秩父の中学校で生まれた卒業式の定番ソング
埼玉県の小さな中学校で制作された合唱曲『旅立ちの日に』。
今では校種を問わず多くの学校で歌われている卒業式の定番ソングですね。
『旅立ちの日に』が生まれたのは、1991年、秩父市立影森中学校でのこと。
作詞は当時の校長・小嶋登が、作曲は音楽教師の坂本浩美が手がけました。
小嶋校長は「歌声が響く学校」を1つの柱としており、『旅立ちの日に』は卒業生へ向けた先生方からのサプライズプレゼントとして誕生したそうです。
制作を主導した坂本先生は、『旅立ちの日に』について、一緒に育った生徒たちや地域の方々、仲間の先生たちへの「感謝」を伝える歌だと語っています。
門出に「ありがとう」を届ける温かい合唱曲の歌詞には、はたしてどのような意味が込められているのでしょうか。
自分自身の卒業式や仲間の顔ぶれを思い出しながら、その歌詞の意味をじっくり考えてみましょう。
「勇気を翼にこめて 希望の風にのり」
まずは1番の歌詞から見ていきます。
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白い光の中に 山なみは萌えて
遥かな空の果てまでも 君は飛び立つ
≪旅立ちの日に 歌詞より抜粋≫
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「萌える」は、草木が芽を出すという意味です。
朝の光に包まれ、山々の草木がゆっくりと芽吹いていく。
冬の寒さが残るなか、新しい春の始まりや希望が感じられる歌い出しですね。
そして、そんなみずみずしい山並みを覆う「遥かな空」へと卒業生たちは飛び立っていきます。
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限り無く青い空に 心ふるわせ
自由を駆ける鳥よ ふリ返ることもせず
≪旅立ちの日に 歌詞より抜粋≫
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無限の可能性を思わせる「限りなく青い空」。
そこへ羽ばたこうとする「鳥」には、卒業を控えた生徒たちが重なりますね。
期待と不安に心をふるわせながら、自由を謳歌せんと旅立っていく鳥たち。
「ふり返ることもせず」というフレーズには、若さゆえの勢いのほか、見送る側の寂しさも感じ取れます。
続く歌詞はこちらです。
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勇気を翼にこめて 希望の風にのり
このひろい大空に 夢をたくして
≪旅立ちの日に 歌詞より抜粋≫
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「勇気を翼にこめて 希望の風にのり」。
新しい世界へと羽ばたく勇気を、将来への明るい希望が後押しするような美しいフレーズですね。
それぞれが目指す空の果てには、それぞれの「夢」があります。
その夢に向かって大空へ飛んでいく緊張感は、誰しも経験がある特別な感覚なのではないでしょうか。
旅立つ「鳥」たちの豊かな未来を願って、1番は幕を閉じます。
別れの今、愛と感謝のフィナーレを
ここからは、2番以降の歌詞を見ていきましょう。
2番の内容は、卒業生を見守ってきた大人たちにも通じるものがあります。
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懐かしい友の声 ふとよみがえる
意味もないいさかいに 泣いたあのとき
心かよったうれしさに 抱き合った日よ
みんなすぎたけれど 思い出強く抱いて
勇気を翼にこめて 希望の風にのり
このひろい大空に 夢をたくして
≪旅立ちの日に 歌詞より抜粋≫
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ふとよみがえった「懐かしい友の声」。
小さなすれ違いでけんかしたことや、気持ちが通じ合って喜んだこと。
感情をぶつけ合ったり共有したりすることで、人は大きく成長します。
個々のエピソードが遠い過去のように感じられても、友達との大切な思い出が色あせることはありません。
多くの学びがあった思い出を胸に、一人一人がそれぞれの門出を迎える。
大きな成長を遂げて希望にあふれているのは、きっと生徒たちだけではないのでしょう。
最後の歌詞は、以下のフレーズの繰り返しです。
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いま別れのとき 飛び立とう未来信じて
弾む若い力信じて このひろい このひろい大空に
≪旅立ちの日に 歌詞より抜粋≫
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別れの時がきた今、明るい未来と若い力を信じて大空へと飛び立つ。
鳥たちが一斉にそれぞれの目的地へ羽ばたいていくようなイメージが湧いてきますね。
とくに「弾む若い力」や「この広い この広い 大空に」という表現には、みずみずしい勢いと無限の可能性が凝縮されているように思えます。
別れの瞬間には恋しさや寂しさが付き物。
しかし『旅立ちの日に』の歌詞には、勇気や希望、そして活力がみなぎっています。
きっと卒業生たちへの愛や感謝が、その前向きな世界観を築き上げ、支えているのでしょうね。
卒業式に欠かせない「ありがとうの歌」
今回は、合唱曲『旅立ちの日に』の歌詞の意味を考察しました。卒業を迎えた生徒たちに明るい希望を届けるような心温まる歌詞でしたね。
見送られる側だけでなく見送る側にとっても響く部分があり、かつての仲間たちの顔がふと思い浮かんだという人も多かったのではないでしょうか。
卒業式の主役は卒業生ですが、生徒たちを支えてきた先生や両親にとっても「卒業」は大切な節目です。
そんな彼らすべてを包み込む「ありがとうの歌」だからこそ、立場や年代に関係なく『旅立ちの日に』は私たちの心に響き続けるのでしょう。