アルバム「IN THE LIFE」に収録された珠玉のラブソング
B'zの『もう一度キスしたかった』は、1991年11月27日にリリースされた楽曲で、5thアルバム『IN THE LIFE』に収録されています。
シングル曲ではないものの、ファンからの支持を集める人気曲の一つであり、『IN THE LIFE』以外にも『B'z The Best "Treasure"』『B'z The Best "ULTRA Treasure"』『The Ballads 〜Love & B'z〜』など、複数の収録アルバムが存在します。
アルバム曲というのは、表題曲のような知名度はないものの、バンドの個性が炸裂しやすいもの。
知る人ぞ知る名曲が隠れていることもよくあることです。
『もう一度キスしたかった』も多分に漏れず、ファンから愛される楽曲の一つ。
ファン投票で人気を集める楽曲の魅力は何か、稲葉浩志が紡ぐ歌詞と、松本孝弘が生み出すメロディーそれぞれの観点から考察していきます。
シンプルなメロディーに変化を生み出すストーリー性
『もう一度キスしたかった』が名曲たりうる理由の一つに、歌詞が持つストーリー性があげられます。
この楽曲は、男女の恋を描いていながら、単純なラブソングではありません。
面白いのは、曲全体を通して男女の感情が変化していく点です。
では、歌の内容に注目しながら歌詞解釈を進めていきましょう。
----------------
眩しい夏につかまえた
強く しなやかな指先
寂しい人ごみの街で
抑えていた恋を
ぶつけあった
≪もう一度キスしたかった 歌詞より抜粋≫
----------------
二人の出会いは太陽が眩しい夏。
「抑えていた恋をぶつけあった」という歌詞に、ほとばしる情熱を感じます。
夏は気持ちも開放的になるもの。
人混みの中で見つけた恋に夢中になるのも、無理のないことかもしれません。
----------------
本気に傷つくこと
恐れない澄んだ瞳が
雨の午前六時に
出て行く僕を包んで Oh…
≪もう一度キスしたかった 歌詞より抜粋≫
----------------
相手を本気で好きになれば、傷つくこともあるでしょう。
傷つくことを恐れない強さに惹かれながらも、「雨の午前六時に」彼女の前から立ち去る姿が意味深です。
----------------
曇る窓 優しく響かせて
流れる歌が哀しかった
ふりかえる あなたを
抱き寄せて
もう一度 キスしたかった
≪もう一度キスしたかった 歌詞より抜粋≫
----------------
雨に包まれた部屋が、二人の関係を物語っているようです。
誰にも邪魔されない空間から、一人出て行く「僕」。
「もう一度キスしたかった」という歌詞に、別れ際の未練が滲み出しています。
----------------
再会はすぐに訪れ
やがて迷いはなくなり
秋の扉 たたくまで
心寄せあい歩いてた
≪もう一度キスしたかった 歌詞より抜粋≫
----------------
二番の歌い出しの歌詞で、季節が夏から秋に移ったことが分かります。
雨の夜に別れてから再会を果たした二人。
夏のひとときの関係が、時を経て熱く燃え上がります。
----------------
二人違う場所でしか
叶わぬ 夢を持ってるから
わずかな時間しか
残ってないと知っていた
≪もう一度キスしたかった 歌詞より抜粋≫
----------------
ここでまた、別れを予感させる歌詞が登場します。
激しく燃え上がれば燃え上がるほど、別れの切なさが際立ちますね。
人混みの中で出会った二人は、それぞれ別々の道でしか生きられないようです。
近い将来、再び他人へと戻り、雑踏の中に消えて行く恋。
----------------
燃え上がる
想いははかなくて
逢えない日々が
また始まる
≪もう一度キスしたかった 歌詞より抜粋≫
----------------
夏に出会って再会するまで期間が空いていたことや、すぐに別れの予感が漂い始めることで、二人が気兼ねなく会える恋人ではないことが想像できます。
----------------
燃え上がる
想いははかなくて
逢えない日々が
また始まる
≪もう一度キスしたかった 歌詞より抜粋≫
----------------
二人の恋に終わりが近づいていることを感じながら、それでも会いたい気持ちを止められない。
