弱い自分を変えたいのに変われない
繊細で儚い曲調が持ち味のボカロP・MIMIが、2022年11月19日に発表したオリジナル楽曲『ハナタバ』。心地よいポップなメロディと可不の透明感ある歌声のマッチが注目され、YouTubeに投稿されているMVはすでに370万回再生を突破しています。
切ない雰囲気を感じさせる歌詞の意味を考察していきましょう。
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なにもなにも分からなくて
止まることもただ怖くって
いつかいつか願うように
どうか夜よ明けないでって
≪ハナタバ 歌詞より抜粋≫
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冒頭の歌詞から主人公の不安感が伝わってきます。
何をすべきかも何をすべきでないかも分からないのに、立ち止まって何もしないことを選択するのも怖い。
そんな主人公の不安定な心の状態に共感するリスナーも少なくないのではないでしょうか。
人々が寝静まる夜は静かで心が落ち着きますが、朝になって人々が動き出すと自分だけが思うように行動できずに取り残されているように感じることもあるでしょう。
主人公が「どうか夜よ明けないで」と願うのも、そうした恐れの気持ちがあるからなのかもしれません。
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このままじゃいけないな
って焦る気持ちだけが倍速で
誰か誰か僕を見つけて
って叫べたら楽になれるのかな
嗚呼 何も無い世界だな
≪ハナタバ 歌詞より抜粋≫
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「このままじゃいけないなって焦る気持ちだけが倍速で」のフレーズから、今の弱い自分から変わらなくてはいけないという焦燥感とうまくいかないジレンマに苦しんでいることが分かります。
きっと誰かに助けを求めることができたら楽になれると思っていながらも、実行できずに独りで抱え込んでしまう性格のようです。
「嗚呼 何も無い世界だな」の言葉に主人公の空虚な心が反映されている気がします。
君と踊る時間にハナタバを
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ただたださようならって言わせてよ昨日の寂しさに
いつしか空っぽな心だけが夜空に咲いたんだ
ほらまたすっからかんに生きたいな何にもないからさ
このまま少しだけ君と踊る時間にハナタバを
≪ハナタバ 歌詞より抜粋≫
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「昨日の寂しさ」に別れを告げたいと思うのは、もう孤独でいたくないと心が叫んでいるからなのでしょう。
夜空に力強く咲いて儚く散る花火のように、主人公の「空っぽな心」が浮かび上がってくるような歌詞です。
自分には何もないから「すっからかんに生きたいな」というフレーズからは、諦めの姿勢が感じられます。
しかし「このまま少しだけ君と踊る時間にハナタバを」の歌詞は、大切な人と過ごす時間の尊さを物語っています。
花束を贈ることは記念日などのお祝いのイメージが強いものです。
そのため「君」と踊れるひと時を大切にしたいという気持ちが読み取れます。
何も気にすることなく、ただ大切な人と過ごす時間を大事にしながら生きていきたいと願っているようです。
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気づいたら僕らはどこへ?歩く 歩く 行き先もなく
知らない知らないなんにも知らない 上手く笑えないし 闇の中
どうしたの?って問いかけるの 君の君の無邪気な声が
響く響く星空の奥いつかいつか言わせてくれよ
≪ハナタバ 歌詞より抜粋≫
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「行き先もなく」歩くというのは、主人公の人生を象徴した描写と解釈できます。
目的地を決めていないというよりは、行くべき場所がないのにひたすら歩いているようなイメージかもしれません。
不器用で「上手く笑えない」から「闇の中」を歩いているかのように心許ない日々を過ごしています。
そんな中で「どうしたの?」と問いかけてくれた「君」。
主人公は助けを求められない自分を唯一気遣ってくれた「君」の「無邪気な声」に救われたのでしょう。
その感謝や湧き出る想いをいつか伝えたいと思っているようです。
焦らず自分のペースで生きていこう
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すっかり余計なことばっか
汚れた心にじゃあバイバイ
きっかり悩んだ今日だって
それでも眠れない
≪ハナタバ 歌詞より抜粋≫
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誰でも余計なことばかりが頭の中を巡ってイライラすることがあるでしょう。
心が汚れたように感じても、そうした雑念は振り払うのが難しく感じます。
時間をかけて「きっかり悩んだ」からといってすっきりするわけでもなく、考えれば考えるほど余計に悩んで眠れなくなっている様子も垣間見えます。
きっと多くの人が抱えている繊細な心の状態を捉えた歌詞ですね。
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難しだらけの脳内で
でも焦らなくたってもういいじゃん
明日は明日は来るからさ
でもいまだけは夜よ隣で
≪ハナタバ 歌詞より抜粋≫
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「難しだらけの脳内」で悩んでいた主人公は、「焦らなくたってもういいじゃん」と考え方を切り替えることができたようです。
「明日は来るからさ」とあるように、焦っても焦らなくても夜は明けて明日がやってきます。
それなら焦らず今日という一日と向き合って過ごす方が、心を軽くして生きられるはずです。
これは諦めではなく、今の自分を受け入れるということだと言えます。
いくら悩んで焦っても自分自身を変えることはとても難しいものです。
だからありのままの自分を受け入れ、自分なりのペースで前に進んでいこうと考えたのでしょう。
そしてそのように前向きに考えられるようになったのは、弱い自分を気遣ってくれた人がいたからです。
とはいえ窮屈な日々を生きるにはエネルギーが必要で、時には休息が欠かせません。
「いまだけは夜よ隣で」という願いには、夜の穏やかさが自分の心に寄り添っていてほしいという切なる想いが込められていると考察しました。
また主人公にとって「君」は心が安らぐ「夜」と同等の存在なのでしょう。
だから共に踊る時間を愛おしく思う気持ちに動かされて花束を贈りたいと感じるのかもしれません。
MIMIの世界が疲れた心を癒してくれる!
『ハナタバ』はどこか儚くも聴いた後に明るい気持ちにさせてくれるようなMIMIらしい世界観が魅力の楽曲です。孤独感や焦燥感といった感情は年代を問わず生まれるものなので、きっとどの世代の人もこの歌詞に共感し穏やかな気持ちになれるでしょう。
気持ちが落ち込んだ時や悩みに苦しんでいる時には、ぜひ頭をすっからかんにして『ハナタバ』を聴いてみてくださいね。