アイドルVTuber「星街すいせい」による革命ソング
YouTubeに約5000万人以上のファンを持つVTuberグループ「ホロライブ」。VTuberは、架空のCGキャラクターを用いてライブ配信や音楽活動を行うYouTuberを意味します。
星街すいせいは、2018年に彗星のごとくデビューを飾った、ホロライブ所属のアイドルVTuber。
『Stellar Stellar』や『みちづれ』などの人気曲で知られる、ホロライブ0期生のバーチャルアイドルです。
そんな星街すいせいが、2023年1月29日にデジタルシングル『先駆者』を配信リリースしました。
『先駆者』は、同年1月28日に開催された2ndワンマンライブ「Shout in Crisis」で初披露された1曲。
作詞作曲および編曲は、フジファブリックの山内総一郎(Vo/G)が手がけています。
勇ましく前進するような、重厚なリズムで展開される『先駆者』。
革命の雰囲気が漂うその歌詞には、果たしてどのような意味が込められているのでしょうか。
限りある人生、高鳴る方へ
まずは1番の歌詞から考察していきます。
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消えはしないで 闇深いほどに隠せない
何処に居ようが 輝くものしか此処にない
≪先駆者 歌詞より抜粋≫
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「消えはしないで 闇深いほどに隠せない」のは、先駆者の情熱や希望でしょうか。
アートなりビジネスなり、新しい道を開拓しようと突き進むのが「先駆者」というもの。
目の前に明かりがないからこそ、自身の情熱や希望がより輝いて見えるのかもしれません。
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日々は一進一退 落ち着かない
絶えない傷でもギリギリが良いって 可笑しいかい?
「いつかきっと」じゃ何にも刺激はない 確かなビートが示してる方へ行けよ
≪先駆者 歌詞より抜粋≫
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先駆者である主人公にとって、大きな進展のない日々は「落ち着かない」退屈なもののようです。
「いつかきっと」と理想論だけを語るのではなく、傷だらけになってでも我が道をゆくのが先駆者の性(さが)なのでしょう。
たとえ周囲に笑われても、鼓動が高鳴る刺激的な方へと主人公は前進します。
次に、サビの歌詞を見てみましょう。
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咲かせ、咲かせよ、咲かせきるまで
澄み切る闇は無限の木立
旅する理由は理屈じゃないの。
瞬く生命よ 咲き誇れ!
≪先駆者 歌詞より抜粋≫
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「咲かす」という言葉は、能力の開花や努力の結実を表していると解釈できそうです。
続く歌詞は「澄み切る闇は無限の木立」。
多くの人が敬遠する闇(不安定で先の見えない未来)を、主人公はポジティブに肯定しているようですね。
真っ暗な木立は、先駆者にとって咲き放題で光り放題の、絶好のステージなのでしょう。
そしてそこに惹かれる理由は理屈ではなく、ただワクワクと気持ちが高まるから。
「いつかは消えゆく生命(いのち)なら、今こそ胸の高鳴りのままに力を発揮したい!」というのが主人公の意志なのかもしれません。
まだ見ぬ時代へ、一陣の風を
続いて、2番の歌詞を見ていきます。
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殻に篭って 怯える背に吹く風はない
受けて立とうか 開拓者たちの夢の跡
自分に期待して何が悪い
本当の敵も味方も己って ほら明快
だから正気と狂気できりきり舞
次から次へと過去に手を振っていけよ
≪先駆者 歌詞より抜粋≫
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「殻に篭(こも)って」いれば、きっと向かい風に吹かれることはありません。
しかし同時に、追い風を味方につけることもできなくなります。
だからこそ主人公は、「開拓者たちの夢の跡」に飛び出そうと意気込んでいるのでしょう。
この「開拓者たちの夢の跡」という表現からは、主人公が目標の場所を「自分のような先駆者が栄えては消える無常の世界」と捉えていることが読み取れます。
そう悟りながらも、自分自身に期待し、己に勝つべく「正気と狂気」のギリギリのラインを奔走している様子。
主人公は、きりきり舞(=慌ただしく活動している状態)の日々のなか、したたかな克己心をもって今だけに集中したいのでしょうね。
続いて、サビの歌詞です。
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鳴らせ、鳴らせ、胸のファンファーレ
踏み出す先は未開の時代
立ち止まってる時間はないの。
一陣の風を 巻き起こせ!
≪先駆者 歌詞より抜粋≫
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「鳴らせ、鳴らせ、胸のファンファーレ」というフレーズは、歴史を変えるような大革命の幕開けを予感させます。
先駆者が目指す方向は、まだ見ぬ「未開の時代」です。
立ち止まることはせず、激しい風を吹かせて木立を揺らす。
闇を裂いて成し遂げる大革命こそ、主人公が巻き起こしたい「一陣の風」なのではないでしょうか。
儚い一生に咲き誇れ!
最後に、終盤の歌詞を考察します。
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壁を作るな、足を止めるな
無常の嵐 差す傘は無し
永遠など望みはしないの。
今を満たしたいわ
≪先駆者 歌詞より抜粋≫
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「壁を作るな、足を止めるな」は、「殻の中で生きるな!茨の道を突き進め!」と自身を鼓舞しているかのようです。
続く歌詞は「無常の嵐 差す傘は無し」。
「無常の嵐」は、多くの者が現れては消える、自ら選んだ道の厳しさを表現しているのではないでしょうか。
主人公は、そんな厳しい世界に身一つで挑もうとしているのでしょう。
また、彼女が望んでいるのは「永遠」ではなく「今を満たすこと」。
単調な毎日に安住するより、刺激的な人生を送ることを心から望んでいることが伝わってきますね。
それでは最後のサビを見てみましょう。
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咲かせ、咲かせよ、咲かせきるまで
澄み切る闇は無限の木立
まだ砕け散る此の身じゃないの。
瞬く生命よ 咲き誇れ! さあ行こうぜ!!
≪先駆者 歌詞より抜粋≫
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ひと花もふた花も咲かせようと、我が道を突き進む主人公。
「まだ砕け散る此(こ)の身じゃないの。」からは、夢破れて枯れ落ちる気はさらさらないという気概が伝わってきます。
曲の冒頭にあった「輝くものしか此処(ここ)にない」という歌詞にも通じるものがありますね。
最後に放たれるのは「瞬く生命よ 咲き誇れ!さあ行こうぜ!」という力のこもった一声。
ちらちらと「瞬(またた)く生命」は、儚い一生を駆け抜ける主人公のことだとも考えられますが、「くすぶったまま動けないでいる抑圧された人たち全般」とも解釈できそうです。
『先駆者』は、聴く人の心にも火をつける、重厚で強大な「革命ソング」といえるのではないでしょうか。
無常を悟る「先駆者」の叫び
今回は、星街すいせい『先駆者』の歌詞の意味を考察しました。ところどころ女性的な言い回しがありながら、終始パワフルで雄々しい雰囲気のある楽曲でしたね。
また、ただ強いだけでなく、「夢の跡」や「一陣の風」、「無常の嵐」など、要所要所で一生の儚さに言及している点も特徴的でした。
あらゆる業界において、「栄えては衰える」というのは抗いようのない摂理だといえます。
ひたすら情熱に頼っているようで、心のどこかで無常を悟っている。
そんなギリギリの「先駆者」だからこそ、この歌の主人公はひときわ輝いて見えるのかもしれません。