TVアニメ「るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-」オープニングテーマ
1994年に『週刊少年ジャンプ』で連載が始まった大人気漫画『るろうに剣心』。2年後には初のアニメ化、そして2012年からは実写映画シリーズも公開された和月伸宏(わつきのぶひろ)原作の大ヒット作品です。
2023年7月には、そんな「るろ剣」の新作アニメ『るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-』の放送がスタートしました。
最新のアニメーション技術で原作を1話から再構築した今作。
そのオープニングを飾るのが同月6日に配信リリースされたAyase✕R-指定『飛天』です。
作詞を手がけた2人のコメントから、『飛天』では、めくるめく変化の中で強いられる選択や闘いが表現されていることがうかがえます。
大きな変化には付き物の迷いや葛藤。
それらを飛び越える勢いで綴られる『飛天』の歌詞には、果たしてどのような意味が見出せるのでしょうか。
傷だらけで抗う主人公の跳躍
今回は、『飛天』の主人公を「高い目標を達成しようともがき続けるドリーマー」と仮定してみました。
特に「刀」にまつわる描写は「信念」の象徴と解釈しています。
これらの点を踏まえ、前半の歌詞から考察していきましょう。
----------------
傷有りのさすらいの身
痛みに鈍感な僕たち
もう錆びついたりはしない
野晒し上等の切先
≪飛天 歌詞より抜粋≫
----------------
居場所が定まっていない傷だらけの「僕たち」。
痛みに慣れた主人公は「もう錆びついたりはしない」と決意をあらわにしている様子です。
ここでの「切先」は、普通とは一味違う尖った信念を表していると考えられます。
夢追い人によくある「〜で食ってく!」や「〜で天下を取る!」といった意気込みのようなイメージでしょうか。
次の歌詞も見てみましょう。
----------------
あくまでも感覚的に
正しいと思えた道を
僕たちは騙し騙し走ってきたんだ
間違いの一つや二つはあった
刷り込まれた相対的な
幸せに興味などない
譲れないもの守る為この
頭を捻る刀を握る
≪飛天 歌詞より抜粋≫
----------------
「感覚的に正しいと思えた道」とは、世間一般の王道とは異なる「自分がやりたいことを極める道」だと推測できます。
そんな茨の道をゆく人生では、きっと間違いも起こることでしょう。
それでも主人公は「相対的な幸せ」よりも自分の夢や信念を優先させる気のようです。
他人と比べて幸せかではなく自分自身が満たされているか。
譲れない信念を貫くため、主人公は考え、闘い、我が道を進みます。
次の歌詞です。
----------------
十字路で交差
昨日のようだ
記憶の奥で目を覚ます動乱
いとも簡単
魅入られそうだ
真っ赤な雨が奏でる鎮魂歌
儚く散る亡者 手招いてる門番
身の内から焼き尽くす業火
地獄だろうが
天国だろうが
見てる前 先を急ごうか
≪飛天 歌詞より抜粋≫
----------------
「十字路で交差 昨日のようだ」というフレーズは、変わり映えしない日々の中で変わらない自分に出会うことを表していると考えられます。
そんなパッとしない現実の隙をつくように「記憶の奥で目を覚ます動乱」。
もしかすると主人公には、容易に「魅入られそう(=何かに取り憑かれそう)」なほど血気にはやって人を傷つけ、やり場のない激情を鎮めていた過去があるのかもしれません。
周囲の「亡者」が身を滅ぼし、地獄の「門番」がその身を焼き尽くそうと待っているようないわく付きの現状。
しかし夢を追いかけた先が地獄だろうと天国だろうと、主人公は前だけを見て進む気のようです。
次の歌詞も見てみましょう。
----------------
傷まみれなんだとっくに
かさぶたもう一度剥がし
飛天 高く翔び立つ為に
≪飛天 歌詞より抜粋≫
----------------
何度転んでも立ち上がり、空高く飛躍する。
作中の「飛天御剣流(ひてんみつるぎりゅう)」の跳躍技さながら、高い目標に向かって飛翔するイメージが湧いてきますね。
続くサビの歌詞はこちらです。
----------------
しゃがみ込んだこの姿を
笑いたきゃ笑えばいい
汚れてなお空を睨む
僕たちはきっと誰より美しいぜ
さあ今日も耐えてみせる
泥臭く生きるのさ
≪飛天 歌詞より抜粋≫
----------------
疲弊して、困難に打ちひしがれそうな状態でも空を見て耐え忍ぶ主人公。
「僕たちはきっと誰より美しいぜ」という言葉は、泥臭く夢を追ってもがき続ける人の強力な支えになりそうです。
「そばかす」オマージュのラップ詞にも注目
