Kanaria最新曲の主人公は魔王?
2023年7月7日にYouTubeにて投稿されたKanariaの新曲『デーモンロード』。イラストレーターのLAMによる赤と黒を基調として描かれたMVイラストを見て、Kanaria作詞作曲の“七つの大罪”シリーズを連想した方も少なくないでしょう。
タイトルの「デーモンロード」という言葉は、一般的に鬼神・守護神・悪魔などを意味する「デーモン(demon)」と支配者や権力者を意味する「ロード(lord)」を掛け合わせたものと考えられます。
MVによると今作の主人公は角と翼が生えた女性で、明らかに人外のキャラクターであることが窺えます。
また『KING』の主人公が座っていたのに似た玉座に座っていることや、両脇に従者らしき人物を従えていることからも、この主人公は魔王のような存在であると解釈できそうです。
さらに、赤い手袋を身に着けているのも目を引きますよね。
赤い手と言えば『KING』の過去の姿を描いていると考えられた『EYE』で主人公にまとわりついていた手を思い出させます。
これらの点を関連づけると、この主人公が『KING』が王に上り詰めるのを裏で操るなど、“七つの大罪”シリーズのキャラクターたちの動向を見守り罪を犯すよう導いていた魔王と見ることができそうです。
本作ではこれまで多く使用してきたGUMIではなく初音ミクの歌唱であることも、両者の関係性の違いを表現しているのかもしれません。
どのような世界を描いているのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
罪を犯すよう唆す主人公
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プレイバック 俯いてどうした
この先の明日 瞬きの合間 儚き
メイクアップ まだ見えてますか
底知れぬ谷が その先の 夢を見てる
≪デーモンロード 歌詞より抜粋≫
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主人公が語りかけるのは、自分に次々と降りかかる苦しい状況を「プレイバック」し俯いて歩く人々のようです。
そんな彼らに、日々は「瞬きの合間」に過ぎていくような「儚き」ものなのに何を悩んでいるのかと言っているように感じます。
「メイクアップ(make up)」という言葉は化粧のイメージが強いですが、何かを作り上げることそのものを意味します。
その人たちは、それまで自分の中で築いてしまった絶望や不安という「底知れぬ谷」を見ているのかもしれません。
それでも状況が一変するかもしれないという不確かな希望を夢見て心を揺らしている人々の心理が、主人公には理解できていないように思えます。
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目の前にほら 広がる世界と
意味嫌うその 悪を裁く時
背を向けた性 蔓延る世の常
根を疑わず そのまま
もう私は一人きりじゃないわ
そうここから続く道はないわ
≪デーモンロード 歌詞より抜粋≫
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「いみきらう」という表現は一般に「忌み嫌う」という漢字が当てられ、嫌がって避けることを指して用いられます。
ところがここではあえて「意味嫌う」と表現されているのが印象的です。
悪そのものを退けているのではなく、その悪い行いが意味するものを嫌っているようなイメージを受けました。
人は悪い行いに誘われる罪深い感情に抗おうとするものです。
しかし魔王である主人公は、その感情を裁くということは人間の運命に逆らっているのであり、罪の蔓延るこの世界に相反して生きることになると囁きます。
自分自身が生まれ持った罪深さを受け入れて感情のままに生きればいいと、悪へ進むことを後押ししているシーンだと考察できそうです。
悪へ進む人が増えれば、主人公は一人きりではなくなります。
たとえその後、人々が罪を犯した先に真っ当な道はないと気づいてももう遅いのです。
ここで「道」という「ロード(road)」が登場しているため、タイトルの「デーモンロード」を「悪魔の道」と解釈することもできるでしょう。
人々が罪を犯し悪へと堕ちるなら、魔王とひとつになって悪魔として生きる道を進むことになるという結末を表現していると考えられるのではないでしょうか。
運命のシナリオの上で舞い踊れ
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魅せる圧倒的な理想型
そんな期待されてもう一生止まらない
糸切れたマリオネット
わがままな子だわ
≪デーモンロード 歌詞より抜粋≫
