ボカコレランキング11位に輝いた注目曲を徹底解釈!
2023年8月8日にYouTubeにて投稿された原口沙輔の『人マニア』は、ボカロの祭典『The VOCALOID Collection ~2023 Summer~』のTOP100ランキングで11位を獲得した注目曲です。タイトルの「マニア」には「熱狂者」という意味があり、ひとつのことに熱中する人のことを指します。
そのことから、人間観察に熱中する“人マニア”の重音テトの視点で綴られた楽曲と解釈できそうです。
スマホを使用したMVも見どころがたくさんありますが、冒頭で「止めずに聴け!」という言葉が一瞬だけ映るのが特に印象的です。
人間は何が書いてあるか気になって動画を止めるだろうと見透かしている上に、MVの細部まで知ろうとするリスナーたちにもっと曲に集中しろと注意しているようでハッとさせられます。
この曲でどんなメッセージを示そうとしているのか、気になる歌詞の意味を考察していきましょう。
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興奮してきた 人様の業で
センター分けの つむじ刺す
アホの吐血見てると
チョキで 勝てる気すんな
≪人マニア 歌詞より抜粋≫
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人間観察を楽しむ主人公は「人様の業」を見て興奮しています。
これはおそらくSNS上で見られる投稿やユーザー同士のレスバ(レスポンスバトル)のことを指していると考えられます。
「センター分けのつむじ刺す」のフレーズは解釈が難しいですが、センター分けにするとつむじが目立つので、SNSで見られる人の粗に過剰に反応して叩く行為を指しているのかもしれません。
主人公はSNSで繰り広げられるレスバや誹謗中傷を見て、人間の性質を興味深く観察しているようです。
「アホの吐血」はあるユーザーがレスバで言い負かされている様子を表しているのでしょう。
頭脳が足りないことを「頭がパー」という風に表現することがあるので、じゃんけんとかけてそんなアホは「チョキで勝てる気すんな」と辛辣に評価しています。
スマホの中でトビたい人間たち
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手抜くぞ すぐ抜くぞ
スポーツ スポーツ
腰抜けよ
子供の前で 着ぐるみを脱ぐ
『な~~んだ?』
≪人マニア 歌詞より抜粋≫
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レスバは勝敗がつくまで激化することからスポーツのような一面を持っています。
なかには負けそうになると手を抜いて、勝敗を有耶無耶にしようとする人もいるのではないでしょうか。
主人公は激化するレスバを楽しんでいるので、そうした人たちを「腰抜け」と見ているようです。
「子供の前で着ぐるみを脱ぐ」のは夢を壊す行為。
SNSと関連させるなら、真面目な反応をする「マジレス」のことと言えそうです。
白熱しているレスバの最中にマジレスで水を差すユーザーは、自分を誇示したいだけだから邪魔をするなと言っているように感じました。
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A.私
ビバ良くない!
ただ物足りない!
うん、小さくなってく器で
トびたい! トびたい!トびたい!
ポリエステル仕事 はムリか
金で殺して 愛を買うね。
≪人マニア 歌詞より抜粋≫
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サビでは特徴的なフレーズがリズム良く展開されていきます。
「ビバ」はイタリア語などで「万歳」を意味する言葉で、日本では「最高」というようなニュアンスで何かを賞賛したりあるものを強調したりするイメージが強いでしょう。
この歌詞では「良くない!ただ物足りない!」と続いているので、一般的に良くないとされることをするのは楽しい、でもまだ物足りないとユーザーたちがもっと刺激を求めていることを表しているのではないでしょうか。
「小さくなってく器」とは、スマホのことを指していると思われます。
ひと昔前はパソコンが主流でしたが、時代と共にどんどん小型化されて今ではほとんどの人がスマホでどこでもネットやSNSを楽しめるようになりました。
しかし手軽になったからこそ、他者を過剰に叩いたり誹謗中傷したりする人が増えているのも事実です。
そうした人たちは「トびたい!」と自分の楽しさや快感を優先させ、人を平気で傷つけています。
続く「ポリエステル仕事」という言葉は、ポリエステルが燃えやすい素材であることを考えると炎上商法のことを意味しているのでしょう。
あえて非難を浴びるような不適切な発言で注目を集めようとしたり、そうすることを検討したりしている人たちへの皮肉が込められているような気がします。
「金で殺して愛を買うね。」のフレーズは、お金で投稿への「いいね」を買うことを表しているようです。
このサビの歌詞ではネットやSNSを使う人たちのモラルについて問題提起していると考察できます。
全毒を背負って生きろ
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晩年
あ、消した。 環境の為に。
≪人マニア 歌詞より抜粋≫
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自分や周囲の「環境の為に」不都合になりそうな投稿を消すユーザーは少なくないでしょう。
主人公がネット上の仮想の存在である重音テトであると考えると、SNSでしか人間観察を楽しめない彼女が投稿を消されてしまったことにがっかりしている様子を描いていると思われます。
「X」と書いて「Twitter」と読むところには、まだ変化を受け止め切れていない世論が表現されています。
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xだけの 人マニア
罠の 墓穴見てると
塩を かける傷!
恋人の前で 血まみれになる
≪人マニア 歌詞より抜粋≫
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主人公はほかのユーザーを貶めようと罠を仕掛けた人が反対に墓穴を掘っているのを見つけました。
彼女はその傷に塩を塗ってもっと傷つけたい衝動に駆られています。
そうすればその人は恋人のように一緒にいるスマホの前でとことん傷つけられることになるので、もっと面白い反応を見せてくれるだろうと期待しているのかもしれません。
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すまんね。
ああ…すまんね。
最高だよ
本当! 本当!
小さく成ってく冠婚葬祭
蹴りたい! 蹴りたい!蹴りたい!
生きろ。
悪意も 恥も 償いも
≪人マニア 歌詞より抜粋≫
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主人公がSNS上のあれこれを見て「最高だよ 本当!本当!」と無邪気に楽しんでいる気持ちが表現されています。
「小さく成ってく冠婚葬祭」というフレーズは、大切にされていたはずの冠婚葬祭の行事がどんどん小規模になっていることを示していると解釈できますね。
SNSを通じて姿の見えない他者との関係は深まっていく一方、身近な家族や友人との関係は希薄になっていっていることを対比して表した歌詞だと感じます。
そして小さくなった冠婚葬祭さえ「蹴りたい!」と蔑ろにしようとしている人たちのことを、主人公は嘆いているのではないでしょうか。
しかし死ぬことで逃げてはいけない。
自分が他者に向けて放った「悪意」も、匿名であることに気を大きくして晒した「恥」も、間違いに気づいて示そうとする「償い」も、SNSで生まれる全ての毒を背負って天寿を全うするために「生きろ」と告げています。
人間観察を楽しんでいる主人公だからこそ感じる、SNS上で見せる人間の歪みの面白さと皮肉が表現されているように思いました。
何度でもリピートしたくなる名ボカロ曲!
『人マニア』は原口沙輔の才能が光る中毒性の高いサウンドと機械的な重音テトの歌声がマッチしたボカロ曲の魅力が満載の楽曲です。この曲がTikTokやXを中心にSNSで注目を集めていることはまさに“人マニア”の為せる技。
あなたのSNSも重音テトに観察されているかもしれませんよ。