アーティスト・Reolの原点である人気曲を徹底考察!
ネットシーンの歌い手として人気を獲得し、2018年からはソロアーティストとして活動するReol(れをる)の名曲といえば『No title』でしょう。『No title』は2014年リリースの自主制作1stアルバム『No title+/-』の表題曲で、サウンドクリエーターのGiga(ギガ)と映像クリエーターのお菊との3人組サークル“あにょすぺにょすゃゃ”名義で制作されました。
Reolが初めて自分で出した楽曲ということもあり、現在のReolの原点として今なお大切にされています。
さらに2022年には、人気ボカロPでReolの長年のファンであるぬゆりとタッグを組み『No title- Seaside Remix』をリリース。
原曲リリースから8年が経ち、歌い方は変化しながらも変わらない透明感を持つReolのボーカルと、ぬゆりによる海の波の音が印象的な爽やかなサウンドがマッチした楽曲に仕上がっており、再び注目されることとなりました。
楽曲タイトルの「No title」は、当時使っていたガラケーでメールを新規作成する際につく件名から取られています。
自分から発信する時にしかつかないことから、この楽曲がReolの伝えたい想いを表現したものであることを示しているようです。
“無題”を意味する楽曲でどんな気持ちを伝えたかったのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
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ずっと夢見てた僕になれたかな とうに帰れないとこまで来たみたい
自分の足で二段飛ばしてそうもっと先へ駆けていけるはずだからran away
深くなる傷を縫い付け 繋ぐパス軸に廻りだす
慣れた痛み、焦る呼吸とビート 気付かないふりしてまた一人
≪No title 歌詞より抜粋≫
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夢を実現させるためにがむしゃらに頑張ってきたある日、ふと今の自分を見つめ直してこれが本当に自分のしたかったことなのだろうかと不安になることがあるかもしれません。
主人公も「ずっと夢見てた僕になれたかな」と迷いを抱いていますが、もう後戻りはできないところまで進んできていることは理解しています。
だから焦燥感に追い立てられるように「自分の足で二段飛ばして」もっと先へ進んでいかなければいけないと感じているようです。
その道中ではもはや痛みに慣れてしまうほど何度も傷つき、満身創痍です。
呼吸と鼓動が焦る気持ちに呼応するように速まっていくのにも気づかないふりをして、孤独に走り続けています。
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何が正当?ないな永劫 誰が間違った対価払うの
あんたが嫌いなあいつはきっとただ「それだけ」で不正解なんだ
0点だって提言したって全然納得できない理由も
最前線はいつだってここだった 最善策は最初からなかった
≪No title 歌詞より抜粋≫
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正当なものなんて一切ない世界で、人々が犯した間違いに対する対価は一体誰が払うのでしょうか?
