プロセカにも追加収録!初音ミクが歌う名曲を考察
多様なクリエーターからなる音楽ユニット「supercell」のメンバーとして多くの名曲を世に送り出してきたコンポーザー・ryo。
代表曲『君の知らない物語』はもちろん、『ワールドイズマイン』や『恋は戦争』、『メルト』など、初音ミクをフィーチャリングした楽曲でも大人気のアーティストです。
今回考察するのは、そんなryoが2009年3月にリリースした『初めての恋が終わる時』。
「初恋オワタ」の略称で知られる楽曲で、2023年12月には大ヒットリズムゲーム「プロセカ」に追加収録されたことでも話題を呼びました。
その歌詞には、恋愛ドラマのワンシーンのような「特別な恋の終わり」がつづられています。
『ワールドイズマイン』や『恋は戦争』のような強気な主人公は登場せず、かといって『メルト』のような日常的な恋模様とも一線を画すエモーショナルな1曲です。
そんな『初めての恋が終わる時』の歌詞にはどのような意味やストーリーが見出せるのか、冒頭の歌詞から考察していきましょう。
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はじめてのキスは涙の味がした
まるでドラマみたいな恋
見計らったように発車のベルが鳴った
≪初めての恋が終わる時 歌詞より抜粋≫
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涙の味がした「はじめてのキス」。
見計らったかのように鳴る「発車のベル」。
主人公のファーストキスは別れのキスであり、無情にも電車のドアがすぐに二人を隔てたことがうかがえます。
ドラマのような恋物語は、切ない別れのワンカットから始まりました。
押さえつけた気持ちと「ありがとう サヨナラ」
続いて、1番の歌詞を見ていきましょう。
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冷たい冬の風が頬をかすめる
吐いた息で両手をこすった
街はイルミネーション 魔法をかけたみたい
裸の街路樹 キラキラ
どうしても言えなかった
この気持ち 押さえつけた
前から決めていた事だから
これでいいの 振り向かないから
≪初めての恋が終わる時 歌詞より抜粋≫
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イルミネーションがきらめく冬の街。
人恋しい雰囲気のなか、主人公の心には恋の葛藤が生じています。
必死に押さえつけた「好き」の気持ちが冬の魔法で騒ぎ始めているようです。
「前から決めていた事だからこれでいいの 振り向かないから」という言葉には、その気持ちを打ち明けることなく胸にしまっておこうという強い覚悟が感じられます。
続くサビの歌詞はこちら。
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ありがとう サヨナラ
切ない片想い
足を止めたら思い出してしまう
だから ありがとう サヨナラ
泣いたりしないから
そう思った途端にふわり
舞い降りてくる雪
触れたら解けて消えた
≪初めての恋が終わる時 歌詞より抜粋≫
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主人公は「ありがとう サヨナラ」と心の中で繰り返します。
カタカナ表記のぎこちない「サヨナラ」には、片思いの切なさを和らげる空元気のようなニュアンスも読み取れますね。
歩き続けて景色を動かし、気を紛らわせる主人公。
ふわり舞い降りる雪の描写からも、彼女の切ない心境や孤独感が深々(しんしん)と伝わってきます。
触れたら溶けてなくなった雪。
その雪には、自分が想いを伝えることで好きな人との今の関係が消えてしまう可能性も投影されているのかもしれません。
渡せなかった「手編みのマフラー」
続いて、2番の歌詞を考察していきましょう。
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駅へと続く大通り
寄り添ってる二人 楽しそう
「ほら見て初雪!」
キミとあんな風になりたくて
初めて作った 手編みのマフラー
どうしたら渡せたんだろう
意気地なし 怖かっただけ
思い出になるなら
このままで構わないって
それは本当なの?
≪初めての恋が終わる時 歌詞より抜粋≫
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街中のカップルの楽しげな雰囲気に、主人公はつい「キミ」との理想像を重ねてしまいます。
同時に、「キミ」のために初めて作った「手編みのマフラー」を渡せなかった思い出もよみがえってきました。
元の関係が崩れることや、自分の想いを拒絶されることが怖かったのでしょうか。
いずれにせよ、行動をしなかった過去の自分に対して主人公はちょっとした怒りさえ覚えているようですね。
これはこれで1つの思い出だと納得もできる一方、心のどこかでは「本当にそれでいいの?」と疑問を呈する自分もいます。
少しずつ葛藤が強まってきたところで、サビの歌詞です。
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ありがとう サヨナラ
いつかこんな時が来てしまうこと
わかってたはずだわ なのに
ありがとう サヨナラ?
