桜の景色を表現した1番の歌詞
1番の歌詞から見ていきましょう。
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さくら さくら
のやまも さとも
みわたす かぎり
かすみか くもか
あさひに におう
≪さくら さくら 歌詞より抜粋≫
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「さくら」「のやま」「さと」と分かりやすい言葉が並んでいますが、「かすみ」という言葉は、馴染みのない方もいらっしゃるでしょう。
「かすみ」は、漢字表記にすると「霞」となり、「空気中に浮かんでいる細かい水滴やちりのために、遠くがぼんやりとしていて、はっきり見えない現象」を指します。
“もや”や“霧”と同じ自然現象ですが、秋の季語は“霧”なのに対し、春の季語は“霞”となっています。
「あさひに におう」という歌詞も、現代らしい言葉遣いではないので、少し分かりにくいですね。
「におう」という言葉は、現代では「かおりがただよう」という意味で使われることが多いですが、実は「鮮やかに色づく」という意味もあります。
さくらを歌った童謡だと考えれば、「あさひに におう」という歌詞は、「(桜が)朝日に照り映える」という意味だと解釈できるでしょう。
野山にも里にも見渡すかぎり桜が咲き誇っていて、ピンク色の霞や雲がただよっているように見えるくらい、桜が朝日に照り映えている景色を表現した歌詞だと捉えられそうです。
続きの歌詞も見てみましょう。
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さくら さくら
はなざかり
≪さくら さくら 歌詞より抜粋≫
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「はなざかり」は、「花が咲きそろっていること。また、その季節。」を意味する言葉です。
桜を表現した歌や詩では、つぼみの状態を表現した作品や桜の散る様子を表現した作品なども多くありますが、この楽曲は、“満開の時期の桜”を表現していると考えられますね。
春の空を表現した2番の歌詞
2番の歌詞を見ていきましょう。
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さくら さくら
やよいの そらは
みわたす かぎり
かすみか くもか
においぞ いずる
≪さくら さくら 歌詞より抜粋≫
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1番の歌詞で「のやまも さとも」となっていた箇所が、2番の歌詞では「やよいの そらは」となっています。
「やよい」は、旧暦3月の異称で、「草木が生い茂る月」という意味を持つ言葉です。
旧暦3月は、新暦3月下旬から5月上旬頃にあたるため、桜が満開になる時期と一致します。
さらに、1番の歌詞で「あさひに におう」となっていた箇所が、2番の歌詞では「においぞ いずる」となっています。
1番の歌詞は「のやまも さとも」と、視線が地上に向かっているため、「かすみ」や「くも」を桜の比喩表現として解釈し、「におう」を「鮮やかに色づく」という意味で捉えました。
しかし、2番の歌詞は「やよいの そらは」と、視線が空に向かっています。
桜の花びらが空に舞っている景色を表現した可能性もありますが、空に桜が咲いているという状況は、あまり現実的ではないように思います。
2番の歌詞の「かすみ」や「くも」は、桜の比喩表現ではなく、空にかかった「かすみ」や、空に浮かんでいる「くも」そのものを指していると捉えられそうです。
そのように考えれば、2番の歌詞では桜を見ているわけではないため、「においぞ いずる」という歌詞は、「鮮やかに色づく」という意味ではなく、「かおりがただよってきた」という意味で捉えられるのではないでしょうか。
見渡すかぎり霞や雲のかかった春の空を見上げているときに、桜のかおりがただよってきたという状況を表現している歌詞だと考察できそうです。
歌詞解釈で浮かび上がるストーリー
2番の歌詞は、下記の2行で締めくくられています。
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いざや いざや
みにゆかん
≪さくら さくら 歌詞より抜粋≫
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「いざや」は、行動を促すときに発する言葉で、「さあ」と同じ意味です。
「みにゆかん」は、「見に行こう」という意味の言葉なので、合わせると「さあ さあ 見に行こう」となります。
他人を誘っているのか、自分に言い聞かせているのかは分かりませんが、桜を見に行こうとしているのは明らかですね。
直前の「においぞ いずる」という歌詞を、「(桜の)かおりがただよってきた」という意味で解釈すれば、“桜のかおりがただよってきたことで、桜の季節になったと気づき、桜を見に行こうと思い至る”という美しいストーリーが浮かび上がってくるのではないでしょうか。