嫌いという単純で個人的な理由だけで存在そのものに「不正解」のレッテルを平気で貼る間違いだらけのこの世の中には、きっと人々を救う「最善策」はありません。
しかしそんな理不尽にも折り合いをつけながら受け入れなければ、生きてはいけないでしょう。
「最前線はいつだってここだった」という言葉から、他人がどうかではなく自分自身がどう受け入れるかを決めていく必要があると覚悟を決めている様子が見えてくる気がします。
君がしてくれたように誰かへと歌を届けたい
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幼い頃から 気付いたら傍にいた
まるで空気のようだ 僕は君とぎゅっと手を繋いで
楽しいことも涙も 僕は君に話して聞かせた
僕を笑う人や貶す声が聞こえぬように君は歌った
≪No title 歌詞より抜粋≫
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「まるで空気」のようにいつも当たり前にそばにいる大切な人。
これは実際の友なのかもしれませんし、イマジナリーフレンドのように自分の中にだけいる空想の存在なのかもしれません。
どちらにしても、その存在が主人公を支え続けてきたことが分かります。
主人公は「君」にあったことを何でも話し、その人は主人公が自分を「笑う人や貶す声」を忘れることができるようにいつも歌ってくれました。
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この声を君が受信 また夜毎投影されてく憂い
使い捨てだっていって腐っても止まらないハイファイ、ツァイトガイスト
一周巡る間のたった一瞬だけでも交わる鼓動、音、繋ぐ色
次は僕が君に歌歌うから
≪No title 歌詞より抜粋≫
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「この声を君が受信」というフレーズで、Reolが歌い手としてネットに歌声を投稿している姿を連想できます。
多くの場合歳を重ねるにつれて、現実であれ空想であれ幼い頃の友は遠く離れてしまうものです。
そんな友へ届けたいと思い、自分の「憂い」の気持ちを歌に乗せて毎晩投稿を繰り返していると解釈しました。
歌い手のように人口の多い分野では自分が「使い捨て」のように思えるのかもしれません。
しかしどうせ使い捨てだと腐って立ち止まるか、自分の夢を目指して走り続けるかは自分次第です。
「ツァイトガイスト(Zeitgeist)」は時代精神という意味のドイツ語で、その時代を特色づける思想のことを表します。
周囲ではある風潮が当たり前のように見なされていて、その中で違う考えを持つ自分は取るに足りない存在のように感じることがあるでしょう。
それでも「君」が主人公の支えであったように、どこかで必ず同じ気持ちの人に出会える瞬間があるはずです。
その時を信じて歌い続けようとする気持ちが感じられます。
昨日の自分とは違っても変わらない想い
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いつか君に届くかな いやそんな日はきっと来ないだろうな
声も体も持たぬ君に 救われた何億人の一人
赤青合わせ彩った音で世界が溢れた
巡り巡り出会ったこの音を聴くすべてが「 」
≪No title 歌詞より抜粋≫
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主人公は歌い続けていれば「いつか君に届くかな」と想像しながらも、「きっと来ないだろうな」とすでに諦めています。
「声も体も持たぬ君に救われた何億人の一人」のフレーズを見ると、「君」はボーカロイドのこととも考えることができそうです。
ボーカロイドには実体はありませんが、その音から生まれたボカロ曲によって力を得て救われたと感じている人は世界中にいます。
しかしどんなに想いを伝えてもボーカロイドに届くことはないという寂しさが表現されています。
後半では、いま色鮮やかな音楽で彩られた世界を楽しむことができているのは、君のおかげだと感謝の気持ちを歌っているのでしょう。
届かない言葉だから文字にせず、あえて空白で表現していると考察できますね。
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緩やかに崩れ壊れてく
ゆるりゆるり首を締めるように昨日までの僕が殺されていく
緩やかに離れ離れ飽く
ぐらりんり君にきこえるのは僕が知らない声になってく
≪No title 歌詞より抜粋≫
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サビの歌詞は現実の厳しさを表していると思われます。
理不尽なことに囲まれる世の中では自分自身が「緩やかに崩れ壊れてく」ように感じます。
「ゆるりゆるり」と弱い力で、それでも確実に「昨日までの僕が殺されていく」ような息苦しさを抱えているのでしょう。
そして自分自身の心の芯がぐらりと崩れ、純粋に夢見ていた頃の自分とは変わってしまったことに気づきます。
それはつらいことではありますが、見方を変えれば次のフェーズに入っているとも言えます。
自分という存在が変化しても、その心にある感謝の気持ちや夢への志さえ手放さなければきっといつか願いは叶うはずです。
この楽曲にはそうなってほしいというReolの真っ直ぐな気持ちが綴られているように感じます。
Reolの神曲が心に響く!
Reolの『No title』は現実に対する哀しさの中に小さな希望が見えるような歌詞に引き込まれます。現在はソロアーティストとして音楽を奏でる彼女が変わらず抱く音楽へのひたむきな想いが表れていたのではないでしょうか。
この楽曲を原点として走り続けるReolの活躍に目が離せません!