大人気アニメ「【推しの子】」エンディング主題歌
メッセージ性の強いダークな歌詞、男声と女声を使い分けるメロディアスなボーカルで人気を博している女王蜂。そんな大人気バンド・女王蜂が、2023年5月17日、話題のTVアニメ『【推しの子】』のED曲『メフィスト』をリリースしました。
ボーカル・アヴちゃんが主人公に扮したMVも同日に公開され、アイドル業界での悲劇が描かれたその世界観にも注目が集まっています。
ちなみに曲名の「メフィスト」は悪魔の名前です。
この悪魔は、ドイツの民間伝説やゲーテの戯曲として知られる『ファウスト』に登場します。
『ファウスト』は、主人公・ファウスト博士がメフィストフェレスという悪魔と契約を交わし、死後の魂と引き換えに魔力を手にして享楽の人生を送るというストーリーです。
作詞作曲を手がけたアヴちゃんは、メフィストを「願いの悪魔」と称しています。
そんな悪魔の名を冠した楽曲『メフィスト』には、果たしてどのような意味が込められているのでしょうか。
『【推しの子】』の設定と絡めながら、その歌詞の意味を考察していきましょう。
完璧なアイドルの嘘と苦悩
まずは1番の歌詞です。
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ラストチャンスに飢えたつま先が
踊り出すまま駆けたこの夜空
並のスタンスじゃ靡かない
星は宝石の憧れ
≪メフィスト 歌詞より抜粋≫
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ここでの「夜空」の「星」は、ステージに立つ完璧なアイドル・星野アイのことだと考えられます。
そうそうチャンスに恵まれることのない芸能界。
とりわけアイドル界は活動の寿命が短く、安定が保証されない厳しい世界だといえます。
そういった業界においても動じない「星」が「宝石の憧れ」である。
母・アイを敬愛するルビーとアクアが想起される描写ですね。
次の歌詞も見てみましょう。
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浮かぶ涙と汗は血の名残り
目の中でしか泳げなきゃ芝居
だけどステージが逃がさない
いついつまでも憧れ 焦がれているよ
≪メフィスト 歌詞より抜粋≫
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「涙と汗」が「血の名残り」というのは、アイドルの晴れ姿は血のにじむような努力の結果であるといったニュアンスでしょうか。
続く歌詞は「目の中でしか泳げなきゃ芝居」。
この「芝居」をネガティブに受け取ると、「アイドル=ファンがまぶたを閉じて浮かべる偶像」というだけでは「芝居」にすぎない、といった意味に捉えられます。
本物のアイドルは「芝居」ではなく「嘘」によって目の前のファンに夢を見させるものだと強調したいのかもしれません。
そんな表面からは分からない泥臭さや嘘があっても「ステージが逃がさない」スーパーアイドル・アイ。
いつまでも彼女に焦がれているのは、きっと実の子であるルビーとアクアなのでしょうね。
次の歌詞です。
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I've never seen such a liar.
生まれつきたっての底なし
This lie is love. And this lie is a gift to the world.
誰と生きたか思い出して
≪メフィスト 歌詞より抜粋≫
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過去を振り返るようなフレーズが並ぶ日本語部分。
「生まれつきたっての底なし」は、不遇な家庭環境に生まれたアイの人生を表しているように思えますね。
一方、英語の部分は「こんな嘘つきは見たことがない」、「この嘘は愛であり、この世界に対する贈り物である」と訳せます。
愛を知らずに生まれ育ったアイによる、「愛してる」というファンたちへの嘘。
『【推しの子】』のキャッチフレーズ「この芸能界(せかい)において嘘は武器だ」にも通じる一節です。
続いて、2番の歌詞を見てみましょう。
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戻れないから大切にするの?
始めないなら高を括れるよ
らくになる日はまず来ない
日々のなかに集まる悲しい光
生まれつきだってば底なし
This lie is love. And this lie is a gift to the world.
誰を生きたか忘れちゃった!
