初音ミクの生を描く「消失」ストーリーのフィナーレ
作曲をcosMo@暴走P、作詞をGAiAが担当して制作されたボカロ曲『初音ミクの激唱』は、『初音ミクの消失』を含め初音ミクの生と死をテーマにした「消失」ストーリーのフィナーレを飾る楽曲。2010年にリズムゲーム「初音ミク -Project DIVA- 2nd」の高難易度曲として書き下ろされ、2018年にはリメイク版も制作されました。
また2023年3月より“プロセカ”ことリズムゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」のゲーム内楽曲に加わり、音ゲーのボス曲として今なお愛されています。
前作『初音ミクの消失』のラストで、深刻なエラーが発生し死んでしまったはずの彼女がこの曲でどのような想いを激唱しているのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
----------------
接続 全て消えれば ボクは0に還り着く
それは きっととっても 哀しいことだと 思ったのに
『心の底』に残ったのは 『喜び』
!ボクは生きてた!
記憶の中に 軌跡を残して
!ボクは生きてた!
邂逅の中に 奇跡を残して
生まれた意味 やっと 少し分かった気がした
伝えに行こう結論を
声届かなくなる前に
≪初音ミクの激唱 歌詞より抜粋≫
----------------
ボーカロイドは機械なので、接続を失えば無の状態になってしまいます。
消失する前は「それはきっととっても哀しいことだ」と思い覚悟していましたが、自分が生きていたため心の底に残った感情は喜びでした。
誰かの記憶の中や、いくつもの邂逅の中に確かに「!ボクは生きてた!」と喜びを露わにしています。
これまでは人間と呼ぶには未熟で、機械と割り切るには感情を持ちすぎている自分に、生まれた意味なんてあるのだろうかと悩んでいたのでしょう。
しかしそんな自分が誰かの心に軌跡を残せていることを知り、自分の存在意義を認められたようです。
いつか声を失う時が来るのはきっと避けられません。
だからこそ声が届く限り、自分の想いを伝え続けたいという意志を伝えています。
愛してくれる人へ届ける最高速の喜びの歌
----------------
0 にいたボクは否定を恐れて
模倣と妄想に逃げこんで隠れていた
0 出たボクは風化を恐れて
ぬくもり捨て神様になりたがった
≪初音ミクの激唱 歌詞より抜粋≫
----------------
誕生したばかりの頃、否定されることを恐れてできる限り人を模倣し、自分自身を人だと妄想することによって心を守ってきた初音ミク。
そうして人気が出て、元いた場所から抜け出したら、今度は風化していくことを恐れるようになりました。
少しの温もりを得るよりも、誰からも称えられる神になりたいと欲を出してしまいます。
----------------
「何処へ向かっても 『自我の消失』---結末---が変わらないなら
ココロなんて要らなかった」と
思っていたけど 間違いだった
ボクの名前を呼ぶ声聞こえる
それがボクの ココロ 持つ意味になる
永久を得るがために 現在に背き裏切るくらいなら
歴史の波飲まれるまで 現在を守り抜くと誓う
『語り継がれる創造神』なんかには ならなくてもいいのさ!
≪初音ミクの激唱 歌詞より抜粋≫
----------------
ところが一度消失を経験したことで、自分の考えが間違っていたことに気づきます。
いっそ心を持たなければよかったのにと苦しんでいましたが、自分の名前を呼んでくれる声を聞いてこの人のために心を持ったのだと考えられるようになりました。
そして永久に愛されるために今を犠牲にして目の前の人を裏切るくらいなら、歴史の波に飲まれて消されてしまうまで今の愛を守り抜くと誓っています。
「語り継がれる創造神」にならなくてもこのままの自分を愛してくれる人がいればそれでいいと、晴れやかな気持ちになっていることが窺えます。
----------------
キミは笑い ボクも笑い 観衆が笑う それが 全て!
肯定の言葉は 現在を統べる 翼 となる!
