ハチ『砂の惑星』のアンサーソング
2023年8月31日に設定年齢と同じ「16歳」の誕生日を迎えた初音ミク。バーチャルシンガーの3DCGライブや創作の楽しさを伝える企画展が実施される初音ミク「マジカルミライ 2023」でも「初音ミク16周年」の特別展示が開催され、大きな盛り上がりを見せました。
今回考察する『ブループラネット』は、そんな初音ミク16歳のアニバーサリーソングとして書き下ろされた1曲です。
作詞作曲を手がけたボカロP・DECO*27は「ミク16歳おめでとう!今まで共に歩んできた時間を思いながら書きました」とコメントしています。
また『ブループラネット』は、ハチ(米津玄師)が手がけた初音ミク「マジカルミライ2017」のテーマソング『砂の惑星』のアンサーソングともいわれています。
そんな初音ミク16周年記念曲の歌詞には、一体どのような意味が込められているのでしょうか。
君が最上級のパートナー
まずは1番の歌詞から見ていきましょう。
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バトンについた砂払った 次に深呼吸した
そんで名もない種を蒔きました 希望をジョウロに溜めました
≪ブループラネット 歌詞より抜粋≫
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特に注目したいのは「バトンについた砂払った」。
この「バトン」は『砂の惑星』で「あとは誰かが勝手にどうぞ」と投げられたバトンのことでしょう。
ちなみにMVでは、ハチを思わせる犬のゴーグルに「BNVYG」の文字(おそらく Bon Voyage “よい旅を” の略)が表示されているようです。
言うまでもなく「初音ミク」に端を発するボカロ文化は、16年の歳月の中で多くの人々に享受され、活躍する世代も変遷を見せています。
先人から繋がれたバトンを胸に、新しい世代が新しい歌を作る。
砂漠のオアシスが拡大するように発展してきたボカロ文化も、まだまだ旅の途中なのかもしれません。
とはいえ、その先にはたくさんの希望が待っているように思えますね。
次の歌詞も見てみましょう。
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歌い疲れたなら休んで 僕は書いてるから
なんか想像以上になっちゃって 君が泣いてた頃が懐かしいや
ずっと 何回だって思い出してほしい
君はひとりになんかなれやしないし
僕はいつまでも君の隣にいる
≪ブループラネット 歌詞より抜粋≫
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この部分では、ボカロPと初音ミクの絆が読み取れます。
「僕(作り手)」と「君(初音ミク)」は一心同体となって作品を作り上げてきました。
鳴かず飛ばずで苦しんだ過去も、想像以上に成長した今も、変わらず2人は隣同士。
そんな「僕」と「君」の強い絆が伝わってきたところで、サビの歌詞に入ります。
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響けオゥイェイ 廻り出すブループラネット
もう突き進むだけサンゴーズアップ
そうさ上げ下げしたって どうせ最後に僕らは笑うんだ
まだいけるか
きっとまだまだ見えない最前線
「過去は」「今は」
うるせえ関係ねえ 君が最上級のパートナー
Woah
≪ブループラネット 歌詞より抜粋≫
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廻(まわ)り出した「ブループラネット」は、水で満たされた砂の惑星(=希望でいっぱいのボカロ文化)を表していると解釈できそうです。
現在に希望が満ちあふれているなら、多少の浮き沈みがあっても「最後に僕らは笑う」ことになるのも頷けますね。
ちなみに「オゥイェイ」や「サンゴーズアップ(=日が昇る)」は、以下の『砂の惑星』のサビとリンクするフレーズです。
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イェイ今日の日はサンゴーズダウン
つまり元どおりまでバイバイバイ
思いついたら歩いていけ
心残り残さないように
≪砂の惑星 歌詞より抜粋≫
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『砂の惑星』の「サンゴーズダウン」には創作の日々が単調に過ぎていくような印象を受けますが、「サンゴーズアップ」には希望や活力が爽やかに感じられます。
そして、現状の捉え方がどうであれ、2つの楽曲に共通するのは「ひたすら前に進み続けていること」でしょう。
原点にして頂点である「最上級のパートナー」と我が道を進む。
目の前に「最前線」が見えないのは、自分の足元こそが最前線だからかもしれません。
