セールス歴代トップに躍り出た7thシングル
秋元康が総合プロデュースする「坂道シリーズ」第2弾・欅坂46として誕生し、のちに改名して新しいスタートを切った櫻坂46。『流れ弾』や『Start over!』などの話題曲を続々と世に送り出している、勢いの止まらない大人気アイドルグループです。
そんな櫻坂46が、改名から3年の節目を迎える2023年10月に、7thシングル『承認欲求』をリリースしました。
今回センターを務めるのは、二期生の森田ひかる。
『Nobody's fault』と『BAN』に続く、自身3度目の表題曲センターとなりました。
リリースに先駆けて公開されたMVには絶賛の声があふれ、圧倒的なダンスパフォーマンスに多くのファンが熱狂しています。
さらに、2023年10月25日に公開された Billboard JAPAN 週間シングル・セールス・チャート “Top Singles Sales” では、『承認欲求』が堂々の首位を獲得。
過去最多の初週54万枚以上のセールスを記録し、その勢いはとどまることを知りません。
エネルギッシュな快進撃を見せる櫻坂46『承認欲求』。
その歌詞には、果たしてどのような意味が込められているのでしょうか。
ありのままの自分を認める大切さ
まずは1番の歌詞から見ていきましょう。
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街中 溢れるデジタルサイネージ
Oh Oh Oh Oh It's so annoying
そんな一斉にメッセージされたって・・・
Oh Oh Oh Oh 聖徳太子か!
≪承認欲求 歌詞より抜粋≫
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「デジタルサイネージ」とは、駅の中や施設内などの公共空間にあるディスプレイ広告のような電子看板のことです。
スマホの中だけでも情報がいっぱいなのに、外に出ても過剰なメッセージがあふれる現代。
聖徳太子のように多くの情報を器用に聞き分けられない主人公は、ただただ「annoying(イライラ)」を募らせます。
次の歌詞も見てみましょう。
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世界はいつも 騒々しい
好き勝手 叫び続けてる
(私が・僕が・俺が ジャン ジャン)
言いたいことはあるんだろうが
一人一人に構ってられない
(あなたが・君が・おまえが ジャン ジャン)
≪承認欲求 歌詞より抜粋≫
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SNSが普及した社会では、いつだって「私が〜」や「俺が〜」といったアピールの声があふれています。
そんなジャンジャン騒ぐ声にいちいち構っていたら自分の身がもちません。
「あなた」が誰であれ「おまえ」が何者であれ、立て続けに現れるアピールに対応していくのは困難なことです。
そんな情報過多な世界に嫌気が差している雰囲気が読み取れますね。
続く歌詞はこちら。
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Hey! 心の中で手を振ってる
ここにいること わかっているか 不安!不安!不安!不安!
≪承認欲求 歌詞より抜粋≫
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この部分は情報の送り手についての描写だと考えられます。
自分がここにいることに気づいてほしくて、そして気づかれているのかどうかが不安で不安で、まるで送風機の羽根のように激しく静かに手を振る発信者たち。
そんな彼らの焦燥感が伝わってきたところで、サビの歌詞に入ります。
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誰も承認欲求強すぎて
そんなにも自分に自信がないのかい?
もっと見てと求められるSNS
ちゃんと見てるからって言ってるのに欲張る
Approval
≪承認欲求 歌詞より抜粋≫
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「承認欲求」とは、他人から認められたい、自分を価値ある存在だと思いたいというような欲求のことです。
SNSで手軽に発信ができる現代では、自分をもっと見てほしい、認めてほしいという欲求の強さはいっそう顕在化することでしょう。
そして、たとえフォロワーやリプライが増えて一時的に満たされたとしても、もっともっとと欲望が深まるのが人間の性(さが)。
「Approval(承認)」への欲求は、よほどのことがなければ尽きることはありません。
さらに続く歌詞はこちらです。
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話聞いてよ もっと頷いて
具体的に褒めて欲しい
他人とは違う 何かって何?
君は君でしかないだろう
≪承認欲求 歌詞より抜粋≫
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聞いてほしい、頷(うなず)いてほしい、具体的に褒めてほしい。
要求がエスカレートしていく様が生々しいですね。
他人から特別な何かを認めてもらうのは、他人から見て特別でなければ難しいものです。
少なくとも量産型のかまってちゃんに「他人とは違う何か」は見出しにくいように思えます。
承認欲求におぼれず、自分自身がありのままの自分を認める。
「君は君でしかないだろう」という歌詞は、そんな自己肯定の大切さに気づかせてくれますね。
承認欲求にとらわれた四面楚歌の孤独
続いて、2番の歌詞を見ていきましょう。
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自分という特別な存在に
いつになったら気づいてくれる?
ねえ 何で無視するの?
目には映ってるYou know?
