初のアジアツアーの手応えと思い出
──昨年末は5地域をめぐる初めてのアジアツアーを行われましたが、日本のツアーとは違った手応えがありましたか?yama:本当にいろいろな手応えがありました。台湾の会場はすぐにソールドアウトになって海外でも応援してくれるファンがいることを肌で感じられましたし、他の4ヶ所もお客さんを目の前にしたらすごく熱狂的で日本とは違った熱量を感じて刺激になりました。
──観客の反応で具体的に面白かったり、興味深かったことは?
yama:地域によってノリが全然違って、クアラルンプールのライブでは観客の方もすごく大きな声で一緒に歌うし、ちょっとブレイクがある時に「せーの」って言ってくる人がいたり、特に不思議な経験をしました。日本のライブだと、聴きどころは聴き入る、一緒に乗れるところでは盛り上がるというメリハリのあるお客さんがほとんどですが、アジアのお客さんは自分が飛び出したいと思ったら、バラードであっても自分のやり方で楽しむという自由な雰囲気を感じました。
──1週間ほどのツアーで自分の中に吸収できたものはありましたか。
yama:そうですね。なかには、ちゃんとしたライブハウスじゃない会場もあったんですよ。例えば、普段は結婚式場に使われているような場所で、環境的には割と難しいところもあったので、そういうイレギュラーな時に対応できる力は鍛えられました。何があってもとにかく気合いで一生懸命やる。そういう度胸は付いた気がします。
──異文化に触れることも多かったと思います。移動中のできごとなどで何か初体験になったことはありますか。
yama:やっぱり食べ物ですかね。実はエスニック料理ってそんなに得意じゃないんですけど、4ヶ所目に訪れたタイで生まれて初めてトムヤムクンを食べたら、それまで食わず嫌いしていたのが、意外においしかった。反対に、最初に訪れたマレーシアでは何も知らずに屋台街の超ローカルな食堂に入ってしまって、「豆腐」と書かれているものを頼んだら、何か甘いお菓子みたいな味付けの豆腐が来たり、想像していた味ではないものが次々と出てくるから、初日から不安になりました。
あと、もともと八角が苦手なので、最後に訪れた台湾ではコンビニに入った時の八角の匂いに圧倒されてしまったり、シンガポールでは少しだけ自由時間があったので、外を散歩してみたら肝心のマーライオンが工事中で見えなかったり…あれ、何だかしょっぱい話しかしていないような(笑)。
3rdアルバム「awake&build」は“人間成長の最終章”
──いえ、リアルな感想がたくさん聞けて面白いです。ここからは「awake(目覚め)」を感じるような前向きな話にしていきましょう。1月24日発売の3rdアルバム『awake&build』は、yamaさんにとってどんな思い入れのある作品になりましたか?yama:本作は1stアルバムの『the meaning of life』、2ndアルバムの『Versus the night』から続くモラトリアム3部作の最終章と位置付けています。昔の自分は家で独り膝を抱えながら鬱屈とした状態で音楽活動をしていて表に立つこともありませんでした。だから、デビューをしてから結構苦労をしたというか、まず自分自身が固まっていないし、ライブをやったこともなかったので、何をしたらいいんだろう、どうしたらいいんだろうという迷いの中で自我を喪失してしまった。そこから改めて人間として成長していく過程で周りの人と少しずつうまく関われるようになったし、ライブも前向きにできるようになりました。その変化を制作にも活かせるようになって、ようやく地に足が着いてきたのが今回の『awake&build』で、自分のアイデンティティみたいなものが確立されつつある中、この先のビジョンも見えた一枚であり、“人間成長の最終章”といえるアルバムになっています。
──そうすると、自分の中身が確立される前に世に出てきちゃったみたいな感覚が強かったということですか。
yama:そうですね。はじめの頃は自分で楽曲を書くことすらしっかりできなかったですし、デビュー後も、もうやりたくない、表にも出たくないみたいなブレブレの状況だったことがありました。本作を作っている段階でも「awake&build」というタイトルがあった上でアルバム曲を書き下ろしていく過程の中で、ちゃんと自分を再構築できるだろうかという不安を感じることがありました。ただ、これを三部作の区切りにするということだけは決めていたので、最後の収録曲である『陽だまり』を作り終える頃には、自分のやりたいことが少しずつクリアに見えるようになってきました。
大切な人に届けた「愛してる」
──『春を告げる』が大ヒットして、そこから僕たちは3枚のアルバムを通じてyamaさんというアーティストが形成されるまでを見てきたことになるんですね。本作ではそうした制作過程の中で、どこが最も感情的な“谷”になったんですか。yama:実は昨年、子どもの頃からかわいがってくれた大切な親族が倒れるという出来事があって…。ただ、その時はツアーも重なって、アジアツアーも待っていたので、しばらく会いに行けませんでした。それで会いに行った時にはもう、自分が知っている頃の元気な姿ではなくて。その状況に直面した時に自分の考え方がすごく変わって、急にその時の気持ちを曲にしたくなり、2日で書き上げて今回のアルバムに間に合わせたのが、本作の最後の収録曲である『陽だまり』です。
──では、『陽だまり』には、本当に生のyamaさんの気持ちが表れているということ?
