大人気ボカロP・ピノキオピーの書き下ろし楽曲
『神っぽいな』や『匿名M』など、多種多様なボカロ曲を世に送り出しているボカロP・ピノキオピー。2023年2月20日にリリースされたAdo『アタシは問題作』は、そんなピノキオピーの書き下ろし楽曲です。
『踊』や『私は最強』などのパワフルな曲で知られ、多彩な歌声でファンを魅了するAdo。
『アタシは問題作』はそんなAdoの「パワフルなイメージ」と「SNSなどで見られる謙虚さや親しみやすさ」とのギャップを表現した曲だと、ピノキオピーは対談で語っています。
また同楽曲について、Ado自身は、根強く残る『うっせぇわ』のイメージとは真逆の「本音」を代弁してくれた歌だとも考えているようです。
「イメージ」と「本音」が絡み合う『アタシは問題作』。
果たしてその歌詞には、どのような意味が込められているのでしょうか。
歌い手の苦悩と空元気
まず、今回の考察では、主人公を「有名になった歌い手」と仮定したいと思います。
作詞したピノキオピーも、歌っているAdo自身も『アタシは問題作』に「Ado」を投影していると推察できるためです。
それを踏まえ、冒頭の歌詞から考察していきましょう。
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アタシは問題作? アタシは問題作?
アタシは問題作? そうでもないよ…
≪アタシは問題作 歌詞より抜粋≫
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ウィスパーボイスで繰り返される「アタシは問題作?」。
周囲に「問題作」扱いされ、納得できずぐるぐる考え込んでいるのでしょうか。
しかし、ケロッと声音が変わって「そうでもないよ…」と一言。
考えすぎて何かを悟ったのか、はたまた平静を装っているのか。
落差の激しいフレーズを経て、1番のスタートです。
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ちょ 待ってよ なんで? 過大評価です
本音言えず 胸焼けしてる
平凡に生きて 平凡にミステイク
愛しあうって 素敵ですね
≪アタシは問題作 歌詞より抜粋≫
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歌い手の主人公は「過大評価」にもやもやしながら、本音が言えないでいる様子。
普通に生活して普通に失敗して、いつかは誰かと愛し合う。
そんな過剰に評価されない「平凡」な毎日こそ、主人公が望む「素敵」な人生なのかもしれませんね。
次の歌詞です。
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スポットライトが暴いた その陰と
臆病ゆえに 笑う 防衛本能
チラ見で語る 評論
好き勝手 言いやがって
でも ありがとうございます…!
わぁ
≪アタシは問題作 歌詞より抜粋≫
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「スポットライトが暴いた その陰」は、注目されることで知れ渡る、自身の「ネガティブな一面」のことだと解釈できます。
また「臆病ゆえに 笑う 防衛本能」は反発したくても勇気が出ず、作り笑いでその場をやり過ごしてしまうような習性のことを表しているのではないでしょうか。
弱気な自分や過去のあやまちなど、有名になるほど取り沙汰される「陰」はさまざま考えられます。
同時に、注目されると「テレビで見ただけ」や「少し聴いただけ」くらいの「チラ見」であれこれ評価されることも増えるでしょう。
それらに対する反発心をこらえるように、主人公は「ありがとうございます…!」と感謝を伝えている様子。
「好き勝手」に言われて苦しい…「でも」注目していただけるのはありがたいこと。
そう思い込んで、主人公は自分を納得させているのかもしれません。
また「わぁ」の2文字からは、無理に喜んでいる空気感も伝わってきます。
次のサビでは、そんな空元気がピークを迎えているようです。
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アタシは問題作? アタシは問題作?
え、ほんと? え、ほんと? その勘違い 最高 (HEY!)
「アンタちょっと問題がある。」「アンタちょっと問題がある。」
ウケんね ウケんね ピュアすぎじゃん キュート (HEY!)
≪アタシは問題作 歌詞より抜粋≫
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ここでの「アタシは問題作?」には、考え込むというよりも世間に投げかけるような強気な態度が感じ取れます。
その問いかけに応答があったのか、主人公は「その勘違い 最高」とハイテンションです。
「問題作」という言葉には「物議をかもすヤバい作品」というイメージがありますが、「批評に値する話題作、注目作」と解釈することもできます。
ここで「最高」と喜んでいる(ように振る舞っている)のは、他人からの「問題作」扱いを無理やりポジティブに受け止めた結果なのかもしれません。
しかし、続く歌詞では「アンタちょっと問題がある。」とストレートにディスられてしまった様子。
それに対して「ピュアすぎ」や「キュート」と、主人公は笑います。
「表面に出る言葉(=歌詞)」と「歌い手の本音」を混同することをからかっているかのようです。
その理由は、サビの後半に垣間見ることができます。
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望まぬナイフ 握ってただけ
But だんだん オキニで変な気分だぜ (Oh)
アタシは問題作? アタシは問題作?
