歌詞の主人公は額縁の中にいる?
『1000年生きてる』を考察するにあたって、まず気になるのは歌詞の主人公は誰なのかということです。
楽曲の世界観を読み解くため、冒頭の歌詞から見ていきましょう。
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あー 決まった言葉垂れてまたヒューマン
ちょっとステキな晒し者 ね
はした命眺めて全てを無視した
額ぶちの中で1000年生きてるのさ
≪1000年生きてる 歌詞より抜粋≫
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MVでは、展覧会にある額縁の中から外を眺めている姫の絵が描かれています。
冒頭の歌詞でも、「額ぶちの中で1000年生きてるのさ」というフレーズがあるので、歌詞の主人公は、おそらく額縁の中で生きている女の子なのでしょう。
言い換えれば、作品を眺めて感想を述べる“ヒューマン(人間)”ではなく、ヒューマンに晒されている“絵”からの視点で描かれた楽曲ということになりそうです。
作品は作者が亡くなった後も失われることなく残り続けるので、1000年どころか永遠に生きられる可能性があります。
作品から見れば、人間の命は短く儚いため、「はした命」という表現になるのでしょう。
「全てを無視した」という歌詞からは、人間に口出しをせず、飾られている絵として、無言を貫くのだという、作品としての姿勢が感じられます。
作品が無言を貫くのは、作者が作品に込めた思いを、生み落とされた当時のまま、表現し続けるためなのかもしれませんね。
展覧会の絵として無言を貫いている女の子が、歌詞の主人公として、唯一、言葉を発せられる場がこの楽曲の中なのではないでしょうか。
「狂ったフリ」という歌詞の意味
『1000年生きてる』の歌詞には、「狂った」という言葉が何度も出てきます。
順番に引用して考察していきます。
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知らない偉い人が
石に文字彫って祈って
気の狂った誰かがホワイトを塗りたくった
≪1000年生きてる 歌詞より抜粋≫
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「石に文字彫って祈って」という歌詞からは、古代文明が想起させられます。
紙とペンがなかった時代から、人間は石に文字を彫って、思いを残してきました。
そのように考えると、「気の狂った誰かがホワイトを塗りたくった」という歌詞は、文字で直接表現するのではなく、色で心を表現しようとした、芸術の始まりを描いているのだと考察できそうです。
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狂ったフリでごまかしていこうぜ
骨も残らぬパパママよ
≪1000年生きてる 歌詞より抜粋≫
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歌詞の主人公が額縁の絵の女の子だとすると、「骨も残らぬパパママ」というのは、絵を生み出した作者を指すのだと考えられそうです。
「狂ったフリでごまかしていこうぜ」と作者に言い聞かせている様子が浮かびますね。
まともではいられないほど辛いことがあったとき、人間の救いになるのは、狂ったフリをして行われる創作なのかもしれません。
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狂ったフリでごまかしていこうぜ
ちょっと笑える話をしよう
あっはっは 泣き腫らしたあの日とはお別れね
≪1000年生きてる 歌詞より抜粋≫
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この歌詞は、「ちょっと笑える話をしよう」「泣き腫らしたあの日とはお別れね」という、相手を元気づける言葉と、「狂ったフリでごまかしていこうぜ」という言葉が並んでいます。
額縁の絵の女の子にとって、「狂ったフリでごまかしていこうぜ」という言葉は、人間を励ますための言葉なのではないでしょうか。
“狂ったフリして何か創ってみなよ”と背中を押されているような気持ちになります。
「1000年生きてる」に込められたメッセージ
最後に、楽曲における後半の歌詞を考察します。
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一生このまま尻尾の皮一枚で
繋がれた奴隷か?
喉元に噛みつく牙はまだあるかい?
残り時間の少ないヒューマン
見ててあげるわ楽しませて
≪1000年生きてる 歌詞より抜粋≫
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MVでは、「一生このまま尻尾の皮一枚で繋がれた奴隷か?」という歌詞の部分で、尻尾を掴まれてもがく、とかげのイラストが表示されます。
とかげは尻尾を自ら切れば、簡単に逃げられるはずですよね。
切れる尻尾を切らずに、皮一枚で繋がれたままになっているのは滑稽に思えます。
「喉元に噛みつく牙はまだあるかい?」という歌詞と合わせると、自分から運命に抗ってみてはどうかというメッセージが読み取れそうです。
「残り時間の少ないヒューマン 見ててあげるわ楽しませて」という歌詞は、楽曲が「あー 決まった言葉垂れてまたヒューマン」という歌詞から始まったことを思い出しながら考察すると良いでしょう。
額縁の絵の女の子は、額縁の中から人間を傍観していて、同じようなことしか言わない姿に飽きていたのではないでしょうか。
だからこそ、創作をして「楽しませて」と言っているのかもしれません。
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生き汚く生きて何かを創ったら
あなたの気持ちが1000年生きられるかも
しれないから
≪1000年生きてる 歌詞より抜粋≫
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楽曲の最後は、この3行で締めくくられます。
たとえ短い命だとしても、その生が苦痛に満ちていたとしても、創作して作品を残せば、私のように、あなたの気持ちが1000年生きられるかもしれない、というメッセージを感じます。
『1000年生きてる』は、作品視点で描かれる、人間の生と創作を鼓舞する楽曲だと考察できるでしょう。