続いて後半の歌詞を見ていきましょう。
----------------
誰彼の道楽的な
正しさに怯えた日々を
僕たちは流し躱し走ってきたんだ
間違い探しはうんざりなんだ
編み出された籠絡的な
称賛は味がしない
噛めば噛むほど
溢れる唾液に
お喋りも出来ない
≪飛天 歌詞より抜粋≫
----------------
「誰彼の道楽的な正しさ」とは、「好きなことなんて趣味にしておけばいい」や「そんなこと本気でやるもんじゃない」のような、夢に対する冷たい一般論のことでしょうか。
冷たい意見に怯えながらも「選んだ道は間違いではない」と信じ、主人公は日々を駆け抜けてきたのでしょう。
「籠絡(ろうらく)的な称賛は味がしない」というのは、自分を利用しようと近づいてくる人への興醒めを表しているのかもしれません。
夢に近づくほど増えていく手のひら返しに、主人公は閉口している様子ですね。
さらに続く歌詞はこちら。
----------------
振り上げる信念の納めどころ見失った鞘
綺麗な思い出だけじゃ膨れない肚括れなけりゃ無残
三枚に下ろされてさらば現世こそ修羅
罵声と歓声と返り血浴びて清めてく身体
≪飛天 歌詞より抜粋≫
----------------
肉体が「鞘(さや)」だとすれば、1行目は、夢を掲げているがゆえに後には引けなくなった自身の現状を表していると解釈できます。
続く歌詞「綺麗な思い出だけじゃ膨れない肚(はら)」は、きっとアニメ「るろ剣」最初期のOP曲・JUDY AND MARY『そばかす』のオマージュでしょう。
----------------
想い出はいつも
キレイだけど
それだけじゃ
おなかがすくわ
≪そばかす 歌詞より抜粋≫
----------------
悲しみや苦しみの記憶があってこそ満たされる何かがある。
「肚括れなけりゃ無残 三枚に下されてさらば 」は、その何かを得るための覚悟を決めなければ自分に負けてしまうというような意味合いかもしれません。
ちなみに剣心の刀は逆刃刀と呼ばれ、刃が自分自身に向いている代物です。
酸いも甘いも経験しながら自分との闘いに明け暮れる現世。
主人公が浴びている「返り血」は、常に眼前にある己との闘いの経験値だともいえそうですね。
次の歌詞も見てみましょう。
----------------
傷有りのさすらいの身
痛みに鈍感な僕たち
もう錆びついたりはしない
雨晒しも恥晒しも吉兆
傷まみれなんだとっくに
かさぶた何度も剥がし
飛天 高く翔び立つ為に
≪飛天 歌詞より抜粋≫
----------------
「雨晒しも恥晒しも吉兆」というのは、どんな困難も屈辱も高く飛ぶためのバネになるといったニュアンスでしょうか。
傷だらけで居場所も定まらない主人公。
冷遇を掻い潜り、己に打ち勝ってきたからこそ遠くの空を目指す決意が固まっているのでしょう。
「高く翔び立つ為に」主人公は何度でも立ち上がります。
そして最後のサビです。
----------------
しゃがみ込んだこの姿を
笑いたきゃ笑えばいい
汚れてなお空を睨む
僕たちはきっと誰より翔べる
たとえ今日が腐った日でも
明日がもっと終わっていても
一人くらいはこんなのでも
愛してくれると本気で信じてるぜ
嗚呼いつかいつの日にか
泥の中に咲いて雲の上で散るのさ
嗚呼馬鹿みたいな日々を
生き抜いてみせるのさ
≪飛天 歌詞より抜粋≫
----------------
たとえ現状が散々でも「僕たちはきっと誰より翔べる」。
今日がダメでも、明日がもっとダメでも、自分を肯定して生き続ける。
人称がずっと「僕たち」ということもあり、曲の主人公だけでなく夢を持つ全ての人に力がみなぎってくるサビですね。
「泥の中に咲いて雲の上で散るのさ」というフレーズには、泥中の蓮のように気高く生き、ただでは決してくたばらないという強い覚悟が感じられます。
いつか崇高な目標を達成すべく、主人公は今日も泥臭く、馬鹿みたいな日々を真剣に生き続けていくのでしょう。
泥臭く夢を追う「僕たち」へ
今回は、Ayase✕R-指定『飛天』の歌詞の意味を考察しました。人生における迷いや闘いが、めくるめくラップ詞も相まって疾走感たっぷりに伝わってくる歌詞でしたね。
『るろうに剣心』を詳しく知らなくても、大きな目標に向かって努力を続けている人にとっては特に心に響く1曲だったのではないでしょうか。
ちなみに「飛天」は仏教の世界で「空中を飛行する天人」を意味し、楽器を奏でたり花を散らしたりして仏を讃える役割を担っているそうです。
Ayase、R-指定、飛天の三者に共通するのは音楽を奏でるということでしょうか。
もしかしたら『飛天』の主人公は、この歌を聴くことによって勇気づけられる「僕たち」リスナーなのかもしれません。