「FINAL FANTASY XVI」テーマソングに込めた想いとは
米津玄師が2023年6月26日にリリースした楽曲『月を見ていた』は、PlayStation®5用アクションRPG「FINAL FANTASY XVI」のテーマソングとして書き下ろされました。自身も幼少期から「FINAL FANTASY」シリーズのファンで、大きな影響を受けてきたという米津玄師。
プロデューサーの吉田直樹と打ち合わせを重ねゲームのストーリーに向き合った結果、「FFXVI」の世界の中でこそ響くエモーショナルなテーマソングが完成しました。
また本人描き下ろしのジャケットに描かれている青い狼は、主人公のクライヴと旅を共にする狼・トルガルをイメージしていると思われます。
どんな情景が描き出されているのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
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月明かり柳が揺れる わたしは路傍の礫
思い馳せるあなたの姿 羊を数えるように
≪月を見ていた 歌詞より抜粋≫
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冒頭の歌詞から、月明かりの下で1人佇む主人公の姿が見えてきます。
月明かりに照らされた大きな柳を見つめ、自分自身が「路傍の礫」のように取るに足らない存在だと感じているようです。
そんな主人公が考えるのは「あなた」のこと。
「羊を数えるように」思い馳せるという表現が印象的です。
眠るまでの間にゆっくりと羊の数を数えていくように、大切な人の様々な姿をいくつもじっくりと思い返している様子が伝わってきます。
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別れゆく意味があるなら せめて悲しまないで
沈黙から離れた空へ 一筋の愛を込めて
どんな夜だって 失い続けたって
共に生きてきたろう 瞬くように
≪月を見ていた 歌詞より抜粋≫
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主人公は大切な人との別れを目前にしているのでしょう。
この別れに意味があるのなら、せめて「あなた」が悲しまないで受け入れられるといいと願っています。
もしかしたら主人公自身に死が近づいていて、残されることになる大切な人の心を気遣っているのかもしれません。
語る言葉もなく沈黙が広がる静寂な夜の中で、これから自分が向かうことになる遠い空を大切な人への「一筋の愛」を込めた目で見つめています。
多くのものを失い続けた日々さえ一瞬のことのように感じるほど、濃密な時間を共に生きてきた記憶が次々と蘇ります。
あなたがいれば幸せだった
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その窓を風が叩けば 僅かに開け放して
ただひとつ そうただひとつ 語り得ぬ声で叫ぶ
生まれ変わったとして 思い出せなくたって
見つけてみせるだろう あなたの姿
≪月を見ていた 歌詞より抜粋≫
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2番の歌詞は、1番で主人公が「あなた」と呼んでいた人物の目線で綴られていると解釈できそうです。
風が窓を叩く音に何かを察知した様子から、主人公の死を予感したと思われます。
言葉とも取れない声で叫んだ「ただひとつ」とは、主人公の名前なのかもしれません。
大切な人の死に直面し、悲しみに泣き叫んでいる姿が想像できるでしょう。
しかしただ悲しんでいるわけではなく、生まれ変わりを空想しているようです。
もし生まれ変わることができたとしたら、これまでの記憶を思い出せなかったとしてもきっと「あなたの姿」を見つけてみせると確信しています。
この人にとっても主人公がかけがえのない存在であることが読み取れます。
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全てを燃やして月を見ていた
誰かがそれを憐れむとしても
あなたがいれば幸せだったんだ
およそ正しくなどなかったとしても
消えたりしない
≪月を見ていた 歌詞より抜粋≫
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「全てを燃やして月を見ていた」というフレーズは、自分の命や心を燃やして生きてきた思い出を回想しながら月を見ている情景を表していると考察しました。
その人生と選んできた道が正しかったかどうかは分かりません。
それでも「誰かがそれを憐れむとしてもあなたがいれば幸せだったんだ」と感じています。
自分たちの想いや決定を誰もが正しくないと否定しようと、主人公と過ごしてきた時間は決して消えることはないのだと心の底から強く思っていることが窺えます。
あなたを想って月を見ていた
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名前を呼んで もう一度だけ
優しく包むその柔い声で
月を頼りに掴んだ枝が あなただった
≪月を見ていた 歌詞より抜粋≫
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離れ離れになった2人は「名前を呼んで もう一度だけ」と切実に願っているようです。
「優しく包むその柔い声」が自分の名前を呼んでくれる度に安心でき、力づけられてきました。
「月を頼りに掴んだ枝があなただった」という表現は、1番で登場した柳に相手を重ねている描写だと解釈できます。
柳はしなやかさが特徴で、大きな力が加わっても折れにくい植物です。
困難な状況に直面しても倒れてしまうことなく己を保ち続けるその人の姿が、柳のように見えているのでしょう。
1番では柳と路傍の礫が並べられていました。
路傍の礫のような取るに足らない自分は、大きくてしなやかな強さがある「あなた」にいつも守られてきたという想いをお互いに持っていることが垣間見えます。
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何かを求めて月を見ていた
嵐に怯えるわたしの前に
現れたのがあなたでよかった
まるで何もかもがなかったかのように
この火は消えたりしない きっと
≪月を見ていた 歌詞より抜粋≫
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1番のサビと楽曲のラスサビで歌われるこの歌詞では、主人公が「あなた」との出会いに感謝していることが読み取れるでしょう。
以前の主人公は苦しんでいて、自分の心を癒やし救ってくれる存在を求めて縋るように月を見ていたと思われます。
そして訪れた嵐のような過酷な状況に怯えるしかありませんでした。
しかしそこへ「あなた」が現れ、2人は大切な相棒になりました。
もし相手がその人でなければ結果は変わっていたでしょう。
「あなたでよかった」という率直な言葉に主人公の温かな気持ちが見えますね。
死別による永遠の別れが2人を引き裂いても、「まるで何もかもがなかったかのように」なることはありません。
2人が出会って共に生きたことにより灯った愛や情熱、希望といった心を熱くする「この火は消えたりしない きっと」と信じています。
おそらく夜明けが来れば本当の別れが来てしまうはずです。
だからこそ残りわずかな時間を大切にし、月を見ながらお互いのことを想っている姿が繊細に描かれています。
ゲームをプレイして楽曲の本当の意味を知ろう!
米津玄師の『月を見ていた』は、切なく美しい歌詞と力強い歌声が作り上げる世界観に引き込まれる楽曲です。1つの楽曲としても心を打つ内容となっていますが、ゲームをプレイし終えて初めてこの楽曲の真の意味が見えてきます。
「FINAL FANTASY XVI」をプレイした人にしか分からない主人公の本当の想いを、あなたも読み解いてみませんか?