今注目のnyamura・2ndシングルを解釈
かわいさと透明感を兼ね備えた歌声、甘くて心地よいなめらかなラップ詞で若者の心をつかんでいるnyamura。ユーザー投稿型の音楽プラットフォーム「SoundCloud」にて頭角を現し、中毒性の高い音楽で続々とファンを増やしている今注目のアーティストです。
今回考察するのは、そんなnyamuraが2023年6月3日に配信リリースした2ndシングル『you are my curse』。
同年8月には Billboard JAPAN「TikTok Weekly Top 20」で4週連続1位を獲得し、nyamuraの知名度を大きく向上させた人気曲です。
MVの概要欄から、『you are my curse』は1stシングル『はーどもーどかのじょ』のその後を描いた「慈愛と愛憎」の歌であることがわかります。
nyamuraいわく「愛はやがて深い憎しみへ昇華される」とのこと。
深い愛と深い憎しみを併せ持った『you are my curse』。
果たしてその歌詞には、どのような意味が込められているのでしょうか。
夢で「君」を何度も殺した「あたし」
まずは前半の歌詞です。
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忘れちゃった輪廻のレジデンス
もう一回転最後にお願い
四肢解体し見えた全部
黒く濁った愛だけ頂戴
≪you are my curse 歌詞より抜粋≫
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「輪廻(りんね)」は生まれ変わりや繰り返し、「レジデンス(residence)」は居住地を意味します。
曲のテーマが愛と憎しみである点を踏まえると、「輪廻のレジデンス」を忘れたというのは自分の感情の所在が愛なのか憎しみなのかわからなくなったという意味に解釈できそうです。
続く「もう一回転最後にお願い」には、愛憎の輪廻をひと巡りすれば必ず通過できる純粋な愛をふたたび取り戻したいという欲求が感じ取れます。
頭の中で相手の四肢を解体し、その全てを見た主人公。
彼女が欲しがる「黒く濁った愛」は、赤黒く生々しい心臓に重なるものがありますね。
次の歌詞はこちらです。
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間違い探しもう無理やめて
あたし君を夢で殺した
名無しじゃないし嫌だしそんな話
かわいい買えないしもういい死ねよ
≪you are my curse 歌詞より抜粋≫
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ここでの「間違い探し」は相手の嘘を探知することだと考えられます。
そんな「間違い探し」に飽き飽きした主人公は「もう無理やめて」と相手に懇願している様子です。
そして続くのは「あたし君を夢で殺した」という突然の告白。
『はーどもーどかのじょ』では「殺したいほどだいすき」というフレーズが印象的でしたが、主人公はその願望を夢で叶えたようですね。
加えて彼女は、ネット掲示板の「名無しさん」じゃないんだからと言わんばかりに見え透いたホラ話を嫌悪しています。
甘い褒め言葉「かわいい」欲しさにあげるお金もなくなり、ついには「もういい死ねよ」と諦めたように言い放ちました。
投げやりな雰囲気のなか、続く歌詞はこちら。
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言葉にできない愛してる全部
ここから先が本心に見える?
やめられない避けられない
立ち向かいたいのお前のエゴにさ
何度も殺した
≪you are my curse 歌詞より抜粋≫
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「死ねよ」と言い放ってすぐ「愛してる全部」に至るのは、それこそ言葉にできない狂気じみたものが感じられますね。
本心に見えるかと問う「ここから先」とは、続く歌詞の「やめられない避(よ)けられない…」以降の部分のことでしょうか。
相手に振り回されて嘆くのではなく、エゴに真っ向から立ち向かう。
「君」ではなく「お前」と呼んでいることからも、主人公の気持ちが反抗や憎悪に傾いていることがうかがえますね。
愛しているのに頭の中で「何度も殺した」。
そんな狂気的な愛憎模様にはゾッとさせられますが、どこか引き込まれる静かな中毒性も感じられます。
「あなたの髪」は呪いの道具?
