TVアニメ「進撃の巨人」The Final Season 完結編(前編)主題歌
漫画家・諫山創(いさやまはじめ)のデビュー作『進撃の巨人』。日本のみならず世界中で絶大な人気を誇る、言わずと知れたダークファンタジー作品です。
2023年3月には、アニメ『進撃の巨人』The Final Season 完結編(前編)が放送されました。
今回考察するSiM『UNDER THE TREE』は、その完結編(前編)の主題歌です。
SiMは『進撃の巨人』The Final Season Part 2 のOP曲『The Rumbling』も手がけたレゲエパンクバンド。
作詞担当のボーカル・MAHは『The Rumbling』では「エレンの叫び」などが表現されている一方、『UNDER THE TREE』は「ミカサの曲」だとコメントしています。
大ヒットアニメの最終局面を飾る『UNDER THE TREE』。
これまでの『進撃の巨人』のストーリーを踏まえつつ、その歌詞の意味を考察していきましょう。
遠ざかるエレン
まずは冒頭の歌詞です。
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where are you at?
where have you been?
問いかけに答えはなく
where are we headed?
what did you mean?
追いかけても 遅く 遠く
≪UNDER THE TREE 歌詞より抜粋≫
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「where are you at? where have you been?(どこに居るの?どこに居たの?)」と、今とこれまでの「居場所」について疑問が投げかけられています。
しかし、続く歌詞は「問いかけに答えはなく」。
ここでの疑問の数々がミカサからエレンへの「問いかけ」だとすると、2人の距離が物理的あるいは精神的に離れていっている描写だといえそうです。
その後も「where are we headed? what did you mean?(私たちはどこへ向かっているの?あの言葉の意味は?)」と疑問が続いています。
自由を求めて仲間と別れ、地を鳴らしながら進撃するエレン。
とめどないミカサの問いは、いつもそばにいたエレンの「劇的な変化」に追いつけない戸惑いを表しているように読み取れます。
また、前作『The Rumbling』では、以下の歌詞が印象的でした。
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nobody knows what’s inside of me
nobody knows what’s inside of me
nobody knows what’s inside of me
≪The Rumbling 歌詞より抜粋≫
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和訳すると「俺の中に何が居るかは俺しか知らない」。
これが「真意を語らないエレンの叫び」なら、どれだけミカサがエレンを理解しようとしても、エレンは一人で進撃を続けることになりそうです。
2人の距離がただただ離れていくイメージが浮かんできます。
エレンとミカサの繋がり
続いて、サビの前の歌詞を見ていきましょう。
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a bird, a butterfly and my red scarf
don't make a mess of memories
just let me heal your scars
≪UNDER THE TREE 歌詞より抜粋≫
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緊迫した曲調のなか並べられたのは「a bird, a butterfly and my red scarf(鳥と 蝶々と 私の赤いマフラー)」。
「鳥」を「自由」の象徴と捉えると「a bird」はエレンの信念、あるいはエレン自身のたとえかもしれません。
また「a butterfly(蝶々)」は、ミカサの価値観の原点を表していると解釈できます。
かつてミカサは蝶がカマキリに食べられるところを見て、幼心に「世界の残酷さ」を認識していました。
そして最後の「赤いマフラー」はエレンがミカサにあげた物で、2人を結びつける重要なアイテムです。
これらを並べた歌詞は、かつてのエレンとミカサの絆を表していると推測できます。
そう考えると「don't make a mess of memories(思い出を台無しにするのはやめて)」は、昔のように一緒にいられない現状への苦悩を、ミカサが「今のエレン」にぶつけているかのようですね。
ただ、すぐ後に「just let me heal your scars(私があなたの傷を癒すから)」とあるので、単にエレンに反発しているのではなく、動揺しつつも彼を受け入れる姿勢を持ち続けているミカサの一途さもうかがえます。
次の歌詞を見ていきましょう。
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the wall, the owl and forgotten wharf
時が止まることもなく
we're getting older second by second
≪UNDER THE TREE 歌詞より抜粋≫
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ここで列挙されたのは「the wall, the owl and forgotten wharf(壁と フクロウと 忘れ去られた埠頭)」。
これらの単語からは、作中のあるシーンが思い出されます。
パラディ島と海を隔てる壁上にて、エレンの父であるグリシャ・イェーガーとエレンの名の由来となったエレン・クルーガー(別名・フクロウ)が対話するシーンです。
この場面は「エレン・イェーガー」誕生の1つの転換期ともいえるので、上の歌詞は「エレンの誕生」を象徴していると解釈できます。
「埠頭(wharf)=港の波止場」が「forgotten(忘れ去られた)」と形容されているのは、「海を忘れた内地の民」の視点だと考えれば筋が通りそうです。
そんな重大な局面から「時が止まることもなく」、エレンとミカサは出会い、ともに日々を過ごし、巨人と戦ってきました。
今も変わらず、1秒1秒、命をつないでいる2人。
最後の「we're getting older(私たちは年老いて行く)」は、始まりや進む道が違えど、エレンもミカサも「同じ人間である」ということを強調しているのかもしれません。
ミカサの愛
ここからはサビの歌詞を見ていきます。
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why oh why, why oh why
don't you want to stay with me?
