「大地讃頌」が締めくくる組曲「土の歌」とは
学生時代に音楽の授業で『大地讃頌(だいちさんしょう)』を歌ったり演奏したりした経験がある方は多いでしょう。
ピアノ伴奏に合わせた女声合唱と男声合唱の厚みのあるハーモニーが壮大で、大地を讃える曲の内容を印象づける楽曲です。
日本全国で広く親しまれており、現在では中学校の合唱コンクールや卒業式などでよく歌われています。
そもそも『大地讃頌』は1962年に作詞を大木惇夫、作曲を佐藤眞が担当して制作された「混声合唱とオーケストラのためのカンタータ『土の歌』」という7楽章からなる組曲の最終楽章のことを指します。
そのため『大地讃頌』の意味を知るためには『土の歌』全体の内容を知ることが欠かせません。
まず第1楽章『農夫と土』は、人を生かす食糧を生み出す土への感謝や自然の恵みの神秘について取り上げられています。
第2楽章『祖国の土』は、人は誰しも土に生まれ土に還っていくものであることを示した曲です。
第3楽章『死の灰』と第4楽章『もぐらもち』では、作詞者の大木惇夫の出身地である広島が大打撃を受けた原爆について扱われていて、科学の汚さや人間の愚かさを綴っています。
第5楽章『天地の怒り』は、天災を人間の犯した悪に対する大地の怒りとして描いています。
第6楽章『地上の祈り』は、美しい大地への想いと反戦の祈りが込められているようです。
そしてこれらの6楽章を経て組曲の締めくくりとなるのが『大地讃頌』です。
この楽曲にどんな想いが込められているのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
誰しも母なる大地に生かされている
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母なる大地の懐に
我ら人の子の喜びはある
大地を愛せよ 大地に生きる
人の子ら 人の子 その立つ土に感謝せよ
≪大地讃頌 歌詞より抜粋≫
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冒頭の「母なる大地」という表現は、一般的にも耳にする言葉ではないでしょうか。
生命を生み育む大地はまさに母親のような存在です。
ここで言う「人の子」とは単純に人間の子どもという意味ではなく、人類全てがこの大地という母に生かされていることを表していると解釈できます。
そして、それこそが人の喜びの根源です。
土に生まれ、大地が育てた食糧を食べて生きているからこそ、日々に楽しみと幸福を感じることができています。
だからこそ「母なる大地」を愛して大切にし、土と土から生まれる全ての生命に感謝するべきだと語りかけてきます。
平和な大地への感謝を込めて
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平和な大地を 静かな大地を
大地を誉めよ 頌えよ 土を
≪大地讃頌 歌詞より抜粋≫
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日々の暮らしに追われていると「平和な大地」や「静かな大地」は、当たり前のことのように思えるかもしれません。
しかし、日本を含め世界中の国々が戦争や災害の被害に見舞われています。
そんな中、平和で静かに過ごせることはそれだけで尊く、ありがたいことだから大地を褒め称えようと伝えています。
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恩寵の豊かな 豊かな 大地 大地 大地
(我ら人の子の 我ら人の子の 大地を誉めよ)
頌えよ 頌えよ 土を
(誉めよ 頌えよ)
≪大地讃頌 歌詞より抜粋≫
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「恩寵」とは神が人間に与える無償の賜物のことで、ここでは作物や水といった自然の恵みのことを指していると言えるでしょう。
豊かな恵みを有する大地への感謝は、その恵みを与えてくれる神への感謝ともなります。
タイトルにある「讃頌」は歌を作り、言葉を尽くして褒め称えることを意味します。
つまり讃美歌のように、人智を超えた大いなる存在への感謝や畏れが示された曲であることが分かりますね。
感謝の気持ちが湧き起こる名曲!
『大地讃頌』は戦争の恐ろしさと悲惨さを知る作者だからこそ深みを増す、大地と平和への感謝の想いが綴られた作品でした。卒業式でよく歌われるのは、学校を卒業して大人へと近づいていく中で、自分を成長させてくれる自然への感謝をいつまでも忘れないでほしいという願いがあるからなのかもしれません。
人として大切な気持ちを思い起こさせてくれる名曲ですね。