ここからは後半の歌詞を考察していきましょう。
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忘れないであたしとのメモリ
嘘でもいいからなんて嘘だった
ひび割れてたの最初から
期待しないよもう痛い痛いよ
≪you are my curse 歌詞より抜粋≫
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愛する相手がゲーム好きであることと「あたし」が「君」の嘘を一瞬で見破れることは『はーどもーどかのじょ』の歌詞で明かされています。
「メモリー」ではなく「メモリ」を忘れないでと伝えていることからも、主人公が「君」にすっかり最適化していることが読み取れますね。
そして続く歌詞は「嘘でもいいからなんて嘘だった」。
嘘を一瞬で見破れる主人公にとっては、嘘はまやかしでしかありません。
どう誤魔化そうにも最初から「ひび割れてた」関係性。
日々胸を痛め、傷つき続けた彼女は「期待しない」ことを選んだようです。
続く歌詞はこちら。
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四肢解体し食べたの全部
愛も嘘も呑み込んで
何がしたいのか
なんてもうわからない
≪you are my curse 歌詞より抜粋≫
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「四肢解体し食べたの全部」。
解体しないと見えない愛、まやかしでしかない見せかけの嘘は、それぞれ心(あるいは心臓)と身体を象徴しているのかもしれません。
それらを呑(の)み込むというのは、それこそ「殺したいほどだいすき」の最果てたる「愛する人を自分のものにする行為」のように思えます。
そしてその領域に達した今、もはや目的はなくなり「何がしたいのか」さえ主人公にはわかりません。
放心したような雰囲気ですが、続く歌詞では不意に浮かび上がったひとつの願望が綴られます。
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あなたの髪で
あたしを殺して
≪you are my curse 歌詞より抜粋≫
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「髪」といえば呪い(curse)を思い浮かべる人もいるかもしれません。
真偽はさておき、ちまたには「相手に自分の髪の毛を食べさせる」という恋愛成就のおまじないもあるようです。
これを踏まえると「あなたの髪であたしを殺して」と願う主人公は、愛や嘘と一緒に「髪」を取り込むことで自ら呪いにかかろうとしていると考えられます。
愛と憎しみの輪廻に迷い、心のありかを見失っている「あたし」。
混乱を極めた結果、ふと呪いの力で純粋な愛を引き出したいと思い至ったのでしょうか。
最後の歌詞は、期待をやめて全部を食した描写が繰り返されます。
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忘れないであたしとのメモリ
嘘でもいいからなんて嘘だった
ひび割れてたの最初から
期待しないよもう痛い痛いよ
四肢解体し食べたの全部
愛も嘘も呑み込んで
何がしたいのか
なんてもうわからない
≪you are my curse 歌詞より抜粋≫
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憎悪が募ってなお「忘れないであたしとのメモリ」と願っているのは、やはり憎しみのどこかに深い愛情があるからなのでしょう。
複雑な「慈愛と愛憎」にとらわれ、正気を失ったように見える主人公。
そんな彼女に必要だったのは、呪いの産物である黒濁した愛でも、見せかけの真っ赤な嘘でもなく、ただ自分の「どろどろ」を受け入れてくれる器であるように思えますね。
大好きな「君」を「四肢解体」したのが、あくまで「あたし」の夢であることを願ってやみません。
呪い (curse) に頼らない愛を
今回は、nyamura『you are my curse』の歌詞の意味を考察しました。愛が憎しみに変わりながらも、わずかながら慈愛の心もちらつく絶妙な歌詞でしたね。
常軌を逸した描写も目立ちましたが、愛と憎しみに悩まされるリアルな人間味については多くの人が共感できたのではないでしょうか。
「狂気」や「狂愛」のひと言では片づけられない複雑さや生々しさが光っているのも『you are my curse』の魅力の1つなのかもしれません。
とはいえ、度が過ぎた愛情は禁物です。
「curse」に頼らない、互いが自立した相思相愛の関係を築けるよう気をしっかり持って生きていきましょう。