ドラマ「夕暮れに、手をつなぐ」主題歌をヨルシカが書き下ろし
人気ロックバンド・ヨルシカが2023年2月6日にリリースした『アルジャーノン』。広瀬すずと永瀬廉共演のテレビドラマ『夕暮れに、手をつなぐ』の主題歌として書き下ろされました。
『アルジャーノン』というタイトルからダニエル・キイスの小説『アルジャーノンに花束を』をモチーフにしていると思い至ったリスナーは多いことでしょう。
動物実験によって賢くなったハツカネズミ・アルジャーノンに感銘を受けた知的障害をもつ青年・チャーリーは、脳手術により天才的な知能を手に入れるも良い結果ばかりが待っているわけではないことを知るようになります。
この楽曲についてコンポーザーのn-bunaは、箱の中の迷路を迷いながらもただ出口へと進み続ける「貴方」の姿を少し眩しく感じる主人公の気持ちを表現していることを明かしています。
このことから、チャーリーにとってのアルジャーノンのように空豆と音がお互いを眩しく見つめているような関係性が伝わってきますね。
2人の関係がどのように綴られているのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
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貴方はどうして僕に心をくれたんでしょう
貴方はどうして僕に目を描いたんだ
空より大きく 雲を流す風を呑み込んで
僕のまなこはまた夢を見ていた
裸足のままで
≪アルジャーノン 歌詞より抜粋≫
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歌詞は主人公から「貴方」への問いかけの言葉から始まります。
自分に「心をくれた」「目を描いた」といった表現から、その人と出会って恋をしたことで初めて感情が揺れるのを感じ、これまで見えなかったものが見えるようになったという意味で心や目をもらったと感じていることが伝わってきます。
しかし「どうして僕に目を描いたんだ」という言い回しは、そのことで相手を責めているようにも聞こえるでしょう。
おそらく良いことばかりではなく知らなかった恋のつらさを知ったり、気づかなかった周囲の醜い部分を目にしたりするようになったために戸惑っているのだと思われます。
それでもその結果、主人公の瞳はかつて見た夢をまた捉えようとしています。
「裸足のままで」、つまり気負わず等身大の自分のままでいられるようになったのも「貴方」と出会ったおかげです。
恐れず進む貴方と無力な僕
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貴方はゆっくりと変わっていく とても小さく
少しずつ膨らむパンを眺めるように
貴方はゆっくりと走っていく
長い迷路の先も恐れないままで
≪アルジャーノン 歌詞より抜粋≫
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主人公は自分が変わっただけでなく、「貴方」も変化していることに気づきます。
パンが発酵して少しずつ時間をかけて膨らんでいくような小さな変化は、じっくりと眺めていなければ分かりません。
心と目を得たからこそ大切な人の変化に気づけるまでに成長できたといえるでしょう。
長い迷路は行く先で何が待っているのかも、ゴールがどこにあるかも分からないので、進むのが怖いものです。
この「長い迷路」は夢を叶えるまでの道程を象徴していると解釈できます。
ところが「貴方」は恐れることなくゆっくりと走っていきます。
「ゆっくりと走っていく」という歌詞から、急いでいるから走っているのではなく、夢への期待やわくわくした気持ちから自然と速足になっている様子を想像しました。
無鉄砲にも思えるその姿から感じる自分にはない強さに、主人公は惹かれたのかもしれませんね。
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貴方はどうして僕に名前をくれたんでしょう
貴方はどうして僕に手を作ったんだ
海より大きく 砂を流す波も呑み込んで
小さな両手はまだ遠くを見てた
あくびを一つ
≪アルジャーノン 歌詞より抜粋≫
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その人は主人公に名前や手も与えてくれました。
「名前」は人のアイデンティティなので、自分自身の存在を深く理解するようになったということを表していると考察できそうです。
また「手」は物事を行うための手段や力が身についたという意味ではないでしょうか。
しかし、手はあってもあまりにも未熟で、自分のできることの少なさや無力さに苦しんでもいます。
隣を見れば手を伸ばしたい「貴方」がいるのに、まだ遠くを見たまま何もできないでいるようです。
もどかしさを抱える主人公があくびをする姿は疲れを感じさせます。
2人で迷いながら進んでいこう
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僕らはゆっくりと眠っていく
とても長く 頭の真ん中に育っていく大きな木の
根本をゆっくりと歩いていく
長い迷路の先を恐れないように
≪アルジャーノン 歌詞より抜粋≫
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「頭の真ん中に育っていく大きな木」という歌詞は、人生設計のことと考えられそうです。
今はまだいくつも枝分かれしていく人生の根本にいる状態です。
それは長い迷路の入口に立っているのと同じで、先が見えないまま進んで行かなければなりません。
とはいえ自分には心強い味方がいるから、時にはゆっくりと眠るように休息を取りながら「長い迷路の先を恐れないように」2人で確実に今を歩いていきたいという決意が垣間見えます。
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いつかとても追いつけない人に出会うのだろうか
いつかとても越えられない壁に竦むのだろうか
いつか貴方もそれを諦めてしまうのだろうか
ゆっくりと変わっていく
≪アルジャーノン 歌詞より抜粋≫
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これから経験することになるかもしれない挫折や苦悩を想像し、あの強くて眩しい「貴方」でさえ諦めてしまう時が来るのだろうかと心配しています。
不安な要素を挙げていけばキリがありませんが、思考や選択や行動が「ゆっくりと変わっていく」なら難しい問題も乗り越えていけるはずです。
必要な変化は今すでに始まっているのです。
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僕らはゆっくりと忘れていく とても小さく
少しずつ崩れる塔を眺めるように
僕らはゆっくりと眠っていく
ゆっくりと眠っていく
貴方はゆっくりと変わっていく とても小さく
あの木の真ん中に育っていく木陰のように
貴方はゆっくりと走っていく
長い迷路の先も恐れないままで
確かに迷いながら
≪アルジャーノン 歌詞より抜粋≫
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目の前にそびえている塔が少しずつ崩れていくように、過去の苦しみや痛みなど自分が進むのを邪魔していたものは時間の経過と共にゆっくりと忘れて消えていきます。
そうすれば行く先は拓け、進むことへの恐れも小さくなっていくでしょう。
2人でいる時の安心感が互いの心を癒していく様子が見えてくる気がします。
木の成長には時間がかかりますが、やがて生まれた木陰は安らぎを与えてくれるもの。
だから木がゆっくりと成長していくように、心安らげる2人の関係もゆっくりと育んでいこうとしていることを示していると考察しました。
「貴方」は恐れず前へ走っていける人ですが、迷路の中で一切迷うことがないわけではありません。
その人の魅力は、迷って壁にぶつかりながらもゴールにたどり着くまで諦めずに進み続けるところにあります。
そんな「貴方」と共にこの人生という迷路を迷いながら進んでいきたいという主人公の静かな愛情を感じ取ることができます。
ドラマを彩るヨルシカの世界観に魅了される
『アルジャーノン』は誰もが自然と経験する恋という不変のテーマをヨルシカらしく表現した美しくてほろ苦い作品です。夢を追う男女の恋模様を描いたドラマのストーリーとリンクすると共に、夢に向かって進もうとする全ての人に寄り添ってくれる曲でもあります。
この楽曲は4月5日発売の最新アルバムで初の音楽画集『幻燈』にも収録されています。
同時期にライブツアーも控え、ますます人気が加速する令和の時代を彩るアーティスト・ヨルシカが生み出す新たな世界に浸ってみませんか?