体が震えてる
もうすぐ列車が来るのに
それは今になって
私を苦しめる
≪初めての恋が終わる時 歌詞より抜粋≫
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想いを胸に留めることにした以上、心にわだかまりを抱えたまま別れる時が来る。
それを承知のうえで覚悟を決めたはずが、いざ別れの瞬間が近づくと体の震えが止まりません。
そんな主人公によぎる「ありがとう サヨナラ?」は、まるで「このまま別れの列車に乗ってしまっていいの?」という覚悟の揺らぎのようです。
「それは今になって 私を苦しめる」というフレーズは、かつて抑圧した想いが実感を伴って今の自分を迷わせているといった意味合いでしょうか。
主人公の葛藤は増幅するばかりです。
初恋の終わりはドラマの始まり
ここからは、終盤の歌詞を考察します。
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繋がりたい
どれほど願っただろう
この手は空っぽ
ねえ サヨナラってこういうこと?
≪初めての恋が終わる時 歌詞より抜粋≫
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手を繋いで寄り添うような関係を願っていた主人公。
しかし「この手は空っぽ」のまま、本心に反する「サヨナラ」の瞬間が近づいてきます。
続く歌詞はこちらです。
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行かなくちゃ そんなのわかってる
キミが優しい事も知ってる
だから 「……この手を離してよ」
出会えて良かった
キミが好き
≪初めての恋が終わる時 歌詞より抜粋≫
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この部分は解釈が分かれそうですね。
列車に乗るのが主人公だった場合、「……」の部分で「キミ」が主人公を引き止めたと考えられます。
一方、主人公が見送る側だとすれば、列車に向かう「キミ」の手を思わずつかんでしまったという情景も想像できます。
どちらもドラマチックな展開ですが、いずれにしても「この手を離してよ」の一言は相手を思いやるがゆえのそっけない物言いであると解釈できそうです。
今この瞬間に想いを伝えたら別れがいっそうつらくなる。
主人公も「キミ」も、そのつらさを相手に味わってほしくないという優しさを持ち合わせていたのではないでしょうか。
ただ、一方が他方を引き止めたことで主人公の想いはあふれ、気持ちを打ち明ける決意も固まりました。
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ありがとう サヨナラ
一言が言えない
今だけでいい 私に勇気を
「あのね──」
言いかけた唇 キミとの距離は0
……今だけは泣いていいよね
もう言葉はいらない
お願い ぎゅっとしていて
≪初めての恋が終わる時 歌詞より抜粋≫
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「ありがとう サヨナラ」よりも伝えたい一言。
それはきっと「出会えて良かった キミが好き」のほうなのでしょう。
そして勇気を振り絞って打ち明けようとした矢先「キミとの距離は0」になりました。
気持ちを押さえつけていたのは主人公だけではなかったようですね。
「泣いたりしない」という固い決意も、それこそ雪のように溶けてしまいます。
言葉ではなく行動で通じ合った二人。
きっと冒頭の歌詞はこの場面の直後のことでしょう。
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はじめてのキスは涙の味がした
まるでドラマみたいな恋
見計らったように発車のベルが鳴った
≪初めての恋が終わる時 歌詞より抜粋≫
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これまでのストーリーを踏まえると、ここの「涙の味」は別れの悲しみを表しているだけではなかったことがわかりますね。
そしてラストの歌詞にも、主人公の晴れやかな心境が読み取れます。
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来年の今頃には
どんな私がいて
どんなキミがいるのかな
≪初めての恋が終わる時 歌詞より抜粋≫
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「来年の今頃」に思いを馳せる「私」。
気持ちが通じ合った今、主人公の胸には温かな希望があふれています。
「初めての恋の終わり」は、新しいドラマの始まりだったともいえそうです。
来年の二人がおそろいのマフラーで大通りを歩き、初雪を喜び合っていたら素敵ですね。
「初めての恋」に思いを馳せる
今回は、ryo (supercell) feat. 初音ミク『初めての恋が終わる時』の歌詞の意味を考察しました。終盤まで聴くことで冒頭の歌詞の印象が変わる、ストーリーテリングが巧みな歌詞でしたね。
また、気持ちを伝えたいけど勇気が出ないもどかしさは誰にとっても馴染みのある感覚でしょう。
そんな片思いの切なさが丁寧に描かれている点も、『初めての恋が終わる時』が多くのファンの心に残り続けている要因なのかもしれません。
この機会に、あなたも自分自身の「初めての恋」に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。