「ノールス」という曲名の意味
シンガーズハイの楽曲『ノールス』の歌詞を考察するにあたり、まず気になるのは曲名です。
MVの2分7秒あたりを確認すると、「ノールス」の意味を解説する文字が表示されます。
ノールスは漢字表記で「脳留守」となり、「脳が留守(いない)=バカ、アホ」という意味の俗語のようです。
「ノールス」という言葉の意味を踏まえて、歌詞を見てみましょう。
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千年先まで愛しているとか
しょうもないこと並べないで
私だってあなたが思ってるよりは
そんなに頭悪くないんだから
あなたに求めているものといえば
言葉じゃないの、分からないね
≪ノールス 歌詞より抜粋≫
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「千年先まで愛している」という甘い言葉ではなく、行動で示してほしいという「私」の気持ちが表現されている歌詞だと捉えられそうです。
「私」と「あなた」は恋人同士で、「私」という彼女視点で書かれた歌詞なのかもしれませんね。
「分からないね」という歌詞には、“馬鹿なあなたには分からないでしょう”と、「私」が「あなた」を嘲る心境が込められているように感じます。
つまり、「ノールス」という曲名は、歌詞の主人公である「私」から見た「あなた」なのだと解釈できそうです。
「ノールス」に隠された悲痛な叫び
続きの歌詞では、「私」が「あなた」に何を求めているのかが具体的に書かれています。
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あと一つだけ、怖い夢を見たときは
抱きしめてほしい
そういうことなんか言ったって
分かるわけないもんね、ごめんね
≪ノールス 歌詞より抜粋≫
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「怖い夢を見たときは抱きしめてほしい」という願いは、「私」が自分の不安や孤独を「あなた」に埋めてもらおうとしている心境を表現しているように思います。
「分かるわけないもんね、ごめんね」という言葉で「あなた」を馬鹿にしながらも、「私」は「あなた」にすがっているようなところがあるのではないでしょうか。
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どういうことをしていたって
ただ愛している
あなたの中ではいつまで経っても
私は何処にも行かないし
≪ノールス 歌詞より抜粋≫
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一方で、「あなたの中ではいつまで経っても 私は何処にも行かないし」という歌詞からは、「あなた」が「私」のことを信頼しきっている様子が浮かんできます。
それだけ「私」は「あなた」に尽くしてきたのかもしれませんね。
「どういうことをしていたって ただ愛している」という歌詞からも、「あなた」のすべてを許して愛そうとする、「私」の献身的な態度が読み取れそうです。
前半の歌詞で表現されていた、「あなた」を馬鹿にしている「私」の姿とはかなりのギャップがあります。
「私」は“馬鹿な「あなた」に尽くすほど馬鹿じゃないのよ”と突き離したいと思いながらも、それができないくらいの重い愛情を「あなた」に対して抱いているのではないでしょうか。
愛情深く尽くす「私」と、「私」は何処にも行かないと信頼しきっている「あなた」の関係は対等であるとは言い難いですね。
「私」が「あなた」を馬鹿にするのは、「あなた」の不器用さを責めるという意味合いの他に、「私」と「あなた」の愛の重さが等しい状態ではないという現実から目を逸らすためでもあるのかもしれません。
“私のことを愛していないから行動してくれないわけではないよね?馬鹿だから伝え方が分からないだけだよね?”、そんな悲痛な叫びが聞こえてくるような気がします。
『ノールス』は解釈の仕方によって、物分かりの悪い恋人に対する鬱憤を表現した怒りの楽曲としても、恋人から向けられる愛情の希薄さを嘆く悲痛な楽曲としても聴けるのではないでしょうか。
「足りないオツムで考えて」という歌詞
本記事では続きの歌詞についても考察していきます。
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あなたに何かが物足りないのか
足りないオツムで考えて
≪ノールス 歌詞より抜粋≫
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「オツム」は「頭」という意味の言葉ですが、主として幼児に対して用いられる表現です。
幼児に対して用いる表現を恋人に向けるというのは、かなり相手を見下した言い方だといえるでしょう。
「考えて」と言いながらも、“あなたは頭が悪いから考えたって分からないでしょうけど”という皮肉めいたニュアンスを感じます。
また、「あなたに何かが物足りないのか」という表現も気になります。
恋人に対する鬱憤を表現した怒りの楽曲として聴くと、“あなたの欠点がどこなのかくらいは自分で考えて”という意味として捉えられそうです。
しかし、愛情の希薄さを嘆く悲痛な楽曲として聴くと、“あなたは私が何処かへ行ってしまってもいいの?私がいないと物足りなくなると気づいてほしい”という心情が込められているようにも思えます。
「足りないオツムで考えて」と、相手を見下すような表現を用いた歌詞ですが、歌詞の主人公が恋人に対して怒っているのか、恋人の愛情を確かめるために必死になっているのか、どちらの解釈をするのかによって、楽曲から伝わってくるメッセージも変わってくるでしょう。
第三者的視点で読み解く「ノールス」
『ノールス』は「私」視点で描かれた、怒りの楽曲としても悲痛な楽曲としても聴けるという考察をしてきましたが、俯瞰で「私」と「あなた」を見ている第三者的視点が含まれた歌詞として考察することもできます。
第三者的視点が含まれた歌詞として考察した場合の、ふたつの解釈を考えてみました。
一つ目は、「あなた」に翻弄される「私」を皮肉的に表現した歌詞であるという解釈です。
「私」が「あなた」の愛情を確かめようと必死になっているのだと捉えると、「千年先まで愛しているとか しょうもないこと並べないで」という冒頭の歌詞は、ロマンチックな発言を冷めた目で見ているような歌詞ですが、実は一番アツくなっているのは紛れもない「私」です。
なんだかとても皮肉的な歌詞に見えてきますね。
「怖い夢を見たときは抱きしめてほしい」という歌詞は、「私」が自分の不安や孤独を「あなた」に埋めてもらおうとしている心境を表現していると考察しましたが、「あなた」を好きになればなるほど、「私」の心が不安定になっていることを思うと、これも皮肉的な歌詞に見えてきます。
「私」が「あなた」を馬鹿にしているように見えて、実は「私」を皮肉的に表現している特大ブーメランのような楽曲なのだとしたら、そんな解釈もまた面白いかもしれません。
「ノールス」なのは、「あなた」なのか「私」なのか、思わず考え込んでしまいます。
二つ目は、「私」が「あなた」の馬鹿な部分を分かっていながらも盲目的にすがりついてしまうように、“恋をすると人は馬鹿になってしまう”という、恋愛という行為そのものに対する皮肉を込めた歌詞であるという解釈です。
MVの冒頭では、マグカップを机に置く瞬間、マグカップが缶ビールに変わり、一気にダークな雰囲気になります。
ストレートに解釈すると、堪えてきた怒りが爆発する瞬間のように思えますが、人が恋に落ちる瞬間、つまりノールスになってしまう瞬間を表現しているとも捉えられるのではないでしょうか。
聴き手の経験や考え方によって、“誰が”あるいは“何が”ノールスとして表現されているように聴こえるのかが変わってきそうですね。
様々な解釈のできる音楽なので、改めて歌詞やMVの世界観を味わってみると面白いでしょう。
今後も大注目していきたいアーティストです。