「でんでんむしむし」の由来とは
日本人ならきっと誰もが歌える童謡『かたつむり』。
1911年に文部省が編纂した「尋常小学唱歌」の第一学年用に掲載するため、昔から歌われていたかたつむりのわらべうたを元に制作されたと言われています。
作詞作曲者は共に伏せられているため不明ですが、作詞者は童謡運動の先駆者の1人として知られる吉丸一昌(よしまる かずまさ)ではないかと研究が進められています。
そんな童謡『かたつむり』といえば、次のフレーズが印象的です。
----------------
でんでん虫々 かたつむり、
≪かたつむり 歌詞より抜粋≫
----------------
かたつむりは“でんでん虫”とも呼ばれますが、なぜでんでん虫なのか不思議に思ったことはありませんか?
実は古典狂言のひとつである『蝸牛(かぎゅう)』の中で「でんでんむしむし」と唄われることが由来だそう。
主人公の太郎冠者(たろうかじゃ)は、ある日主人から長寿の薬になるという人間ほどの大きさのかたつむりを探してくるよう命じられます。
探しに出かけた太郎冠者は、藪の中で寝ている修行帰りの山伏を見てかたつむりと勘違いし、主人の元に連れて帰ろうとします。
山伏は無知な太郎冠者をからかうために囃子物を唄わせ「でんでんむしむし」と唄い呆けて楽しみました。
この「でんでんむしむし」とは「出ろ出ろ虫」という意味で、虫に出てくるよう催促している言葉です。
ここからかたつむりが一般的にもでんでん虫と呼ばれるようになり、童謡の『かたつむり』の歌詞にも含まれました。
よく知られている童謡の『かたつむり』ではどんなことが歌われているのか、改めて歌詞の意味を考察してみましょう。
角(つの)と槍(やり)って何のこと?
----------------
でんでん虫々 かたつむり、
お前のあたまは どこにある。
角だせ槍だせ あたま出せ。
≪かたつむり 歌詞より抜粋≫
----------------
童謡『かたつむり』を簡単に説明すると、殻の中に入って出てこないかたつむりに出てこいと呼びかけている歌です。
1番ではかたつむりが頭を隠しているので、お前の頭はどこにあるのかと歌っています。
では「角(つの)」と「槍(やり)」とは何のことを指しているのでしょうか?
有力な説では「角」が大触覚のことで、「槍」が小触覚のことを示していると考えられています。
そもそもかたつむりには4本の触覚があり、上の大きな2本を大触覚、下の小さな2本を小触覚と呼びます。
大触覚は障害物を察知するためのもので、目の役割を担う触覚です。
かたつむりを観察すると、大触覚を左右に振りながら進み、障害物があると大触覚を引っ込めて方向転換する姿を見ることができますよね。
対して小触覚は味や匂いを感じ取るためのもので、鼻の役割を担う触覚です。
小触覚で地面を探りながら進み、食べられるものを探している様子を見たことがあるかもしれません。
まだかたつむりの生態を知らない幼い子供たちが触覚を「角」や「槍」と表現していると思うと微笑ましいですね。
新たな解釈が注目されている!
----------------
でんでん虫々 かたつむり、
おまえのめだまは どこにある。
角だせ槍だせ めだま出せ。
≪かたつむり 歌詞より抜粋≫
----------------
2番ではかたつむりの「めだまはどこにある」と歌っています。
ちなみに大触覚の先にある小さな黒い点がかたつむりの目です。
目といっても物の形や色が分かるわけではなく、明るさが判別できる程度と考えられていますが、直射日光に弱いかたつむりにとってはとても重要な器官です。
2番でも繰り返される「角」と「槍」については、近年さらに別の説が注目されています。
それは「角」は大触覚と小触覚を含めた4本の触覚全体のことを指し、「槍」は恋矢(れんし)という器官のことを示しているとする説です。
恋矢はかたつむりが交尾の時にだけ出す頭の下の方にある器官で、これがまさに槍の形をしています。
普段は隠れていて見ることができず、交尾が終わると抜け落ちて数日後に再生します。
それでより槍の形に近い恋矢が歌詞の「槍」の正体ではないかと考えられるようになりました。
とはいえ、小学一年生が歌う歌詞として用いるにはあまり適切でないことや、四六時中観察していないと見ることができない希少性をふまえると、この説は少し不自然です。
そのため、触覚のことのみを歌っていると解釈するのが妥当でしょう。
ただ、このように興味を持って様々な角度から生物を観察すると、多くの発見ができることを子供たちにも知ってもらいたいですね。
かたつむりを観察してみよう
童謡『かたつむり』の気になるフレーズに注目すると、かたつむりの面白い生態に触れることができます。明るいメロディに乗せて歌っていると、幼い子供たちもかたつむりについて自分で知りたいと思うきっかけになるのではないでしょうか。
単純なようで奥深い童謡の世界を、何歳になっても楽しんでいきたいですね。