ミスチルがいま届けたいメッセージを徹底解説
人気バンド・Mr.Childrenが2年10ヶ月ぶりにリリースする21枚目のオリジナルアルバム『miss you』から先行配信された楽曲『ケモノミチ』。
冒頭はギターのメロディと桜井和寿の歌声で弾き語りのように進行し、中盤から壮大なストリングスのアレンジやドラムのリズムが加わる構成となっているのが特徴です。
そのシンプルさが歌詞に綴られた想いをいっそう引き立てています。
現代社会をMr.Childrenがどのように見つめているのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
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風上に立つなよ
獣達にバレるだろ
そんな時代だったら
俺らとうに死んでる
ほら ふわふわとマヌケが通る
生温い風を受けて
≪ケモノミチ 歌詞より抜粋≫
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実際の獣道では風上に立つと匂いで野生動物に存在がバレてしまいます。
もし世界がそんな危険に満ちている時代だったとしたら「とうに死んでいる」くらい人は無力な生き物です。
だから主人公は行動には注意が必要だと伝えています。
そして自分の意思がなく「生温い風」のような周囲の雰囲気に流されて漂う人を「マヌケ」と称し、そんな愚かな生き方をしていていいのかと問いかけてきます。
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法律も物の価値も
時と共に変わってく
バランス取るだけで
精一杯 消耗してく
また クラクラと目眩起こすよ
脳味噌振り回され
≪ケモノミチ 歌詞より抜粋≫
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世間のルールや物の価値が時代の移り変わりに合わせて変わるのを目の当たりにしている昨今。
数年前まで非とされていたことがいつの間にか当たり前に受け入れられていたり、昨日まで見向きもされなかった作品が一夜にして世界的に絶賛されたりすることさえあります。
揺れ動く毎日の中で「バランス取るだけで精一杯」になり、心が消耗していくのを感じている人は少なくないでしょう。
世界の動きに圧倒されて目眩を起こしそうな主人公は、現代を生きる全ての人のことなのかもしれません。
誰にも届かない匿名のSOS
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誰に SOS を送ろう
匿名で書いた 柔な叫びを
鼓膜でくらうロックンロール
束の間 潤う
≪ケモノミチ 歌詞より抜粋≫
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サビで主人公は誰に助けを求めればいいのかと考えます。
「匿名で書いた柔な叫び」のフレーズから、SNSに自分の気持ちをぶつけている様子が想像できるでしょう。
そうしてみてもSOSは誰にも届かないから助けを求めて声を上げることすら無駄に思えて、人々は口を噤んでしまいます。
ロックンロールという音楽は社会に抵抗し、自由を求める人々のエネルギーに満ちたダンスミュージックです。
感じるままに自分の感情を音楽に乗せて吐き出すロックンロールを聴いている時だけは、まだ自分にも救いがあるのではないか、「柔な叫び」を上げてもいいのではないかと渇いた心が潤うのを感じているようです。
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「いつまでも待つよ」と
言ってたっけ あの人
今何してるかな?
そんなこと ボンヤリ
また ふわふわとマヌケが通る
昨日を引き摺りながら
≪ケモノミチ 歌詞より抜粋≫
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かつては「いつまでも待つよ」と自分が助けを求めるのを待ってくれている人もいました。
しかし本当に助けを求めたいと思った時には時間が経ち過ぎていて、その人が今どこで何をしているのかも分かりません。
もっと早く勇気を出して頼っていたら、と未練の気持ちが浮かんできます。
溢れる繊細な気持ちを歌う
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君に Love Song を送ろう
月に爪弾いた 孤独のメロディ
その耳にだけ残るように
声もなく 歌う
≪ケモノミチ 歌詞より抜粋≫
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この部分では愛について考えているようです。
主人公はここにはいない愛する人のためのラブソングを歌おうとしています。
「月に爪弾いた 孤独のメロディ」という言葉が、その情景の美しくも寂しい雰囲気を醸し出しています。
月夜に一音一音大切に弦を弾くギターの切ない音色が響き、言葉にならない想いがあふれていく様子が見えてくるでしょう。
想いは伝わらなくてもいいからこの音だけでも届いてほしいという繊細な気持ちが感じられます。
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誰に SOS を送ろう
匿名で書いた 鈍い痛みを
眠れず独り目論む
「仕返し」だけが希望
声もなく叫ぶよ
≪ケモノミチ 歌詞より抜粋≫
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日常の中で感じる「鈍い痛み」に共感してくれる人を求めてSNSで愚痴をこぼす日々。
それでも一向に癒されない痛みに眠れない夜を過ごしている人もいます。
「独り目論む「仕返し」だけが希望」のフレーズから、いつかこの世界に反旗を翻してやるという強い考えだけが主人公を支えていることが分かります。
すぐに取って喰われるほどではないとしても、確かに人は獣道のような険しい世界に生きています。
声を上げることも難しいですが、それでも助けを求めて叫ぶ強さや人を愛する気持ちを忘れずにいようと人々に訴えかけているような楽曲です。
進化し続けるミスチルの音楽に心が震える!
苦しい現実を受け止めながらも力強く生きようとする『ケモノミチ』の歌詞は、デビューから31年経った今でも第一線で活躍し続けるMr.Childrenだからこそ表現できる想いのように感じました。楽曲配信に合わせて公開されたMVは、モノクロで撮影された山や森の風景の中に絞り出すような歌声と共に歌詞が浮かび上がるのが印象的です。
きっと悩みや苦しみを抱えながら生きる多くの人々の希望になってくれるでしょう。
1992年ミニアルバム「EVERYTHING」でデビュー。 1994年シングル「innocent world」で第36回日本レコード大賞、2004年シングル「Sign」で第46回日本レコード大賞を受賞。 「Tomorrow never knows」「名もなき詩」「終わりなき旅」「しるし」「足音 〜Be Strong」など数々の大ヒット・シングル···