リメイク版「三日月ステップ 2023」もリリースされた人気曲!
2020年3月26日にボカロP・r-906が発表した『三日月ステップ』。初音ミクをフィーチャリングした曲で、r-906の作品のなかでも特に人気の高い楽曲です。
2023年には『三日月ステップ 2023』としてリメイクされ、新しいMVも公開されました。
『三日月ステップ』の歌詞に関して、r-906は「複数通りの解釈ができるよう制作しています。今回のMVはそのうちのひとつ」とコメントしています。
多くの考察が飛び交い、リスナーのイマジネーションをかき立てる『三日月ステップ』。
果たしてその歌詞には、どのようなストーリーが見出せるのでしょうか。
三日月と二人だけの世界
今回の考察では、『三日月ステップ』の主人公を「推しに焦がれている人」と仮定して解釈してみました。
知名度が上がる前のアイドルや俳優などが「満ちる前の月」とリンクしているという仮説です。
それを踏まえて、1番の歌詞から見ていきましょう。
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気付いてない 誰一人
朱の空に ただ冷ややかに
ビルの隙間に 恋する様に
見惚れてたいの いなくなってしまう前に
≪三日月ステップ 歌詞より抜粋≫
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日の入りの西の空に輝く三日月は、夕暮れ時でなければなかなか見つかりません。
そんな三日月を、主人公はビルの隙間の「朱の空」に捉えたようですね。
誰一人として気づいていないのに、ただ「冷ややかに」存在する三日月。
「冷ややかに」という言葉には、落ち着いて動じない様子が感じ取れます。
ただ自分だけのためにそこにいるように見えるのは、三日月の大きな魅力です。
そしてそれは、人気になる前の “推し” のような、自分に近いところで輝く存在にも通じることでしょう。
三日月がいなくなってしまう前に(推しが遠い存在になってしまう前に)、主人公はできるだけ夢を見ていたいのでしょうね。
続くサビの歌詞はこちらです。
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一方的に愛を語らせてよ しららかな三日月
さあ僕の手を取って 軽やかにステップを
あと少しだけ
だけどやっぱり君は頬を膨らすのさ
僕の気も知らずに
さあ僕の手を取って 鮮やかにステップを
夜が来るまで
≪三日月ステップ 歌詞より抜粋≫
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主人公が「しららかな(=白くはっきりした)三日月」に対してダンスのお誘いをしているように読み取れます。
自分にしか見えていないわずかな時間だけ、頭の中で二人の世界を謳歌する。
それが主人公「僕」の「一方的な愛」の形なのかもしれません。
しかし、そんな「僕」の愛情をよそに「やっぱり君は頬を膨らす」とのこと。
このフレーズは、月日が経って三日月が満月になる(推しが有名になって多くの目にさらされる)ことをたとえた表現なのではないでしょうか。
すぐに会えなくなったり、遠い存在になってしまったりする「君」。
近くで「君」を拝めるうちに、主人公は二人だけの時間を堪能します。
「誰かのモノ」になった三日月
ここからは2番以降の歌詞を見ていきましょう。
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見つめても 愛しても
その肌は 誰かのモノで
目を疑う カゴの中
売られてたんだ 虫唾が走る
いついつまでも 片想い
分かってるのに 何故こんなに悔しいの?
≪三日月ステップ 歌詞より抜粋≫
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1番から一転、不穏な空気が漂う2番は「推しの熱愛を知った主人公」の描写だと推察できます。
主人公の想いとは裏腹に「誰かのモノ」である「君」。
「カゴの中」で売られていたというのは、スマホの中のネット記事やラックに入った雑誌などで推しのスキャンダルが報じられていたという意味に解釈できそうです。
そんな思いもよらぬ事態に、主人公は嫌悪感を隠せません。
ただ、同時に「いつまでも片想い」の現実があることもしっかり自覚しています。
そんなもやもやした心境に説明がつかず、主人公は苦悩している様子ですね。
続くサビの歌詞も見てみましょう。
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一方的に君を奪われた様 そんなはずはないのに
いくら呼んだって 答えてはくれないでしょう?
誰の声でも
つまり同様 僕のモノでもないのさ
嗚呼、粗末なアイロニー
だから君を思って泣く意味も無いのさ
でも嫌なんだ!
≪三日月ステップ 歌詞より抜粋≫
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一方的な愛をもって描き出した夢。
一方的に奪われて声も届かない現実。
1番からの落差は、主人公の喪失感をいっそう強く感じさせます。
そして肝心なのは、最初から「君」は「僕のモノでもない」ということ。
「僕のモノでもない」ものが「誰かのモノ」になったとしても、それに対してとやかく言うことに正当性はありません。
「粗末なアイロニー」は、きっと自分に対しての皮肉なのでしょう。
しかし、そんな論理では納得できないのが人の感情というもの。
「君を思って泣く意味も無い」とわかっていながら「でも嫌なんだ!」と訴える気持ちは、きっと誰もが想像できるのではないでしょうか。
さらに続く歌詞でも、主人公がぐるぐる悩み考えていることがうかがえます。
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僕のモノじゃないのに
僕のモノじゃないけど
≪三日月ステップ 歌詞より抜粋≫
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「僕のモノじゃないのに」奪われて動揺する心。
それでも主人公は「僕のモノじゃないけど」と、何かを決意した様子です。
最後のサビに入ります。
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一方的に愛を語らせてよ! しららかな三日月
さあ僕の手を取って 軽やかにステップを
あと少しだけ
≪三日月ステップ 歌詞より抜粋≫
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心をかき乱された「僕」ですが、これまでと同様の「一方的な愛」を注ぐ道を選んだように読み取れますね。
どこか気持ちが吹っ切れたのか、そのステップも軽やかです。
三日月はいずれ満月になり、そしてまた光を失っていきます。
それは推しの一生、ひいては人の一生にも通じる現実です。
たとえ「君」が「誰かのモノ」でも一方的に愛し続ける。
今後も満ち欠けしていく三日月に対し、主人公はそんな誓いを立てたのかもしれません。
もしくは、他の相手を見つけてやり場のない「一方的な愛」を注ぐつもりだとも考えられます。
三日月は、時が経てばまた現れるのですから。
自分だけの「三日月ステップ」を
今回は、r-906 feat. 初音ミク『三日月ステップ』の歌詞の意味を考察しました。“三日月” に対する「一方的な愛」の切なさや、奪われた瞬間の気持ちの落差が印象的な歌詞でしたね。
自分が好きなものが誰かのものになる感覚は、生きていれば少なからず経験するものでしょう。
ここでは「推しを愛し、奪われる主人公」を想定しましたが、r-906のコメントにもあるように、他にも解釈はさまざま考えられます。
自分にとっての「三日月」をイメージしながら歌詞を読み解き、ぜひとも独自の解釈を見出してみてください。