哀愁ただよう昭和の名曲「愛の終着駅」
『舟唄』や『雨の慕情』など、数々のヒット曲を世に送り出した八代亜紀。2023年12月30日に惜しまれつつその生涯を閉じた、日本が誇る演歌歌手です。
とくに昭和の時代を生きた人のなかには、八代亜紀の楽曲がカラオケの十八番であるという方も多いでしょう。
今回考察するのは、そんな八代亜紀の代表曲の1つ『愛の終着駅』。
NHK紅白歌合戦でも歌唱されたことのある、哀調ただよう名曲です。
『愛の終着駅』は1977年にリリースされ、八代亜紀は同年の日本レコード大賞で最優秀歌唱賞を受賞しました。
日本のポピュラー音楽史に名を残す『愛の終着駅』の歌詞には、はたしてどのような意味や物語が見出せるのでしょうか。
海の匂いがする手紙の果てに
まずは1番の歌詞です。
『愛の終着駅』は「あなた」からの手紙の描写で始まります。
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寒い夜汽車で 膝をたてながら
書いたあなたの この手紙
≪愛の終着駅 歌詞より抜粋≫
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「寒い夜汽車(よぎしゃ)で 膝をたてながら」書かれたらしい「あなたの手紙」。
「夜汽車(夜通しで走行する汽車)」というワードが、寒さとも相まって哀切な雰囲気を感じさせますね。
手紙を読みながら、主人公は「あなた」が不器用に手紙を書いている姿を思い浮かべている様子です。
続く歌詞はこちら。
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文字のみだれは 線路の軋み
愛の迷いじゃ ないですか
よめばその先 気になるの
≪愛の終着駅 歌詞より抜粋≫
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「文字のみだれは 線路の軋(きし)み」。
この「線路の軋み」は、夜汽車がレールのつなぎ目でガタゴト揺れる状況のほか、2人の未来に何らかの不和があることも連想させます。
みだれた文字を「愛の迷いじゃないですか」と推察する主人公。
彼女が気にしている「その先」とは、手紙の先だけではなく「あなた」の行き先や2人の愛の行く末でもあるのでしょうね。
続いて、2番の歌詞です。
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君のしあわせ 考えてみたい
あなた何故なの 教えてよ
≪愛の終着駅 歌詞より抜粋≫
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「君のしあわせ 考えてみたい」は、手紙に書かれている「あなた」の言葉だと考えられます。
主人公の「しあわせ」を考えるべく、一人夜汽車に乗って旅に出た「あなた」。
一方の「わたし」は、その行動に納得できていない様子です。
次の歌詞も見てみましょう。
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白い便箋 折り目のなかは
海の匂いが するだけで
いまのわたしを 泣かせるの
≪愛の終着駅 歌詞より抜粋≫
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便箋の折り目から感じられる「海の匂い」。
「あなた」が手紙を書いたのが汽車の中だったなら、この匂いは文字通りの意味ではない可能性も出てきます。
ちまたでは「海の匂い」を死の予兆と結びつける見方もあるようです。
そう考えると、主人公は手紙の文面から彼の死の気配を読み取っているのかもしれません。
「わたし」を泣かせる白い便箋には、恋愛の終わり以外の意味も含まれているように思えますね。
最後に、3番の歌詞を見てみましょう。
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北の旅路の 淋しさにゆられ
終着駅まで ゆくという
あなたお願い 帰って来てよ
≪愛の終着駅 歌詞より抜粋≫
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夜汽車に乗って北へ北へと旅を進め、終着駅に向かう「あなた」。
さびしく汽車に揺られる彼のことを想い、主人公の恋しさは増幅するばかりです。
「あなたお願い 帰って来てよ」という言葉も、強く切実に響きます。
最後のフレーズはこちら。
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窓にわたしの まぼろしが
見えたら辛さを 解ってほしい
≪愛の終着駅 歌詞より抜粋≫
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きっと「わたし」にとっての幸せは「あなた」と一緒に生きていくことです。
「あなた」を失うこちらの苦しみが少しでもわかるなら、あるいはわずかでも「わたし」を求めているなら、どうかまた帰って来てほしい。
その切望に対する「あなた」の反応はわからないまま、物語は幕を閉じます。
2人の「愛の終着駅」がどこなのかは、聴き手の想像にゆだねられているのでしょう。
終わらない「愛の終着駅」
今回は、八代亜紀『愛の終着駅』の歌詞の意味を考察しました。「あなた」と「わたし」をつなぐ手紙を中心として、ひと言ひと言から想像がかき立てられる哀愁ある歌詞でしたね。
「愛の終着駅」たる2人の行く末が明確に描かれていない点も、とても情緒的で趣があるように思えます。
電車やチャットがすっかり馴染んだ現代においても、遠くにいる誰かを想う切なさは昔と変わりません。
『愛の終着駅』は終わりを知らず、これからもずっと私たちの心を震わせてくれるのでしょう。