プロセカ追加のピノキオピーの人気曲は生き方を問う
社会問題がテーマの風刺的な歌詞をキャッチーなメロディに乗せた楽曲に定評のあるボカロP・ピノキオピーが、2016年にリリースした『すきなことだけでいいです』。プロセカこと人気音楽ゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」の3周年記念楽曲追加キャンペーンにて追加された10曲のうちのひとつに選ばれ、再び注目を集めています。
今作ではどんな問題を取り上げているのか、さっそく歌詞の意味を考察していきましょう。
----------------
平日は嫌 休みが好き 仕事は嫌 二度寝が好き
怠けたまま暮らすの無理 遠のいていく意識
野菜は嫌 ハンバーグが好き 麦茶は嫌 ジュースが好き
甘えんな でも甘味は好き 生前の1ぺージ
≪すきなことだけでいいです 歌詞より抜粋≫
----------------
1番冒頭ではおそらく誰しもが抱いている気持ちが代弁されています。
平日は学校へ行ったり仕事をしたりしないといけないから嫌で、反対に「休み」や「二度寝」が好きだからできるだけ怠けていたいというのが多くの人の本音でしょう。
健康のために苦手な野菜を食べるのも嫌だし、飲み物は美味しいジュースがいい。
好みはそれぞれだとしても自分が好きなものだけ選んでいいのであれば、これほど幸せなことはないですよね。
しかし現実は「怠けたまま暮らすの無理」で、好きなことだけしようとすると周囲から「甘えんな」と言われてしまいます。
好きなことを楽しみたいという単純な願いさえ叶えるのは簡単ではありません。
----------------
好きなことだけ見つめて だんだん 視力が弱くなる
好きなことで満たされて だんだん 頭が悪くなる
≪すきなことだけでいいです 歌詞より抜粋≫
----------------
好きなことだけしたいと思うのは自然なこととはいえ、好きなことだけをする人生は本当に幸せなのでしょうか?
ここでは好きなことだけ見つめていると「だんだん視力が弱くなる」、好きなことだけで満たされると「だんだん頭が弱くなる」と歌っています。
確かに嫌なことも避けずに見ているから視野が広くなり、もっと多くの良いものを取り入れることができているはずです。
そして学校や仕事に頑張って行くからこそ、様々なことを学び幅広い知識や知恵を身に着けることができるのでしょう。
この点を思い出させ、ただ好きなことだけを選ぶ人生でいいのだろうかと問いかけてきます。
理性と欲望に揺れる気持ち
----------------
好きなことだけでいいです
みんな 好きなことが好きなんです
好きなことだけでいいです
みんな 嫌なことは嫌なんです
好きなことだけでいいです
ほんと 好きなことだけでいいです
全人類が好きなことやったら 世界は滅亡するけど
好きなことだけでいいです
君のことが ほんとに好きなんです
好きなことだけでいいです
君は違う誰かが好きなんです
好きなことだけでいいです
やっぱ それだけじゃ難しいです
全人類が幸せになったら 宇宙が迷惑するから
≪すきなことだけでいいです 歌詞より抜粋≫
----------------
怒涛のように畳みかけるサビでは、タイトルでもある「すきなことだけでいいです」というフレーズが繰り返されています。
理性では「全人類が好きなことやったら世界は滅亡する」のは分かっています。
でも自分の欲望に忠実になって「すきなことだけでいいです」と主張したくなる気持ちも否定できません。
一方で、好きなことだけをしようとする主人公を阻む現実もあります。
主人公には好きな人がいますが、「君は違う誰かが好き」なので片思いです。
好きな人と結ばれないという嫌な経験をしたために、好きなことだけするのは難しいことを学びました。
「全人類が幸せになったら宇宙が迷惑する」のフレーズから、嫌なこともあるのが世界の理だという結論に達したと解釈できます。
好きなことと嫌なことがどちらもあるからこそ世界も人間もうまく回っているのです。
----------------
天使は嫌 悪魔が好き 天国は嫌 地獄が好き