why oh why, why oh why
are you giving up on me?
≪UNDER THE TREE 歌詞より抜粋≫
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繰り返される「why oh why」。
どうして「don't you want to stay with me?(私と居てくれないの?)」と遠ざかるエレンを思い、悲嘆に暮れているように聴こえます。
その後の「are you giving up on me?(私を見限ろうとしているの?)」というフレーズにも同様の心情が読み取れそうです。
痛いほどの悲哀が伝わってくる歌詞ですが、後半ではやや様相が変わります。
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I'll be waiting, waiting for you
let me hold you under the tree
under the tree
≪UNDER THE TREE 歌詞より抜粋≫
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「I'll be waiting, waiting for you(私は待つ あなたを待つ)」。
「たとえ今は分かり合えなくても、一途にエレンを待ち続けよう」といった意味合いでしょうか。
続く歌詞は「let me hold you under the tree(あなたを抱きしめさせて欲しい あの木の下で)」。
ここでは「あの木」を第1話に登場する「エレンが熟睡していた木」と仮定してみましょう(完結編の冒頭でも登場しました)。
そう考えると「under the tree」は、作中で初めてミカサとエレンが言葉を交わす「始まりの場所」を意味しているのかもしれません。
また、エレンはその「木の下」で夢を見て涙を流していましたが、当時のミカサは平然とした態度をとっていました。
これらを踏まえると「let me hold you under the tree」は「あの日とは違い、今度はもっとしっかりあなたと向き合い、寄り添いたい」というミカサの切望のように聴こえます。
そして最後の歌詞です。
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I'll protect you
≪UNDER THE TREE 歌詞より抜粋≫
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意味は「私が あなたを守る」。
今まさに決意を固めたかのような一行です。
エレンに命を救われた過去があるミカサは、常々「エレンを守る」ことに命をかけてきました。
多くの苦悩や葛藤を抱えながらも、最終局面に際して改めて「エレンを守る」と心に誓った様子のミカサ。
エレンに対する大きな愛が感じられます。
全てを理解してあげられなくても、どれだけエレンが遠くに感じられても、ずっと変わらずにエレンを愛する。
「I'll protect you」には、そんなミカサの「普遍的な愛」が込められているように思えます。
「進撃の巨人」とリンクする意味深い歌詞
今回はSiM『UNDER THE TREE』の歌詞の意味を考察しました。1コマ1コマが緻密に計算された原作と同様、一言一言に思いが凝縮されたような意味深い歌詞でしたね。
象徴的なワードも多く、原作ファンの方にとっては特に考察しがいのある楽曲だったのではないでしょうか。
なお、アニメ『進撃の巨人』The Final Season 完結編(後編)は、2023年秋、NHK総合にて放送予定です。
これまでに生み出された多くの主題歌とともに、来る秋に向けて『進撃の巨人』を総復習するのもいいかもしれませんね。