“ポケミク”コラボ楽曲・第1弾「ボルテッカー」
1996年、ゲームソフト『ポケットモンスター 赤・緑』の発売から全てが始まったポケモン。もはや知らない人はいない伝説級の人気を博すポケモンが、バーチャル世界の代名詞たる「初音ミク」とコラボする一大企画が2023年8月にスタートしました。
その名も「ポケモン feat. 初音ミク Project VOLTAGE 18 Types/Songs」。
縮めて、ポケミク。
名だたるデザイナーやイラストレーター、音楽クリエイターなどが「ポケモン × 初音ミク」のコラボコンテンツを順次リリースしていく胸熱な企画となっています。
今回考察するのは、そんな「ポケミク」のオリジナル楽曲第1弾で、大人気ボカロP・DECO*27が手がけた『ボルテッカー feat. 初音ミク』です。
2023年9月にリリースされ、同日にピカチュウと初音ミクが共演するMVも公開されました。
MVは2日とかからずに再生回数ミリオンを突破、そして10日ほどで500万回を超える人気ぶり。
強力な “でんきわざ”「ボルテッカー」さながら、高い威力のヒットを記録しています。
さらにその歌詞はポケモンの要素がふんだんに盛り込まれ、聴いてワクワク、読んで楽しい魅力的なワードでいっぱいです。
そんなポケモン愛あふれる『ボルテッカー』の歌詞には、一体どのようなストーリーが見出せるのでしょうか。
恋のバトルだ!ボルテッカー!
まずは前半の歌詞を見てみましょう。
初代ポケモンのオープニングBGMを経て「恋のバトル」の始まりです。
----------------
妄想は無限大 ほらいけってチャンスうかがってるんだ
焦燥で不安祭 主役はいつだって「好かれたいな」
≪ボルテッカー 歌詞より抜粋≫
----------------
どうしても好かれたい相手に対し、妄想が膨らみつつも焦りや不安が拭えない主人公。
「いけっ」とポケモンを出してわざを繰り出すようなアタックの機会を探っています。
向こうの出方をうかがっている様子は、まるでサファリゾーンの野生ポケモンのようですね。
そんな好かれたい「主役」の葛藤や動揺は、次の歌詞にも綴られています。
----------------
ぱっとスパークした想いが肥大
今じゃないぞってあたしが言ってんだ
嫉妬味のアメ美味しくない
やめてしまえばって何度思ったんだ
≪ボルテッカー 歌詞より抜粋≫
----------------
でんきわざ「スパーク」のようにパッとはじけた想い。
「今じゃないぞ」や「嫉妬味のアメ」といったフレーズから察するに、主人公は好きな人が他の誰かと仲良くしているところに遭遇したのかもしれません。
本来なら強化のために使われる「アメ」ですが、バッドタイミングと嫉妬のせいでただただ気持ちは弱っていくばかり。
それでも、主人公の想いはキョダイマックスのカビゴンさながら「肥大」化しています。
「恋なんてやめてしまえば楽なのに…」と何度よぎっても、簡単に諦める「あたし」ではありません。
----------------
逆行しちゃう好きの采配 誕生しちゃう病みにバイバイ
感傷したって 目が合えばじゅうでんがふいにまんたん
≪ボルテッカー 歌詞より抜粋≫
----------------
ポケモンのわざ「采配(さいはい)」は、相手が繰り出したわざをもう一度出させるものです。
よって「逆行しちゃう好きの采配」は「たくさん相手に好きだと思ってほしいのに、その思いは自分の中で高まるばかりだ…」という片想いの現状のことだと考えられます。
「好きの采配」が逆行するたびに誕生する「病み」とは、きっと恋わずらいのことなのでしょう。
しかし、主人公はそんな病みに「バイバイ」した様子。
それは、たとえ傷ついたとしても「目が合えばじゅうでんがふいにまんたん」だから。
好きな人と目が合った途端「まんたんのくすり」を使ったかのように体力が全回復し、最大限のでんきわざを出す準備さえ整ったようです。
そしてくり出すは、ボルテッカー!
----------------
恋がビビビでチュチュチュが止まんない
きみの心へ届けボルテッカー
いまひとつな手応えじゃ つまんない
だってだって すてみなんだもん
愛にしびびなループがたまんない
照れのはんどう真っ赤ボルテッカー
なぜかあたしにだけはばつぐんだ
待って待って 仕切り直してもう一戦
≪ボルテッカー 歌詞より抜粋≫
----------------
「すてみ(反動を受けるわざを強める特性)」のボルテッカーによって「きみの心」へ突撃する主人公。
効果「いまひとつ」ではつまらないという気概で、ボルテッカーの威力を最大限まで高めてアタックします。
しかし、相手をまひさせるどころか「はんどう」で自分の方が照れてしまいました。
真っ赤になった顔はまるでピカチュウのほっぺたのよう。
相手にわざが効かず自分だけが「ばつぐん」のダメージを受けた主人公は、思わず仕切り直しを要求します。
一度冷静になって、自力で「きみ」への想いを再じゅうでんです。
----------------
だってむちゅー わ!きみにむちゅー
ビビビビビビビビビ えーいっ!