あべこべだった 君の趣味 人それぞれのクレイジー
生物は嫌 機械が好き リアルは嫌 虚像が好き
偏っていた 君の趣味 悪化して思考停止
≪すきなことだけでいいです 歌詞より抜粋≫
----------------
2番では主人公が好きな「君」の好みについて語られています。
その人は幸せそうな「天国」ではなく、ダークな「悪魔」や「地獄」が好き。
また温もりを感じる「生物」や「リアル」ではなく、冷たく無機質な「機械」や「虚像」が好きでした。
世間一般で好まれるものとは正反対のものが好きな人を変わっていると見なす人は少なくないでしょう。
しかし主人公はそんな「君」を好きになりました。
「人それぞれのクレイジー」とあるように何が好きで何が嫌いかは人によって違い、価値観は人の数だけ違うという事実を認めることが大切です。
世界が滅亡してから気づく嫌なことを受け入れる価値
----------------
好きなことに囲まれて 嫌なことが許せなくなる
好きなことだけで生きて どこかの誰かに恨まれる
≪すきなことだけでいいです 歌詞より抜粋≫
----------------
自分の好きなことだけを取り入れていると、嫌なことを少しも受け入れたくなくなってきます。
SNSは見たくないユーザーをすぐにブロックできるので、好きなものだけを見られる世界を簡単に作れてしまうツールです。
それで自分は満足できても「どこかの誰かに恨まれる」結果を作ってしまうこともあり、人間関係をより複雑にしているようにも思えます。
だから自分にとって嫌なものも許容する心の広さを失ってはいけないことを教えてくれているように感じます。
----------------
待ち合わせの約束があった
雨が嫌だから 行かなかった
出かけてたら 良いことあったかな
今際の際の走馬灯
≪すきなことだけでいいです 歌詞より抜粋≫
----------------
待ち合わせの約束があったのに「雨が嫌」という理由だけで行かなかったあの日。
もし嫌なことを受け入れて「出かけていたら良いことあったかな」と、死の間際に後悔が頭を過ぎります。
----------------
好きなことだけでいいです…
全人類が好きなことやったら 世界は滅亡するけど
好きなことだけでいいです
みんな 好きなことが好きでした
好きなことだけでいいです
みんな 嫌なことは嫌でした
好きなことだけでいいです
ほんと 好きなことだけでいいです
全人類が好きなことやったら 世界は滅亡したけど
好きなことだけでいいです
君のことが ほんとに好きでした
好きなことだけでいいです
君は違う誰かが好きでした
好きなことだけでいいです
やっぱ それだけじゃ難しいです
全人類が幸せになったら 宇宙が迷惑するから
≪すきなことだけでいいです 歌詞より抜粋≫
----------------
ラスサビでは文末が過去形に変化しているのが印象的です。
「世界は滅亡したけど」とあることから、この部分は全人類が好きなことだけを追い求めた結果、本当に世界が滅亡してしまった後の言葉であると解釈できます。
走馬灯を見たのも、世界が滅亡して主人公も命が危うい状態になったせいだということです。
どんなに好きでも両思いになれないことがあるように、誰もが嫌なことを受け入れながら生きています。
好きなことだけでは本当の意味で幸せにはなれません。
むしろ嫌だという気持ちに耐えながら努力したり、その気持ちを乗り越えたりすることによって得られるものの方が多いはずです。
この結末が現実の未来となってしまわないように、人がそれぞれ持つ好きなことも嫌いなことも楽しんでいきたいですね。
「すきなことだけでいいです」、本当に?
ピノキオピーの『すきなことだけでいいです』は好きなことだけで生きようとする人に疑問を投げかけながら、そうした人たちをすぐに叩こうとする風潮に初音ミクが水を差す構成がユニークなボカロ曲です。好きなことを重視する良い面と悪い面をストレートな言葉で表現していて、ハッとさせられる部分もあったのではないでしょうか。
ぜひこの楽曲を聞きながら、正直な気持ちを自分に問いかけてみてくださいね。