何をしてでも叶えたい願望がある。
何をしてでも叶えたい願望がある…その為になら、誰を犠牲にしたって構わない。コレは、自己満足が得られるだけの暗い感情だが、人が欲望の塊である以上なくなることはないものだ。
約6年ぶりの音楽活動再開が発表された日本を代表するシンガーソングライター「宇多田ヒカル」。
2016年の春から始まる連続テレビ小説「とと姉ちゃん」の主題歌を担当することも決定している彼女だが、そんな彼女の楽曲の中にも、人間の黒い側面をテーマにした楽曲が存在する。
13thシングル『誰かの願いが叶うころ』
それが13枚目のシングル『誰かの願いが叶うころ』。2004年にリリースされたこの楽曲は、映画「CASSHERN」のテーマソング。映像作家で現在では監督も行う紀里谷和明の商業映画監督デビュー作品であり、公開当時は宇多田ヒカルと夫婦だったこともあって、妻(当時)が楽曲を担当するという事で話題にもなった。
テレビアニメ「新造人間キャシャーン」を原作としながら「見た後に、その人が何かを考える作品」となっており、登場人物の大半が凄惨な最期を迎えることもあって好みは別れるようだ。
歌詞が心に迫ってくる
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小さなことで大事なものを失った
冷たい指輪が私に光ってみせた
「今さえあればいい」 と言ったけど そうじゃなかった
あなたへ続くドアが音も無く消えた
≪誰かの願いが叶うころ 歌詞より抜粋≫
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楽曲は伴奏がビアノ中心で単調な仕上がりになっているなどシンプルな作り。
ヒカル本人がこの楽曲の制作時、英語詞アルバムの制作途中ということもあってシンプルなものを作りたいという気持ちもあったからのようだ。ただ、飾り気のない分だけ聴いていると歌詞が心に迫ってくるように感じる。
自分の願いが叶って、喜ばない人はいない。けれど、その裏で起こっていることにスポットが当てられた時。
それでも、心の底から喜べる?
幸せは追い求めたいもの
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あなたの幸せ願うほど わがままが増えてくよ
それでもあなたを引き止めたい いつだってそう
誰かの願いが叶うころ あの子が泣いてるよ
そのまま扉の音は鳴らない
≪誰かの願いが叶うころ 歌詞より抜粋≫
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自分の願いが叶った裏では誰かの叶わなかった願いがある。自分にとっては小さなことで周囲の環境が変化したり、楽曲のように大切な人との関係を失うことだってあるのだ。
けれど、人は願うことをやめられない。他者を踏みのけてでも自分の幸せを追求することは、社会の縮図のごとく人に根付いているものだからだ。
願いが叶ったら、噛み締める
▲宇多田ヒカル - 誰かの願いが叶うころ
歌詞にあるように誰かの幸せを願うことがわがままになるのは、自分が幸せになれないからだ。逆に考えると願いを叶えるという行為は、自分の満足を手に入れると同時に他者の願いを妨害していると言える。
自分が諦めれば幸せになるはずだった誰かを押しのけて、未来を入れ替えたのだから。それでも、人は自分の願いを叶えることをやめないだろう。
たとえ、他者から奪った幸せでも、その裏で誰かが泣くことになったとしても。それは、同時に全ての願いが叶わないことを知っているから。だから人は、願いが叶ったことを噛みしめる。
次は自分が泣くことを予感しながら、これからも願い続けていく。
TEXT 空屋まひろ