曲名の由来は小説「華氏451度」?
ヨルシカの楽曲『451』の歌詞を考察するにあたって、まず気になるのは曲名ですよね。
何か意味が込められていそうな数字です。
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指の先で触れた紙が一つ遂に燃えた
さぁ引火して 燃やして 燃やして 燃やして 燃やして 燃やして
≪451 歌詞より抜粋≫
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「燃やして」という言葉が繰り返されるサビが印象的な曲ですが、こちらの歌詞では紙が燃えていることが分かります。
この歌詞から連想される作品として挙げられるのは、小説『華氏451度』でしょう。
『華氏451度』はレイ・ブラッドベリによって1953年に書かれ、日本語に翻訳されているほか、映画化もされている有名なSF小説です。
本のタイトルは、紙が自然発火する温度を意味しています。
まさにヨルシカの楽曲『451』の歌詞の内容ともぴったりですね。
小説『華氏451度』の舞台は、情報がテレビやラジオなど感覚的なものばかりで、本の所持が禁じられた世界です。
そこでは、本の所持が見つかると、ファイアマンと呼ばれる機関が出動して焼却し、所持者は逮捕されてしまいます。
このあらすじだけを見ると、国家の検閲や思想統制を題材にした小説だと思われるかもしれませんが、ストーリーの本筋はテレビやラジオが広まったメディア社会への警鐘です。
活字から離れ、テレビやラジオに夢中になり、思考する力を失い、記憶や記録の大切さを忘れていく。
そんな人々に対する皮肉が込められたストーリーとなっています。
この小説が題材になっているという推察のもと、ヨルシカ『451』の歌詞を考察していきたいと思います。
思考することへの推奨と皮肉
冒頭の歌詞から見ていきましょう。
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あの太陽を見てた
深く燃えてる
見れば胸の辺りが少し燃えてる
道を行く誰かが声を上げた
「見ろよ、変な男」と笑いながら
≪451 歌詞より抜粋≫
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歌詞の主人公は太陽を見て、何かを想い、意欲のようなものが胸の中で沸々と込み上げてきているような状態に見えます。
一方で、道を行く誰かはそんな主人公を見て「変な男」と嘲笑しているようです。
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指の先で触れた紙が一つ遂に燃えた
さぁ引火して 燃やして 燃やして 燃やして 燃やして 燃やして
喜びを愛して
さぁ昇華して 踊って 踊って 踊って 踊って 踊って 踊って
≪451 歌詞より抜粋≫
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「指」が主人公の指だとすると、主人公が太陽を見て、胸の中に湧き上がってきた感情を、炎のような踊りに昇華した様子を表現している歌詞だと捉えられるでしょう。
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ほら、集まる人の顔が見える
俺の蒔いた炎の意図を探してる
見ろよ、変な奴らだ
そんなに声を荒げて
たかが炎一つに熱を上げてる
≪451 歌詞より抜粋≫
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主人公の踊りは人を惹きつけ、熱狂させたようです。
道を行く誰かに「変な男」だと嘲笑された主人公ですが、今度は逆に、踊りを見て熱狂する人々を「変な奴らだ」と嘲笑し返しているような歌詞だと考察できます。
何が「変」で何が「普通」なのかは、見方や考え方によって、いとも簡単に逆転します。
だからこそ、一つの見方を正しいと決めつけるのは危険で、各個人がよく思考することが大切なのだと皮肉的に伝えようとしているのではないでしょうか。
「451」が発火させる創作への熱
後半の歌詞に注目して考察を進めていきます。
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触れて消して触れて消して
触れて胸の窓を開けて
早く燃えて灰を見せて
奥の奥に燻ぶる魂に
さぁ引火して 燃やして 燃やして 燃やして 燃やして 燃やして
≪451 歌詞より抜粋≫
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「胸の窓を開けて」という歌詞は、胸の中にある心情を見える状態にして、つまり“表現して”と訴えているのだと捉えられそうです。
「奥の奥に燻る魂に さぁ 引火して」という歌詞も、表現することを推奨するような言葉だと解釈できるのではないでしょうか。
表現することは自分の感情を愛することであり、記録することだと考えれば、記憶や記録の大切さがひとつのテーマとなっている小説『華氏451度』のストーリーにも繋がりそうです。
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さぁ消費して 踊って 踊って 踊って 踊って 踊って 踊って
さぁ創造して 燃やして 燃やして 燃やして 燃やして 燃やして 燃やして
≪451 歌詞より抜粋≫
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最後の2行には「消費して」と「創造して」という正反対の言葉が並んでいます。
読書を通して思考するように、芸術の鑑賞および消費を通して思考してほしい、そして記録することにも挑戦してほしいというメッセージが込められているのかもしれません。
この音楽に触れ、心を突き動かされ、紙が自然発火するように創作を始める人たちが出てくれば、この曲名『451』がより現実味を帯び始めるでしょう。