沖縄の豊かな自然の風景を描く歌詞が魅力
『芭蕉布(ばしょうふ)』は作詞を吉川安一が、作曲を普久原恒男が担当し、沖縄系ハワイ3世のクララ新川が歌唱を務めて1965年に発表された沖縄歌謡。NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』の89話にて、披露宴を迎えた主人公・暢子が母・優子に感謝を伝えるシーンで流れていたことで、さらなる注目を集めています。
日本にも沖縄にもない曲を求めて生み出されたメロディは、一般的な沖縄音楽とは異なる三拍子のリズムに一部アクセントとして琉球音階を使用。
懐かしさを覚えるような心地良さがあります。
さらに沖縄語で展開される歌詞が沖縄の人たちの心を掴み、やがて夏川りみら多くのアーティストによってカバーされ全国的に広まっていきました。
沖縄の文化が息づく『芭蕉布(ばしょうふ)』の歌詞の意味をさっそく考察していきましょう。
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海の青さに 空の青
南の風に 緑葉の
芭蕉は情に 手を招く
常夏の国 我した島沖縄
≪芭蕉布 歌詞より抜粋≫
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目前には抜けるような青空と透明度の高い青い海が広がり、南から吹く暖かい風が芭蕉の大きな葉を揺らしています。
そんな自然の風景が短い言葉でまとめられ、美しい沖縄の景色をありありと映し出す歌詞が魅力的ですね。
「芭蕉は情に手を招く」というフレーズは、風に揺れる芭蕉の葉がまるでこちらを手招いているように見えることを表現しています。
この擬人化した歌詞から、沖縄の風景の温かみと人の優しさを重ねていると解釈できそうです。
「我した」は「私たち」という意味で、「島」は文字通りの島と故郷の両方を指すため、「我した島沖縄」は「私たちの故郷の島 沖縄」と歌っていることになります。
自分の故郷は美しい自然と人の優しさを感じる、温かみある島なのだという誇らしさがうかがえます。
歴史感じる首里城へ続く石畳
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首里の古城の 石だたみ
昔を偲ぶ かたほとり
実れる芭蕉 熟れていた
緑葉の下 我した島沖縄
≪芭蕉布 歌詞より抜粋≫
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「かたほとり」は片田舎や町外れといった意味の古語です。
首里城に続くどこかひっそりとしている石畳の道を歩きながら、琉球王朝時代の様子に思いを巡らす人たちの姿が浮かんできます。
首里城は1945年の太平洋戦争中の沖縄戦に巻き込まれ破壊されてしまい、『芭蕉布』ができた当時はまだ復元されないままでした。
失われた古城に思いを馳せ、そこに形はなくても遺り続ける歴史を大切にする気持ちが込められているように感じます。
そして戦争のつらさを知っているからこそ、平和を象徴するような空や海の青さがより眩しく感じられるのでしょう。
ただ美しいだけでなく、文化と伝統が根づく沖縄の歴史を感じることができる歌詞ですね。
後半には「実れる芭蕉」とありますが、芭蕉にはバナナに似た実がなります。
石畳から視線を上げると芭蕉の大きな葉の下に実が熟しているのが見え、歴史と自然が共存する景色に目を奪われます。
芭蕉布を作る女性たちの想い
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今は昔の 首里天ぎゃなし
唐ヲゥーつむぎ はたを織り
じょうのうささげた 芭蕉布
浅地紺地の 我した島沖縄
≪芭蕉布 歌詞より抜粋≫
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「首里天(すいてん)」は1429年から1879年まで存在した琉球王朝のことで、「じゃなし」は国王の敬称です。
漢字では首里天加那志と表記され、「首里の国王様」という意味があります。
次の「唐ヲゥーつむぎ」は芭蕉の茎の繊維を紡いでいることを表しています。
芭蕉布は芭蕉の茎の繊維を編んで作る麻に似た風合いの織物で、着物や帯などに用いられてきた国の重要無形文化財です。
芭蕉の木を育てることから始まり、繊維を紡ぎ編むという手間のかかる工程を丹念に行う女性たちの細やかな手仕事の様子が想像できます。
「上納ささげた」とあることから、当時は琉球王朝に年貢や租税として芭蕉布を納めていたことが分かるでしょう。
「浅地紺地(あさじくんじ)」は、浅く染めた布地と濃い藍色に染めた布地のことです。
沖縄民謡では藍の色は愛情の深さのたとえとして使われ、浅地は浅く薄い愛情、紺地はより深い愛情を意味するようです。
おそらく芭蕉布の色彩の豊かさを表すと共に、そこに込められた様々な想いを表現しているのではないでしょうか。
昔から続く文化を守りながら今の時代を大切に生きる様子が伝わってきます。
沖縄の伝統の素晴らしさを感じる名曲!
沖縄民謡として愛されてきた『芭蕉布』は、歴史と伝統と自然の豊かさという沖縄の魅力が凝縮した楽曲です。琉球王朝の時代から続く伝統工芸を通して受け継がれている沖縄県民の想いや志が感じ取れるでしょう。
色彩豊かな美しい風景を思い描きながら、穏やかな曲の世界観に浸ってみてください。