≪ボルテッカー 歌詞より抜粋≫
----------------
大好きな「きみ」をゲットだぜ!
続いて、後半の歌詞を見ていきましょう。
----------------
さみしがってばかり おくびょうなの
いじをはってみたり からげんきさ
てれやだって きみは笑うけど
ねえほんと ちゃんと覚悟しといてよ?
≪ボルテッカー 歌詞より抜粋≫
----------------
ポケモンの世界では「さみしがり」や「いじっぱり」は「こうげき」と、「おくびょう」は「すばやさ」と相性がいい性格とされています。
電気を帯びて一直線に突撃するのがボルテッカーなので、主人公はそれにぴったりな性格を持っているようですね。
しかし今の主人公はもう何度目かのご傷心です。
相手の魅力にやけどしたのか、傷ついて心がまひしたのか。
いずれにせよ、そんな状態異常さえ逆手に取り、主人公はけなげに「からげんき」を発揮します。
その一方、主人公を「てれやだ」と笑う「きみ」。
「てれや」はどんな味も好んで食べる性格なので、「きみ」は「自分じゃなくてもいいんでしょ?」と主人公をからかっているのかもしれません。
それを受けた主人公は、目を光らせて本気モードです。
----------------
うざいうざいも全然だ 気にしない
うざいうざいもじゃんじゃんじゃんと来い
≪ボルテッカー 歌詞より抜粋≫
----------------
「うざいうざい」も気にしない。
でんきわざが得意な主人公ですが、心は一転、はがねタイプに進化したようですね。
「きみ」のからかいに負けじと、いざバトル再開です。
----------------
恋がビビビでチュチュチュが止まんない
どうか嫌いのタスキ掛けないで
あなをほって逃げようとしないで
ちゃんとちゃんと あたしを見てよ
恋がビビビでチュチュチュが止まんない
きみの心へ届けボルテッカー
いまひとつな手応えじゃ つまんない
だってだって すてみなんだもん
愛にしびびなループがたまんない
こだわり抜いた気持ちボルテッカー
きっときみにもこうかばつぐんだ
もっともっと 捕まえるまでもう一戦
≪ボルテッカー 歌詞より抜粋≫
----------------
恋の電撃が「ビビビ」と走り、LOVEの「チュチュチュ」があふれる一戦。
「嫌いのタスキ」は、きっと「きあいのタスキ(一撃ではやられなくなるアイテム)」とかけた表現でしょう。
「嫌い」を表明されてしまったら、すてみのボルテッカーも水の泡です。
さらに続く歌詞は「あなをほって逃げようとしないで」。
でんきタイプの弱点であるじめんわざ「あなをほる」で先手を取られると、主人公の決死のボルテッカーは外れ、次のターンで返り討ちにされてしまいますね。
そういった無情な対応はせず、熱い熱い気持ち「ボルテッカー」を何がなんでも真正面から受け取ってほしい。
“こだわり”抜いた不変の「好き」は、勢いや威力を高めるばかりです。
「きっときみにもこうかばつぐんだ」と信じる主人公の強い想いがビリビリと伝わってきますね。
そして最後の歌詞はこちら。
----------------
だってむちゅー わ!きみにむちゅー
ビビビビビビビビビ えーいっ!
≪ボルテッカー 歌詞より抜粋≫
----------------
このフレーズは前半で3回繰り返され、ここで4回目を迎えます。
3回揺れて4回目で星がはじける、モンスターボールでのポケモンゲットの演出に通じるものがありますね。
曲の終わりがポケモンの捕獲シーンのSE(効果音)であることも考慮すると、「むちゅー」で「きみ」にアタックする恋はめでたくハッピーエンドを迎えたのでしょう。
当たっては砕け、当たっては砕けを繰り返した「すてみ」のボルテッカーは確かに「きみの心」へ届き、気持ちを揺らし尽くすことができたみたいです。
イラストやサウンドもポケモン愛まんたん!
今回は、DECO*27『ボルテッカー feat. 初音ミク』の歌詞の意味を考察しました。恋した相手にアタックする主人公がポケモン要素いっぱいの歌詞で表現されたポップな楽曲でしたね。
ポケモンにもボカロにも親近感がある世代にとっては特にワクワクする歌詞だったのではないでしょうか。
なお『ボルテッカー』には、歌詞以外にもたくさんのポケモン愛が散りばめられています。
MVのイラストやサウンドにも注目すれば、きっと多くのポケモンオマージュに気づけるはずです。
「ボルテッカー」で何度もアタックした主人公のように、私たちもあらゆる角度から何度でも『ボルテッカー』を楽しんでいきたいですね。