スタレビを代表する名曲「木蘭の涙」
1981年にアルバム『STARDUST REVUE』でデビューした音楽グループ・スターダスト☆レビュー(通称:スタレビ)。ハスキーでソウルフルで伸びやかな歌声を持つ稀代のボーカリスト・根本要(ねもとかなめ)率いる4人組バンドです。
『今夜だけきっと』や『夢伝説』など、スタレビはそのレジェンド級の音楽活動のなかで多くの名曲を生み出してきました。
今回考察する『木蘭(もくれん)の涙』も、そんなスタレビの代表曲の1つ。
1993年にリリースされた楽曲で、作詞は作詞家の山田ひろし、作曲はベースの柿沼清史が手がけました。
切ない歌詞や心震える歌声が長きにわたって愛されている『木蘭の涙』。
果たしてその歌詞には、どのような意味が込められているのでしょうか。
遠い青春と死別の春
『木蘭の涙』では、愛する人「あなた」を亡くした主人公「わたし」の心情が綴られます。
冒頭のサビの歌詞はこちらです。
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逢いたくて 逢いたくて
この胸のささやきが
あなたを探している
あなたを呼んでいる
いつまでも いつまでも
側にいると言ってた
あなたは嘘つきだね
心は置き去りに
≪木蘭の涙 歌詞より抜粋≫
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いつまでも一緒のはずだった2人。
遺された「わたし」が発する「あなたは嘘つきだね」という言葉には、やり場のない愛や怒り、哀切などが読み取れます。
「胸のささやき」が「あなた」を探し呼んでいるというのは、何をしていても心のどこかで「あなたがいたら」と考えてしまうような状況でしょうか。
置き去りになった主人公の心は、愛する人への恋しさを持て余すばかりです。
次の歌詞も見てみましょう。
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いとしさの花篭
抱えては微笑んだ
あなたを見つめてた
遠い春の日々
≪木蘭の涙 歌詞より抜粋≫
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「いとしさの花籠」は、ポジティブな記憶や思い出を象徴していると考えられます。
愛でいっぱいの思い出を想起しながら笑みをこぼす主人公。
回想している「遠い春の日々」は、「あなた」に片思いをしていた青春時代という意味かもしれません。
次の歌詞はこちらです。
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やさしさを紡いで
織りあげた恋の羽根
緑の風が吹く
丘によりそって
≪木蘭の涙 歌詞より抜粋≫
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互いの「やさしさ」を持ち寄って生まれた「恋の羽根」。
これは、2人が恋人になったことや、希望に満ちた将来を語り合ったことなどをたとえているのではないでしょうか。
また、丘をなでるように吹く「緑の風」は、春から夏に変わるような2人の関係性の変化や成長を「緑風:青葉の中を吹き渡る初夏の風」になぞらえたものかもしれません。
明るい未来を夢見ていた2人。
しかし、その日々は長くは続きませんでした。
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やがて時はゆき過ぎ
幾度目かの春の日
あなたは眠る様に
空へと旅立った
いつまでも いつまでも
側にいると言ってた
あなたは嘘つきだね
わたしを置き去りに
≪木蘭の涙 歌詞より抜粋≫
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数年後の春に「あなたは眠る様に空へと旅立った」とのこと。
どうやら「あなた」は亡くなってしまったようです。
「眠る様に」という描写からは、「あなた」の病床や棺の前に主人公が立ち尽くすイメージも湧いてきますね。
愛する人に置き去りにされ、気持ちの整理がつかない「わたし」。
それでも、主人公の人生は容赦なく続きます。
木蘭のつぼみが開く頃
ここからは後半の歌詞を考察していきましょう。
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木蘭のつぼみが
開くのを見るたびに
あふれだす涙は
夢のあとさきに
≪木蘭の涙 歌詞より抜粋≫
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「木蘭」は、3月頃から開花を始める紅色の花。
「あなた」を失った春の日が近づくたび、「わたし」の悲痛は蘇ってくるようです。
そして「あふれだす涙は 夢のあとさきに」。
意識して温かい思い出を呼び覚ましたとしても、恋しさや喪失感が完全に消え去ることはないのでしょう。
このフレーズは、夢の中で「あなた」に会い、起きて気づいたら泣いているような状態を表しているのかもしれません。
春が近づくほど恋しさが募り、不可抗力で愛する人の夢を見る。
主人公の心には依然として「あなた」が大きな影響を与えているようですね。
次の歌詞も見てみましょう。
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あなたが来たがってた
この丘にひとりきり
さよならと言いかけて
何度も振り返る
≪木蘭の涙 歌詞より抜粋≫
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「あなたが来たがってたこの丘」は、2人が一緒にいた頃に語り合った将来(=「あなた」が生きていた場合の現在)のことだと解釈できそうです。
「いつまでも側にいる」と言っていた「あなた」は、主人公と生涯を共にする気でいたはず。
そして間違いなく「わたし」自身も同じ気持ちでいました。
そんなかつての理想とは裏腹に、今は互いに「ひとりきり」です。
「さよなら」を言い切れず、何度も「あなた」を思い返す主人公。
木蘭の開花を見るたび、揺さぶられる心。
続くサビの歌詞でも、孤独に悲嘆する主人公の心境が読み取れます。
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逢いたくて 逢いたくて
この胸のささやきが
あなたを探している
あなたを呼んでいる
(いつまでも) いつまでも
側にいると 言ってた
あなたは嘘つきだね
わたしを置き去りに…
≪木蘭の涙 歌詞より抜粋≫
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逢いたくて逢いたくて、心のどこかでいつも「あなた」を求めている「わたし」。
自分を置き去りにした「あなた」への想いには、恋しさや怒りなどが複雑に混ざり合っていることでしょう。
ちなみに、木蘭には「持続性」という花言葉があります。
恋しさ、怒り、孤独感、喪失感。
たくさんの感情が混ざり合い、春が近づくたびにあふれる涙。
『木蘭の涙』は、遺された者が抱き続ける複雑な情動、波打つような哀切を表したタイトルだといえそうです。
「あなた」を思い出す大切さ
今回は、スターダスト☆レビュー『木蘭の涙』の歌詞の意味を考察しました。繊細に紡がれる一音一音により、切ないストーリーがいっそう切なく感じられる楽曲でしたね。
言葉数が少ない分、聴く人それぞれが「わたし」と「あなた」のドラマを自由に想像できる点も大きな魅力だったかもしれません。
死別にしろそうでないにしろ、大切な人を失うのは悲痛なことです。
そのつらさをただ受け入れ、ときに相手を思い出し、涙する。
そんな主人公を歌う『木蘭の涙』は、失ったものを忘れず、失ったことに屈しないために必要な心の処方箋だともいえそうですね。
1981年アルバム『STARDUST REVUE』でデビュー。以来、一部メンバーチェンジを経て2001年より現在のメンバーになる。これまでにアルバム39枚をリリース。ライブの総数は2200回を越える。 2001年8月4日にデビュー20周年を記念して、静岡県つま恋で行った『つま恋100曲ライブ~日本全国味めぐり~お···