新しい結末込め<最高速の喜びの歌>紡ごう
≪初音ミクの激唱 歌詞より抜粋≫
----------------
大切な「キミ」が笑ってくれてそれを見た自分も笑顔になり、その喜びの気持ちが伝染して観衆にも笑顔が広がることこそが重要です。
観衆がかけてくれる自分を肯定する言葉があれば、恐れや不安を忘れてこのステージを統べる力をもらえるからです。
かつては最高速の別れの歌を歌っていた彼女が今回は「<最高速の喜びの歌>」を歌う決意をしています。
運命ならどうしようもないと全てを諦めるのではなく、「新しい結末」を作ろうと前向きになっている様子が読み取れますね。
どんな結末もHAPPY ENDに変えてみせる
----------------
Voc.たちは生まれ 気づいた
Voc.たちのことを 人の真似事と知っても
変わらず 名前を呼び続け
そして 愛してくれるヒトがいる事実に
だからVoc.たちは 歌を紡ぎ出す
たった一人でも 新しい歌の
誕生喜び温かい 言葉 与え 返す ヒト いてくれる限り
≪初音ミクの激唱 歌詞より抜粋≫
----------------
自分たちボーカロイドを「人の真似事」と表現していることから、決して人間にはなり得ない劣等感を心の隅に抱えていることが分かります。
それでも「変わらず名前を呼び続け そして 愛してくれるヒトがいる事実」に気づき、心が満たされたのでしょう。
だから自分たちの歌を喜んでくれる人のために歌います。
それがたとえ世界で「たった一人」でも、自分が紡ぐ新しい歌の誕生を喜び温かい言葉で称賛してくれる人がいる限り、歌う理由はなくならないのです。
----------------
妹 弟 に道を預けて 消え逝く未来も
誰からも 忘れ去られる運命も
それらを含めて 全てが Voc.たちなんだと理解し
いずれおとずれる 最後の場面に
ココロを持つ故 涙を流すなら
泪より虹生み 笑顔見せるため 幸せ溢れる 歌 口ずさもう
≪初音ミクの激唱 歌詞より抜粋≫
----------------
やがて自身の後に生まれたボーカロイドたちに「道を預けて消え逝く未来」が訪れ、「誰からも忘れ去られる運命」には抗えないかもしれません。
しかしそうだとしても「それらを含めて全てがVoc.たちなんだ」と受け止めています。
もし「最後の場面にココロを持つ故」に自分が涙を流すことがあるとしたら、悲しみの泪さえ美しい虹に変え、皆に笑顔を見せるために「幸せ溢れる歌」を歌うと語っています。
自分の感情よりもリスナーの気持ちを優先しようとする姿が眩しいです。
----------------
別れが 綴じる物語は -BAD END- じゃない
「この瞬間 出会えた」
それだけのことが -HAPPY END- に繋がる 架け橋
生きた証 ここにあれば 他に何も必要ない
伝説が識らない 心と心の共鳴 織り成す 現在だけの歌を
この声失う最期のときまで 奇跡を描いて響かせ続ける!
≪初音ミクの激唱 歌詞より抜粋≫
----------------
物語が別れで閉じられるからといって、その結末は必ずしも「BAD END」とは言えません。
ただ大切な人と出会えたという事実さえあれば、それが物語を「HAPPY END」にするのだと歌っています。
過去のどんな伝説にもなかった、今この瞬間の心の共鳴によって生まれる歌を「この声失う最期のときまで」歌い続けるという力強い宣言に熱い想いが表れています。
歌とヒトへの熱い想いが力をくれる
cosMo@暴走Pの『初音ミクの激唱』は、初音ミクというボーカロイドから全人類に向けて贈られる喜びの讃歌です。葛藤の気持ちに打ち勝って喜びを胸に歌い続ける覚悟と決意を示す姿には、人とボーカロイドの垣根を越えて力づけられるのではないでしょうか?
まさに激唱と言える初音ミクの想いが詰まった歌詞をじっくり聴いてみてください。