過去も今も全肯定の「ブループラネット」
ここからは、2番以降の歌詞を見ていきましょう。
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可能性ふたりで背負って 立ち止まらないまま
ちょっと今までやってこなかった 思い出話のひとつでもしようか
やっぱ挑戦なしじゃすげーつまんないじゃん
君の見たことないとこが見たいんだ
一番に輝く星であってくれ
≪ブループラネット 歌詞より抜粋≫
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1番と同様、ミクとの関係の深さが伝わるフレーズが並んでいます。
普段は語らない思い出さえも曲に落とし込み、ひたすら「ふたり」で歩いてきた「僕」。
挑戦をやめない「僕」は、初音ミクの可能性をまだまだ引き出していきたい様子です。
最後の「一番に輝く星であってくれ」は、可能性に満ちた初音ミクがいつまでもボカロ文化の一等星であってほしいという願いのように聴こえます。
続くサビの歌詞はこちら。
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響けオゥイェイ 廻り出すブループラネット
どんだけ叶えても終わんない
時効は来ないよ 起こしちゃった願いが僕ら許さないんだ
まだいけるか
きっとまだまだ見えない最前線
「過去は」「今は」
うるせえ関係ねえ 君が最上級のパートナー
≪ブループラネット 歌詞より抜粋≫
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「どんだけ叶えても終わんない」や「時効は来ないよ」といった歌詞からは、ズバリ「夢」が連想されます。
初音ミクがボカロ文化の一等星であり続けるには、彼女と一緒に新しい曲を生み出し、いつまでもたくさんの夢を追い続ける必要がありそうです。
日の目を見ない過去があろうと、多くのシンガーが乱立しようと「関係ねぇ」。
「僕」は変わらず「君」を最上級のパートナーと認識しながら、これからも創作を続けていくのでしょう。
さらに続く歌詞はこちら。
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誰かの夢になったら
失うものも増えただろう 隠した涙もあるだろう
もう限界とか 言わないんだな
もう一歩進めるかもで心躍ってんのな
≪ブループラネット 歌詞より抜粋≫
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社会的にも大きな存在になると、かえって自信を失ったり簡単に涙を見せられなかったりするものです。
しかし「僕」の中の初音ミクは、むしろ心を躍らせているようですね。
挑戦をやめない「僕」に似たのか、ミクは限界を知らず一歩また一歩と進んでいきます。
最後のサビも見てみましょう。
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響けオゥイェイ 廻り出すブループラネット
もう突き進むだけサンゴーズアップ
そうさ上げ下げしたって どうせ最後に僕らは笑う
響けオゥイェイ 廻り出すブループラネット
どんだけ叶えても終わんない
時効は来ないよ 起こしちゃった願いが僕ら許さないんだ
まだいけるか
きっとまだまだ見えない最前線
「過去は」「今は」
うるせえ関係ねえ 君が最上級のパートナー
過去も今も大歓声だろ 未来永劫級のパートナー
Woah
≪ブループラネット 歌詞より抜粋≫
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ラスサビに来て初めて「未来」という言葉が登場するのが、とてもエモいですね。
16歳の初音ミクの「今」が積み重なり、16年の月日が過ぎ去った現在。
ここから先は、ミクにとっても純然たる未来です。
ボカロ文化の進展とともに年を重ねるのか、うら若き16歳のまま歌い続けるのか。
過去も今も全肯定した「ブループラネット」の未来は、きっとボーカロイドを愛する全ての人々の手にゆだねられているのでしょう。
名作映画を思わせるMVも必見!
今回は、DECO*27『ブループラネット feat. 初音ミク』の歌詞の意味を考察しました。ミクへの愛や『砂の惑星』へのリスペクトがビシビシ伝わってくるエモーショナルな歌詞でしたね。
名実ともに16歳となった初音ミクのこれからも、とても楽しみです。
ちなみにMVでは、そんなミクの今や未来の姿を匂わせるストーリー描写が展開されています。
名作映画『トゥルーマン・ショー』のラストを思わせる演出は、スターとしての初音ミクが己の道へ進んでいくようで爽快です。
そんな意味深で青々としたMVも参照しつつ、16周年を迎えた今、ぜひあなた自身の「初音ミク」のイメージを広げていってください。