≪メフィスト 歌詞より抜粋≫
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この部分は芸能界の厳しさを表していると解釈できそうです。
後には引けないからと業界にしがみついたり、何も知らない人に見くびられたり。
特に駆け出しの芸能人の日々には、安寧はほとんどないのでしょう。
そんな日々に集まる「悲しい光」とは、ステージ上の偶像を推すファンのことなのではないでしょうか。
実際、アヴちゃんのコメントには「心の底から推してくれているひとたちの表情は、いまにも泣き出しそうで、純粋なのに鈍感で、飢えてる。… ステージにうずまって、ひときわ輝くかなしい光。」とあります。
また、「愛しい」と書いても「かなしい」と読めるのに「悲しい」とストレートに表現しているのは、ファンへの嘘(=愛)が本物になり切れていないことの暗示かもしれません。
「誰を生きたか忘れちゃった!」には、アイデンティティーを見失いながらも無理に明るく振る舞うニュアンスも読み取れます。
完璧なアイドルの嘘と苦悩が伝わってくるような描写ですね。
「メフィスト」とは何者か
ここからは、サビの歌詞を中心に見ていきましょう。
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わたしが命を賭けるから あげるから
あなたは時間をくれたのでしょう?
あらゆる望みの総てを叶えたら ああ果たせたら
あなたに会いたい
星に願いをかけて
≪メフィスト 歌詞より抜粋≫
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「命」と引き換えに「時間」をもらうという構図は、メフィストが登場する『ファウスト』のストーリーと重なります。
また「星に願いをかけて」とあることから、願いの対象は「星」すなわち「アイ」だと考えられます。
一方で「わたし」については、アイのファンにして実の子であるルビーとアクアを指していると解釈できそうです。
一度は命を落とした2人が、転生して「推しの子」として人生を再開する。
そうして与えられた「時間」のなかで、ルビーはアイドルを目指し、アクアは父への復讐を誓います。
ここでの「望み」は、それらの夢や復讐を実現させることを意味しているのではないでしょうか。
続いて、終盤のサビを見てみましょう。
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あなたに命が戻るなら 届くなら
わたしはどうなろうと構わないのに
どうやら総ては叶わない
叶わないならばあなたになりたい
星は砕け光る
≪メフィスト 歌詞より抜粋≫
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戻らない命や、届かない想い。
「総ては叶わない」と悟りながらも「あなたになりたい」と吐露しているのは、アイと同じアイドルを目指すルビーかもしれません。
結びの「星は砕け光る」は、死によってアイが一層まぶしく感じられるようになったことを思わせます。
そして最後の歌詞です。
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さあ星の子たちよ よくお眠りなさい
輝きは鈍らない あなたたちならば
さあ星の子たちよ よく狙いなさい
またたきを許さない あなたたちならば
≪メフィスト 歌詞より抜粋≫
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冷ややかな母性が感じられるフレーズが並んでいますね。
「星(=アイ)」の血を引く「あなたたち(=ルビーとアクア)」ならば、その輝きが鈍ることはない。
「よく狙いなさい」という一言は、そんな2人の願い(アイドルになることと復讐すること)を叶えるべくガイドしているかのようです。
心にアイが生き続け、目移りするものがない「あなたたちならば」きっとやり遂げる。
子を応援する親心とも読めますが、どことなく狂気的な雰囲気も漂っています。
もしかしたらこのパートは、ルビーとアクアが盲信している偶像「アイ」の視点なのかもしれません。
子である以前にファンであった2人は、純粋な母親としてではない特殊な「アイ」像を抱いていると考えられます。
本来のアイとも異なる2人の偶像「アイ」こそ、彼らの運命を方向づける “願いの悪魔” メフィストなのかもしれません。
MVや「ファウスト」も必見!
今回は、女王蜂『メフィスト』の歌詞の意味を考察しました。『【推しの子】』のストーリーと重なる部分も多く、原作ファンにとっては考察しがいのある深遠な歌詞だったのではないでしょうか。
静かに、そして冷ややかに終わるラストには、ぞくっとするものがありましたね。
ここでは『【推しの子】』の設定を意識して歌詞の解釈を広げていきましたが、終始ダークな雰囲気をまとったMVも必見です。
また、カップリング曲『ファウスト』を聴いたり、同名の原典を読んでみるのも面白いかもしれません。
これらの多様な作品たちにもアプローチして、ぜひそれぞれの『メフィスト』を思い描いてみてください。