『SPY×FAMILY』のあらすじに沿った歌詞
Vaundyの『トドメの一撃 feat.Cory Wong』は、TVアニメ『SPY×FAMILY』Season2のED主題歌を担当することが決定し、書き下ろされた楽曲です。歌詞の意味を考察するにあたり、まずは『SPY×FAMILY』のあらすじをご紹介します。
舞台は東国と西国が冷戦状態にあった時代で、主人公は西国の凄腕スパイである黄昏。
東国の総裁デスモンドの動向を探るため、“一週間以内に家族を作り、デズモンドの息子が通う名門校の懇親会に潜入せよ”という極秘任務を課せられます。
任務を果たすべく、黄昏は精神科医ロイドに扮しますが、出会った娘・アーニャは心を読むことができる超能力者で、妻・ヨルは殺し屋でした。
利害が一致した3人は、お互いの正体を隠しながら共に暮らすことになります。
世界の平和を託された仮初めの家族による、スパイ×アクション×超能力が掛け合わさったホームコメディです。
このあらすじを踏まえ、『トドメの一撃 feat.Cory Wong』の歌詞を考察します。
歌詞の主人公は妻で殺し屋のヨル
『トドメの一撃 feat.Cory Wong』はどの人物の視点で描かれた楽曲なのでしょうか。
----------------
祈りあった未来とて
道が違うのよ
アナタ
互いの殺意で
トドメ喰らっちゃうね
やっぱりやめとくわ
≪トドメの一撃 feat. Cory Wong 歌詞より抜粋≫
----------------
「違うのよ」「やめとくわ」など、大人の女性らしい口調が使われていますね。
「アナタ」という表現も、妻が夫を呼ぶ際によく使われる表現です。
『SPY×FAMILY』の登場人物に当てはめるのであれば、この歌詞は妻・ヨルの視点で描かれており、「アナタ」は夫・ロイドを指しているのだと考察できそうです。
そのように考えれば、「互いの殺意」という歌詞もしっくりくるのではないでしょうか。
スパイである黄昏と殺し屋であるヨルは、互いに対する殺意は抱いていないにせよ、職業柄、ターゲットに対する殺意を常に抱いている状況にあります。
この考察を踏まえて、直前の歌詞を見てみましょう。
----------------
今日の夜は隣にいさせて
今夜だけは本気だからね
こっちにきてもっと
≪トドメの一撃 feat. Cory Wong 歌詞より抜粋≫
----------------
「隣にいさせて」「こっちにきてもっと」という歌詞からは、夫婦としての距離を縮めたいという願いを感じ取れます。
しかし、続く歌詞で「やっぱりやめとくわ」という言葉が出てきてしまうのは、自身が抱いている殺意が要因になっているのかもしれません。
ヨルには、殺し屋である自分が家庭を築いたり、愛情を受けたりしてはいけないという考えがあるのではないでしょうか。
「こっちにきてもっと」と「やっぱりやめとくわ」という相反する歌詞に、彼女の葛藤が表現されているように思います。
ヨルの“家族を守りたい”という願い
『トドメの一撃 feat.Cory Wong』は以下の歌詞で締めくくられます。
----------------
今日の夜はワタシにさせて
今夜だけはワタシに守らせて
今日の夜が明けたころに
待ち合わせね
明日の夜も守れますように
こっちにきてもっと
≪トドメの一撃 feat. Cory Wong 歌詞より抜粋≫
----------------
「夜」という言葉がたくさん出てきますね。
ヨルの心情をメインにした楽曲だと考えれば、歌詞の「夜」には「ヨル」という名前がかけられているのだと考察できそうです。
また、MVの内容も踏まえれば、別の捉え方もできます。
『トドメの一撃 feat.Cory Wong』のMVは、沈みゆく豪華客船を舞台に、長澤まさみが歌い踊るモノクロの映像作品です。
TVアニメ『SPY×FAMILY』Season2では、ヨルが豪華客船で市役所の業務を装いながら、殺し屋として、裏組織の生き残りを護衛する任務につくというエピソードが放送されました。
MVとアニメの内容において、豪華客船が舞台である点が一致しているので、楽曲の歌詞もリンクしていると考えると、新しい視点で歌詞を味わえるのではないでしょうか。
夫と娘に悟られないよう、豪華客船で襲撃してきた殺し屋と一人で戦うヨルの姿が、「今夜だけはワタシに守らせて」という歌詞に重なります。
「今夜だけは」という歌詞は、仮初めの家族がいつまで続くのかは分からない、と未来を憂うヨルの心情も表現しているように捉えられそうです。
“それでも、この家族を守りたい、3人で暮らしていたい”という気持ちが「明日の夜も守れますように こっちにきてもっと」という最後のフレーズに溢れているのかもしれません。
悲哀を感じるクールなメロディと、切実な願いの込められた歌詞が重なるこの音楽を聴くと、胸がぎゅっと苦しく、愛おしくなります。