お互いに同じこと
勘違い ムカついてた
≪承認欲求 歌詞より抜粋≫
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自分にとって自分が特別なのは、誰しも同じです。
そんな “特別な自分” を認めるよう他人に要求すれば、きっと周囲の人は遠ざかってしまうでしょう。
承認に飢え、相手の立場で物事を考えず自分中心の態度を持ち続けていたら、しまいには「周りが無視するのが悪い」と思い込む事態にもなりかねません。
そしてそのような心理状態の人が増えると、互いに誤解し合い、いがみ合う負の連鎖ができあがってしまいます。
そんな悲惨な行く末が当事者視点でよく伝わってくる歌詞ですね。
次の歌詞も見てみましょう。
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集団的にずっと孤独
メンタルが崩壊しそうで・・・
(黙る・籠る・沼る ジャン ジャン)
こんな頑張って生きているのに
誰もわかってくれない四面楚歌
(頼る・逃げる・追えない ジャン ジャン)
≪承認欲求 歌詞より抜粋≫
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「集団的にずっと孤独」というフレーズは、先ほどの “負の連鎖” をひと言で明快に表現しているように思えます。
自分が見ている世界では誰より自分が頑張っているのに、それをわかってもらえない四面楚歌(=助けがなく敵だらけ)の現実。
周囲がそのように見えたら、見せかけの孤独感にメンタルが崩壊しそうになるのも無理はありません。
しかし、それを避けるべく口を閉ざし、部屋に引きこもり、自分だけの世界に沼ってしまったら、人生は “おじゃん” まっしぐらです。
自分から相手を理解し、認めようと追いかけることができないなら、自分を認めてもらうことも叶わないのでしょうね。
さらに続く歌詞はこちら。
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Hey! コミュニケーション能力なんて
全くなくて どうすればいい? 知らん 知らん 知らん 知らん
≪承認欲求 歌詞より抜粋≫
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承認欲求におぼれ、自己中の沼にハマり、相手の立場に立ったコミュニケーションが全くできなくなる。
そうなるとまた自分の世界に閉じこもるようになり、いっそうコミュニケーションのハードルが上がるのも想像に難くありません。
そんな負のスパイラルを嘆いたとて、全ては自業自得。
自分でどうにかしろと言わんばかりに「知らん 知らん 知らん 知らん」と連呼されます。
続くサビの歌詞はこちら。
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それは被害妄想というものだ
君のことだってちゃんと見ているよ
仮に誰かに承認されたら即 友達かい?
キリがなくなるぞって次から次に止まらない
涙
≪承認欲求 歌詞より抜粋≫
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四面楚歌の現実もコミュニケーション不全も「被害妄想」に過ぎない。
一見すると突き放しているようですが、「君のことだってちゃんと見ているよ」という言葉にはわずかばかりの希望も感じられます。
この歌の主人公は、承認欲求にとらわれた友人を助けようとしているのかもしれません。
うわべや数字などの表面的な「承認」だけで友達になるのは、直感的に考えておかしな話です。
たとえそうして友達が増えたとしても、今度はその “友達” の数を求め過ぎるようになるとも考えられます。
飽くなき承認欲求で次から次に “友達” を増やしたら最後、むなしさに涙が止まらなくなってしまいそうですね。
「君は君でしかないだろう」
ここからは、終盤の歌詞を見ていきます。
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アンチもブロックしないよ
数だけ欲しいフォロワー(Why?)
誹謗中傷 想定内
傷だらけのまるでホラー
≪承認欲求 歌詞より抜粋≫
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2番のサビで歌われた友達承認の落とし穴。
ここでは、それにハマってしまった人の惨状が綴られているように読み取れます。
フォロワー数に取りつかれ、アンチだろうと誰だろうとブロックせずに受け入れる。
はたから見るとかなり悲惨な、それこそ「Why?」と問いたくなるようなシチュエーションですね。
「誹謗中傷 想定内」と豪語しつつ、相当な無理をしてオープンにした心。
結果は案の定、傷だらけです。
ホラー映画のような惨状のなか、続く歌詞では当人の渇望がつづられます。
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誰でもいいから
愛を 愛を
≪承認欲求 歌詞より抜粋≫
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承認に飢えた者の末路は、愛の亡者のようです。
ホラー映画のゾンビさながら、永遠に満たされないまま世界をさまよう。
そんなおぞましい未来を提示することで、この歌は私たちを被害妄想から目覚めさせようとしているのかもしれませんね。
続く最後のサビは、1番と同様です。
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誰も承認欲求強すぎて
そんなにも自分に自信がないのかい?
もっと見てと求められるSNS
ちゃんと見てるからって言ってるのに欲張る
Approval
話聞いてよ もっと頷いて
具体的に褒めて欲しい
他人とは違う 何かって何?
君は君でしかないだろう
≪承認欲求 歌詞より抜粋≫
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自分に自信が持てず、承認欲求にとらわれ、SNSの深みにハマる。
承認に飢えて「他人と違う何か」を模索するのは、現代社会を生きる誰にとっても他人事ではないでしょう。
そんな私たちへ放たれる「君は君でしかないだろう」というフレーズからは、1番以上に「まずは自分が自分自身を認めてやれよ」という力強いメッセージが伝わってきます。
色眼鏡を踏み潰して現実に向き直る
今回は、櫻坂46『承認欲求』の歌詞の意味を考察しました。承認欲求が肥大化した現代社会に喝を入れるような、パワフルでメッセージ性の強い歌詞でしたね。
SNSに慣れ親しんだ世代の人にとっては感情を大きく揺さぶられる楽曲だったのではないでしょうか。
ひとたび承認欲求にとらわれると、特別な自分を知ってほしいあまり身の回りの世界がゆがんで見えてしまうのかもしれません。
そうならないためには、自分は自分であると肯定し、自分と他人を過剰に比較しないことが大切になってきます。
ときにSNSで疲れてしまうことがあったら『承認欲求』の歌詞を思い出し、視界をゆがませる色眼鏡を踏み潰してまっさらな気持ちで現実に向き直るのがよさそうですね。