効いてきた 泣けてきた
普通に弱くてごめん…
≪アタシは問題作 歌詞より抜粋≫
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主人公はただ「望まぬナイフ 握ってただけ」とのこと。
「必ずしも本心ではない鋭利な言葉を、マイクを握って表現していただけ」といったニュアンスでしょうか。
そしてそんなアグレッシブな表現にも少しずつ愛着が湧き、今ではお気に入りにさえなっているみたいです。
ただ、強気な態度もつかの間、じわじわと批判が効いてきたのか「普通に弱くてごめん…」としょんぼりして1番は終わります。
厳しい世界でのアップダウン
続いて、2番の歌詞を見ていきましょう。
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えーん えーん みんな怒んないで
えーん えーん 一回 お茶飲め
握手しようぜ!
いや 調子のってないです…
超理不尽な覚えゲーか? メンタルブレイカー
そんな修羅場は嫌だ
降参しない まだ
ベタにあったかい言葉で救われちゃうから
≪アタシは問題作 歌詞より抜粋≫
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投げやりになっているような「えーん えーん」が強烈に響く2番。
「みんな怒んないで」や「一回 お茶飲め」からは、批判や炎上などを慌てて鎮めようとしているような雰囲気が読み取れます。
無理に明るく申し出ているような「握手」は、仲直りやタッグの象徴でしょうか。
ただ、すぐに「いや 調子のってないです…」と弱気モードに切り替わっていることから、その「握手」さえも批判の的になってしまうような負の連鎖がうかがえます。
それを踏まえると「超理不尽な覚えゲー」は、一歩間違えただけで大勢にたたかれる不自由さを表していると解釈できそうです。
しかし、主人公はそんな「メンタルブレイカー(メンタルを壊すもの)」のような現状を嫌悪して「降参しない まだ」と持ちこたえています。
降参しない理由は「ベタにあったかい言葉で救われちゃうから」。
「頑張ってください!」や「応援してます!」など、ありきたりでも温かい「ファンからの声援」が、きっと主人公の活力になっているのでしょう。
次の歌詞に入ります。
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バッドエンドだらけの三千世界で
仮想現実でも綱渡りです
笑止千万のV.I.P.
あ、ええと 誰だっけ?
いつもお世話になってます…!
わぁ
また やっちゃった
≪アタシは問題作 歌詞より抜粋≫
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「バッドエンドだらけの三千世界」は「うまくいかない世の中」や「成功が保証されない厳しい現実」といった意味合いでしょうか。
そして続く歌詞は「仮想現実でも綱渡りです」。
「三千世界」を音楽業界と仮定してみると「仮想現実」という言葉からは、Adoが歌唱を担当した「ウタ」のCGモデルが連想されます。
多様なフィールドに活躍の場を広げても、決して油断できない厳しい世界。
そのような業界にいる不安いっぱいの自分を「笑止千万のV.I.P.(=かわいそうな重要人物)」と、主人公は自嘲しているのかもしれません。
後半部分からは「あ、ええと 誰だっけ?」と言う相手に対して「いつもお世話になってます…!」と自己紹介を始めるようなイメージが浮かんできます。
大泣きするような「わぁ」や、孤独に反省するような「また やっちゃった」は、失礼な態度をとられても本音で反抗できない「不甲斐なさ」を表しているのではないでしょうか。
ただ次のサビでは、再び強気モードです。
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アタシは問題作? アタシは問題作?
善でしょ 悪でしょ その先入観 最高 (HEY!)
「さよなら、もうバイバイ。」「さよなら、もうバイバイ。」
そうですか そうですか しゃあない十人十色 (HEY!)
八方塞がり 針のむしろだって
住めば都になってきたぜ (Oh)
アタシは問題作? アタシは問題作?
