した日本語版初となる男性ボーカロイド・KAITOです。
音楽制作用ボーカロイドとしてあらゆるジャンルを広く歌いこなすとされ、「いろんな音を溢れさせて」新たな世界の可能性を生み出します。
ところが男性ボーカルの需要は少なかったため、MEIKOほど売上が伸びず活動の勢いは「おとなしく」停滞していました。
そんな二番目アリスを撃ち殺した「いかれた男」とは、期待通りの結果にならなかったことに混乱したKAITO自身なのかもしれません。
ニコニコ動画へ参入してからやや盛り上がりを見せたものの、徐々にネタ的なキャラクターとして位置づけられるようになっていきます。
そのようにして当初の想定とは違う思わぬ方向で消耗されて「枯れて」いきました。
ボカロ界をさらに盛り上げた初音ミク・鏡音リン・鏡音レン
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三番目アリスは幼い娘。
綺麗な姿で不思議の国。
いろんな人を惑わせて、
おかしな国を造りあげた。
そんなアリスは、国の女王。
歪な夢にとり憑かれて。
朽ちゆく体に怯えながら、
国の頂点に君臨する。
≪人柱アリス 歌詞より抜粋≫
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「三番目アリス」はバーチャルシンガーとして2007年8月に登場した初音ミクのことを表しています。
イラストレーターのKEIによって生み出された「幼い娘」の姿は親しみやすく、発売直後から爆発的なヒットを記録。
キャラクターに歌わせるというイメージ戦略によりボカロという音楽ジャンルを大きく飛躍させていき、「国の女王」となりました。
しかし頂点に立つということは、いずれ落ちていく存在であるとも言えます。
そのため消えていった一番目と二番目のアリスのように、いつかこの人気が廃れていってしまうことに常に怯えています。
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森の小道を辿ったり
薔薇の樹の下でお茶会
お城からの招待状は
ハートのトランプ
四番目アリスは双子の子。
好奇心から、不思議の国。
いろんな扉を潜り抜けて、
ついさっきやって来たばかり。
気の強い姉と、賢い弟。
一番アリスに近かったけど。
二人の夢は、覚めないまま。
不思議の国を彷徨った。
≪人柱アリス 歌詞より抜粋≫
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「四番目アリス」は初音ミクに続く“キャラクター・ボーカル・シリーズ(CVシリーズ)”第2弾として2007年12月に登場した「双子の子」、鏡音リンと鏡音レンです。
2人の歌唱序盤の歌詞には、これまでのアリスたちにまつわるフレーズが出てきます。
これはおそらくMEIKO・KAITO・初音ミクが歌ってきたオリジナル曲をカバーすることによって、ボカロ曲とニコニコ動画の世界に入って来たことを表現していると考察できます。
ソロでもデュエットでも幅広い用い方ができるという意味で「いろんな扉を潜り抜けて」新たなアリスとして加わりました。
続く「一番アリスに近かった」というフレーズは、これまでのボーカロイドたちの中で最も人間の肉声に近い声であることを意味していると解釈できそうです。
人の声には近いものの、まだ国に来たばかりの2人には女王である初音ミクという存在を越えることはできません。
だから「二人の夢は、醒めないまま」自分たちの居場所を探して彷徨うことになったのです。
あなたはどう考察する?
『人柱アリス』はボーカロイドの歴史というテーマを独特な世界観で表現した作品です。バージョンアップしながら今もなお活躍を続けるボーカロイドたちが当時置かれていた厳しい状況をふまえると、より歌詞の意味が解釈しやすくなります。
ほかにも無限ループ説やレンをメインにした説などあらゆる考察ができるので、ぜひ自分なりに歌詞を考察をして楽しんでくださいね。