人目に触れることが憚られるような恋なのか、側にいられない理由は一体何か、曲の中でその理由に触れられることはありません。
しかし、気軽に逢瀬を約束することが「安らぎと偽り」になるほど、二人の恋が絶望的であることはひしひしと伝わってきます。
一体何が、二人をここまで引き裂くのか。
楽曲への探究心をくすぐる歌詞が見事です。
曲中で変化する「もう一度キスしたかった」の意味
『もう一度キスしたかった』には、タイトル通り「もう一度キスしたかった」というフレーズが繰り返し登場します。
しかも、ただ繰り返されるだけではなく、登場シーンごとに言葉の持つ意味合いが変化していくところが最大の魅力です。
----------------
曇る窓 優しく響かせて
流れる歌が哀しかった
ふりかえる あなたを
抱き寄せて
もう一度 キスしたかった
≪もう一度キスしたかった 歌詞より抜粋≫
----------------
夏に出会い、彼女の前から立ち去った時には、後ろ髪を引かれるような思い。
----------------
約束は交わされることなく
揺れている恋は泡のよう
ふりかえる あなたを
抱き寄せて
もう一度 キスしたかった
≪もう一度キスしたかった 歌詞より抜粋≫
----------------
秋に再会した時には、次に会う約束を果たせないことを予感し、惜別の念が伝わってきます。
----------------
木枯らしが
過ぎようとする頃
痩せてしまった
二人の灯に
誘われて あなたは
やってきた
≪もう一度キスしたかった 歌詞より抜粋≫
----------------
最後に彼女がやって来たのは、冬。
開放的な夏とは対照的に、閉ざされた、冷たさを象徴する季節です。
冬の木枯らしと同じ様に、彼女の心もまた、冷え切っているのかもしれません。
「痩せてしまった二人の灯」とは、今にも消え入りそうな恋の炎を思わせます。
----------------
決断を吹きかけるため
穏やかな笑顔 作りながら
出会いを
悔やむことはないと
言い聞かせ
グラスを開けた時
これが最後だと頷いた
≪もう一度キスしたかった 歌詞より抜粋≫
----------------
彼女の決断によって吹きかけられる息で、痩せ細った恋の炎は今度こそかき消されるのでしょう。
冬の時期に二人きりでグラスを傾ける情景は、クリスマスを連想させます。
他の恋人たちは甘く幸せな夜を過ごしているかもしれない時期に、この二人が交わすのは別れの挨拶です。
----------------
白い息 さよなら告げた後
車に乗り込んでゆく時
ふりかえる あなたを
抱き寄せて
もう一度 キスしたかった
≪もう一度キスしたかった 歌詞より抜粋≫
----------------
これまで何度も再会と別れを繰り返してきた二人ですが、ここで交わす「さよなら」は、この先二度と会うことのない、永遠の別れを意味するのでしょう。
「もう一度キスしたかった」というその願いが、虚しく響きます。
夏の暑さにほだされるように始まった恋は、もどかしい距離感を保ちながら徐々に冷めていき、最後には永遠にその灯火をかき消されました。
二度と叶わない願いだからこそ、『もう一度キスしたかった』という楽曲は、聴く人の心に深く刺さるのでしょう。
「もう一度キスしたかった」をB'zの代表的ラブソングに押し上げた歌詞の完成度
『もう一度キスしたかった』の魅力については、本田翼も独自の解釈を展開しています。ただ一時の恋愛感情を描くのではなく、時を経て刻一刻と変わっていく男女の情を描き出しているところに、稲葉浩志作詞曲としての力を感じますね。
元々、作詞を担当した松本が稲葉に、メロディーに変化がない分歌詞でストーリー性を付けて欲しいとリクエストを出したことで、この楽曲が生まれたといわれています。
シンプルなメロディーでも聴く人を飽きさせないどころか、曲中で展開される物語に夢中になってしまう。
楽曲中に登場する「もう一度キスしたかった」の意味の変化や、二人の関係を考察、解釈する楽しみを与えてくれるのも、この曲が長年愛される理由の一つなのでしょう。
刻一刻と変わっていくのに、多くを語らない『もう一度キスしたかった』。
すべてを語らないからこそ聴く人の心を掴む、稲葉浩志の表現力に圧倒される一曲です。
今一度、自分なりの解釈で、ストーリーで、楽曲の世界に浸ってみてはいかがでしょうか。