君を泣かすから一緒には居られない
15歳の新人シンガーソングライター・tuki.の楽曲が、YouTubeやTikTokで大きな注目を集めています。その楽曲とは2023年9月28日にリリースされた『晩餐歌』です。
ファンが聴いて共感・共有した音楽のデータを示す指標を元に作られたSpotifyの「Daily Viral Songs(Japan)」10月18日付のチャートで第1位に堂々ランクイン。
YouTubeで公開されているオリジナル版の再生回数は180万回、弾き語り動画は530万回超えと再生数を伸ばし続けています。
まだ中学生とは思えない卓越した音楽センスと、力強くも儚さを纏った歌声に引き込まれるでしょう。
『晩餐歌』というタイトルの楽曲にどんな世界が描かれているのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
----------------
君を泣かすから
だから一緒には居れないな
君を泣かすから
早く忘れて欲しいんだ
人間だからね
たまには違うものも食べたいね
君を泣かすから
そう君を泣かすから
≪晩餐歌 歌詞より抜粋≫
----------------
冒頭の歌詞によると、主人公には「君」と呼ばれる大切な存在がいるようです。
しかし「君を泣かすから」、つまり傷つけることは分かっているからもう一緒にいるべきではないと考えています。
「たまには違うものも食べたいね」というフレーズで、人間関係を食事に例えていることが分かります。
毎日同じ晩餐を食べることもできますが、それが好物であってもたまには違うものを食べたくなるのが人間です。
同じように愛する人がいても、時には別の人に目移りしてしまうこともあるでしょう。
おそらく主人公はそうしたやや移り気な性格や行動のせいで、恋人である「君」を度々傷つけていると思われます。
だから好きだけど相手のために別れるべきだと結論づけたようです。
愛のフルコースを頂戴
----------------
でも味気ないんだよね
会いたくなんだよね
君以外会いたくないんだよね
なんて勝手だね
大体曖昧なんだよね
愛の存在証明なんて
君が教えてくれないか
≪晩餐歌 歌詞より抜粋≫
----------------
しかし少し距離を置いてみると、その人がいない日常の味気なさに気づきます。
ここでも「味気ない」という食事とリンクする言葉が用いられているのが秀逸ですね。
別れようと思っているにも関わらず、主人公は「君以外会いたくない」という自分の本心に気づきます。
愛情とは持っている本人でさえどのような感情なのか、どこにあって誰に向いているのか分からない曖昧なものです。
それでも主人公にとって「君」が特別な人であることは間違いありません。
だから君に「愛の存在証明」をしてほしいと願います。
相手のために別れるべきだという考えと別れたくないという気持ちの間で葛藤している様子が伝わってきます。
----------------
何十回の夜を過ごしたって
得られぬような
愛してるを並べてみて
何十回の夜を過ごしたって
得られぬような
最高のフルコースを頂戴
≪晩餐歌 歌詞より抜粋≫
----------------
サビでは“晩餐歌”というタイトルにつながる「夜」と「フルコース」のフレーズが印象的に用いられていますね。
「何十回の夜を過ごしたって」という表現は、まだ交際期間が数ヶ月と浅い状態のことを指していると思われます。
「愛してる」と言えるほどの想いは、たった数ヶ月程度の期間では育たないでしょう。
だからこそ交際期間が長くなり、共に様々な経験をしてきた自分たちだからこそ言える「愛してる」の言葉を伝え合いたいと思っているのではないでしょうか。
そうして味わい深い愛情という名のフルコースを与え、愛とはどのようなものなのかを教えてほしいと願っていると解釈できます。
何度涙を流しても傍にいてくれるかけがえのない人
----------------
君を泣かすから
きっと一生は無理だよね
君を泣かすから
胸がとても痛くなんだ
人間だからね
たまには分かり合えなくなって
君を泣かすから
また君を泣かすから
≪晩餐歌 歌詞より抜粋≫
----------------
どれほど相手をかけがえのない存在だと感じていても結局悲しませてしまうから、きっと自分たちが一生一緒に生きることはできないと想像しているようです。
愛する人を泣かせているという事実は自分自身の心も傷つけてしまいます。
不完全な人間だから分かり合えずに傷つけてしまうことだってあると分かってはいますが、理不尽に愛する人を泣かせる自分がその隣にいていいのかと悩んでいます。
----------------
でも自信がないんだよね
変わりたくないんだよね
君以外会いたくないんだよね
なんて勝手だね
大体曖昧だったよね
愛の存在証明なんて
君がそこに居るのにね
≪晩餐歌 歌詞より抜粋≫
----------------
主人公はそのように葛藤しながらも、別れて今の日常が変わってしまうことを受け入れる自信はありません。
そのため別れるべき理由を語りながら、身勝手にも「君以外会いたくない」とすがってしまいます。
愛する「君」が目の前にいるのに自分の心にある愛情に疑問を持っていることに、寂しさや呆れを感じていると思われます。
----------------
離れないで 傍に居てくれたのは
結局君一人だったよね
涙のスパイスは君の胸に
残ってしまうだろうけど
≪晩餐歌 歌詞より抜粋≫
----------------
思い返すと、何があっても「離れないで傍に居てくれたのは結局君一人」でした。
スパイスを効かせた料理は、食事を終えた後も刺激や香りを残します。
同じように、涙が乾いた後もその時感じた悲しみは胸に残るでしょう。
それなのに見切りをつけることなく一緒にいてくれたのです。
主人公が離れがたく思うのは理屈ではなく、そんな相手の優しさや懐の深さに心が惹かれるからなのかもしれません。
----------------
何千回の夜を過ごしたって
得られぬような
愛してるを並べるから
何千回の夜を過ごしたって
得られぬような
最高のフルコースを
何万回の夜を過ごしたって
忘れぬような
愛してるを並べるから
何万回の夜を過ごしたって
忘れぬような
最高のフルコースを頂戴
≪晩餐歌 歌詞より抜粋≫
----------------
サビの回を追うごとに夜の数が増え、最後には「何万回の夜」と比較されています。
おそらくこれは一生を意味しているのでしょう。
自分たちの間にある愛が、いくら時を重ねても得がたいほど尊く貴重なものであることを表現していると思われます。
もちろん求めるばかりではなく、自分も別れという選択で逃げるのではなく覚悟を持って「愛してるを並べるから」、年老いても決して風化しない深い愛情を今示してほしいと告げているようです。
目の前にいる愛する人への想いを真剣に受け止めるようになった主人公の切実な愛が胸に迫ります。
tuki.が紡ぐ美しい歌詞に魅了される名曲!
tuki.の『晩餐歌』は、大切な人から示される愛情で心を満たし活力に変える料理に例えた歌詞に考えさせられる美しい楽曲です。自分の行動に傷つき泣きながらも変わらず傍にいてくれる人を、愛さずにはいられないでしょう。
頭ではなく心で感じる愛をもっと大切にし、その愛を言葉や行動で示していきたいと思わせる深い歌詞をじっくり堪能してください。