あーでもない こーでもない
予防線を張ってごめん…
≪アタシは問題作 歌詞より抜粋≫
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たとえば、ある人を「絶対に良い人だ」と盲信すると、ネガティブな一面を知って敬遠する事態が起こりかねません。
逆に「絶対に悪い奴だ」と確信すると、もはやその人に関わろうとはしないものです。
サビの前半は、そのように極端な決めつけで去っていく聴衆と、彼らを「十人十色(=好みはそれぞれ)」と割り切る主人公を描写していると考えられます。
そんな「八方塞がり(=どうしようもない)」で「 針のむしろ(=安心できない)」な状況にいながらも、主人公はそこに居心地の良さを見出している様子。
ただ、やはりそれも虚勢だったのか「あーでもない こーでもない 予防線を張ってごめん…」と、再びのしょんぼりです。
この「予防線」の解釈については、Cメロの歌詞が参考になります。
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別に良い奴ってわけじゃないけど
君が思うより そんなに最悪な奴じゃない
たぶん
≪アタシは問題作 歌詞より抜粋≫
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すねて言い訳するような数行のフレーズ。
何かを言った後に付け加える「たぶん」。
保険をかけるような慎重さが伝わってきます。
このような一面を悲観し、主人公は「予防線を張ってごめん…」と吐露したのかもしれませんね。
不意のカウンター「あんたはどうだい?」
意気消沈するようなCメロでしたが、徐々にまたボルテージが上がっていきます。
最後に、そんな終盤の歌詞を考察していきましょう。
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アタシは問題作? アタシは問題作?
アタシは問題作? アタシは問題作?
はいオッケー はいオッケー 想定通り…じゃないです!
望まぬナイフ 握ってただけ
But だんだん オキニで変な気分だぜ (Oh)
アタシは問題作? アタシは問題作?
効いてきた 泣けてきた
普通に弱くてごめん…
期待に添えずサーセン
≪アタシは問題作 歌詞より抜粋≫
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依然としてリピートされる「アタシは問題作?」。
続く「はいオッケー」は、この問いに対して何かを開き直ったようにも聴こえますが、収録を終えた合図の声とも解釈できそうです。
もしかしたら主人公は、レコーディングが終わるたびに「みんな歌を聴いて喜ぶだろうな」と想像を膨らませていたのかもしれません。
「想定通り…じゃないです!」は、そんな空想に反する「思わぬ批判への驚き」を表現しているのではないでしょうか。
しかし、そんな甘くない状況でもパワフルでアグレッシブな表現者として、無理に頑張ろうとする主人公。
「普通に弱くてごめん…」とまたもや普段の弱気モードに戻りかけたものの「期待に添えずサーセン」と叫び、最後の空元気を見せます。
「サーセン」という謝罪文句は、その軽さゆえに「期待やイメージなんて知ったことか!」と突き放しているようにも聴こえますね。
そしてそれに続くのは、これまで何度も繰り返されてきた「アタシは問題作?」です。
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アタシは問題作? アタシは問題作?
アタシは問題作? あんたはどうだい?
≪アタシは問題作 歌詞より抜粋≫
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冒頭では「そうでもないよ」という等身大の回答に見えた部分が「あんたはどうだい?」というダークな問いかけに変わっています。
用意された言葉を使うしかない「本音を言えない苦悩」。
踏み出した手前「強気な物言いをせざるを得ない状況」。
これらは誰にでも1つや2つ、思いあたる節があるのではないでしょうか。
主人公は仮に自分に問題があるとしても「自分に限ったことではない」と気づいたのかもしれません。
あるいは「自分自身に問題はない」と判断したうえで、突然のカウンターを仕掛けているとも解釈できます。
そう考えると、Adoを世に知らしめたデビュー曲『うっせぇわ』が、「アタシも大概だけど どうだっていいぜ 問題はナシ」で締めくくられている点も関係してきそうです。
己の弱さや強がり、他者に対する態度などは、自分から見直す機会は少ないもの。
『アタシは問題作』は、歌い手の空元気を演出しながら、自分を客観視するチャンスを聴き手に提示しているのかもしれません。
「うっせぇわ」とも関連?MVも必見!
今回はAdo『アタシは問題作』の歌詞の意味を考察しました。「イメージ」通りに強がる一面と、「本音」が漏れるような弱気な一面がジェットコースターのようにアップダウンする歌詞でしたね。
最後の問いかけについては『うっせぇわ』と絡めてみましたが、全体を見渡してみると他にも関連しそうな表現が散在しています。
「わぁ」と「はぁ?」の使いどころ、「たぶん」と「かもね」の置き方など、細かく比較してみるとまだまだ考察の余地はありそうです。
また、イラストレーター・えいりな刃物が手がけるMVでは、疲弊した社会人を主人公とした中毒性の高い映像が展開されています。
Adoのイメージに大きな影響を与えた『うっせぇわ』と、意味深で見飽きないコミカルなMV。
これらの豊富な情報をフル活用すれば、また違った考察の糸口が見つかるかもしれません。