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2番を見ると、生まれながらに弱い人間と支配者としての力を持つ主人公が対照的に描かれています。
「マリオネット」は人間で、そのマリオネットを操っているのが主人公だと思われます。
主人公が理想の世界を体験させてあげると、人々はさらなる喜びを夢見るようになったようです。
そして主人公が操っていた人物は「糸切れたマリオネット」のように主人公の手から離れ、自分の意思で動き始めてしまいました。
それを見ながら、好き勝手に生きようとするなんて「わがままな子だわ」と呆れている様子が見えてきます。
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あなたは恋したマリオネット
きっと幸せなことが続くでしょう
神のエッセイ舞い踊れ
博学か無知か
≪デーモンロード 歌詞より抜粋≫
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「あなたは恋したマリオネット」とあることから、自由を手に入れたその人には好きな人ができたようです。
そのままでいけば「きっと幸せなことが続くでしょう」。
しかし、罪を犯させて自分の仲間を増やしたい主人公は、彼らのそんな幸せな状況を放ってはおきません。
「神のエッセイ」というフレーズは、運命は神が書いたシナリオであるという考えを伝えてきます。
全てが主人公のシナリオ通りに進んでいるその上で「舞い踊れ」、もっと楽しませてくれと嘲笑っているように見えます。
ダイスロールで決めた結末は?
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遠くに遠くに 耽美に無様に 芽生えたら
明日にgo give me all give me all さらば人よ
だってライフは一つだけ
故に遠くに遠くに 耽美に無様に 芽生えたら
明日にgo give me all give me all さらば友よ
ダイスロールは一度だけ Show Time So Fly
≪デーモンロード 歌詞より抜粋≫
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主人公は心の奥に悪の感情が芽生えたのなら「give me all(全部寄越せ)」と命令します。
全て渡してしまえば人間でなくなるという意味で、「さらば人よ」「さらば友よ」と別れを告げているのかもしれません。
「だってライフは一つだけ」という言葉で、命はひとつ、人生は一度だけだという現実が示されています。
だから本能に導かれるままに生きろと、悪に向かう心を肯定していると解釈できるでしょう。
後半に出てくる「ダイスロール」というフレーズは、ボードゲームやギャンブルでサイコロを投げることを意味する言葉です。
また、TRPGにおいてはプレイヤーが能力値や技能値などあらゆる行動の正否判定をする大事な行為と言えます。
人間として生き続けるか悪魔として自由に生きるかという人生を左右する決定を、人々に迫っているのではないでしょうか。
しかしどちらに進むのが本当に幸せかは分からずチャンスは一度しかないため、この決定はギャンブルです。
『デーモンロード』が投稿されたのが7月7日7時(午後)だったこともギャンブルを連想させますね。
ダイスを振って楽しいショーを見せてくれと高みの見物しているところは、まさに魔王らしい雰囲気です。
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発せよいっそ馬鹿どもraider
最後はどんな顔してるメイクアップ
発せよいっそ馬鹿どもraider
最後はきっと忘却のプレイバック
≪デーモンロード 歌詞より抜粋≫
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「raider」は侵入者や襲撃者を意味する単語です。
人間のことを指していると考えられますが、「馬鹿ども」と言っていることから見下しているのがよく分かります。
そして「最後はどんな顔してるメイクアップ」は死に化粧を、「忘却のプレイバック」は走馬灯を思わせます。
人間としての最後を迎えた時、それまでの記憶が蘇ってくるでしょう。
その時後悔しないように、限りある人間としての道を捨てて悪魔として生きる道を選べと言っているように感じます。
Kanariaが魅せる世界を堪能しよう
Kanariaの『デーモンロード』はダークな世界観と中毒性の高いサウンド、印象的なフレーズを用いた歌詞に引き込まれる楽曲です。MVは投稿からわずか1ヶ月で約550万回再生を記録しており、注目度の高さが窺えます。
これからどんな世界を見せてくれるのか、今後の作品にも期待が高まります!