yama:そうですね。誰かのことを思って曲を書くということはこれまでしたことがなかったですし、歌詞というのは抽象度をある程度高くしておかないと聴く方が共感できないと思っています。だから、普段、作詞をする時は自らのパーソナルな部分を出し過ぎず、たった一人だけの物語にならないように気を付けてきましたが、この曲だけは、その人のことを思って自分の気持ちをストレートにぶつけました。例えば、「愛してる」という言葉はすごく重たくて、軽々しく言えることではないと思っているので、いつもなら絶対に使いたくない言葉なんです。まだ未熟で、誰かを愛することの真の意味をしっかりわかっていない自分が軽く使える言葉ではないと思っていましたが、この曲だけは<黄金色の笑顔を見せて あなたのことを愛してるよ>と、純粋な気持ちを書くことができました。今後もそういう自分の心を剥き出しにした曲を書きたいかといえば、そうではありませんが、この曲では自分100%の心を見せることで、自分も血の通っている一人の人間だということをわかってもらえるような曲だと思います。
──ジャケ写を見ましたが、トレードマークである仮面がいつもより“盛り盛り”になっていて驚きました。ここにもyamaさんの意図が反映されているんですか?
yama:仮面は自らの弱さやコンプレックスを隠してくれる自分の一部です。でも、だからこそ、そのビジュアルが先行して、他者から見たyama像がどんどん一人歩きしている感覚があって、このジャケットでは仮面がバッと暴走しているイメージを表したいと思いました。この中には、感情を持った仮面が自分の本体を取り込もうとするけれど、その暴走した先で自分と融合した仮面がどうなっていくのかという、未来に向けた意味も込めています。実は内側のマスクにあるヒビのような模様に「awake&build」の文字が隠れているのが密かなこだわりです。
──モラトリアム3部作の「きづき」を経て、自分が変えようと思ったこと、逆に変えてはいけないと思ったことをそれぞれ教えてください。
yama:変えたのは「自分にはできないよ」みたいな弱気の言葉を人前で口にして、自分に保険をかけることをやめたことです。いろんなことに悲観したり、自分はダメだと思うことは今もありますが、それを声に出してしまうのは逃げ道を作ることになりますし、それによって完成度が高くなくてもいいと許されてしまっている自分がいたら嫌だなと。なので、一生懸命準備をして、とにかくちゃんと向き合った状態でやってみて、たとえ、その結果がダメだったとしても自分の力がまだそこに到達していないと認められるよう、自分に対して誠実になるためにすごく努力をしました。
一方で、変えなくてもいいと思ったのは、自分が根暗であることや悲観的であることは変わらないし、臆病である自分を無理して強くしなくてもいいというところです。前向きにやろうとか、周りと無理して関わろうとすると自分を誤魔化すことが上手くなっていきますし、ファンの方々と関わっていると、むしろ弱みの部分に共感してくださる方が多いと感じるので、これからも素直に飾らない自分でいたいと思っています。
「awake&build」の中でお気に入りの歌詞は?
──明るい曲調の『色彩』に始まり、じんわりと心に刺さる『陽だまり』に終わる曲順にはどんな意図が込められていますか?yama:まずは自分のことを多くの方に知ってもらえた作品でもあり、幕開けや始まりを感じさせる曲ということで『色彩』を一曲目に選びました。そこから『偽顔』『沫雪』という穏やかな2曲が続き、『日々』『slash』のバンドサウンドでどんどん音が濃くなっていき、バラードゾーンがあって、自分の意思が強い『ストロボ』と『陽だまり』の2曲に繋がっていくような、曲調のグラデーションを意識しています。『陽だまり』は先ほどお話しした経緯から最後に付け加えたアンコール的な位置付けなので、『ストロボ』が本来の最後の曲です。この曲は、ステージに立って、ある意味で自分を擦り減らしながら音楽を続けていく中で、そこにある一瞬一瞬の眩さを表現しており、これからも歌い続ける決意を描いた一曲です。
──話題曲が目白押しの一枚で、どこにフォーカスすればいいのか分からないのでご自身にチョイスしていただきたいのですが、全体の中でお気に入りの歌詞をいくつか教えてください。
yama:是さんが書いてくださった『新星』は、まっすぐな気持ちが飾らない言葉で書かれていて、どのタイミングで歌っても感情移入できるところが気に入っています。この曲をいただいた時は自分でも曲を書き始めたばかりの頃で、何を表現していいのか曖昧で不安定な状態でした。その時の気持ちと<もしも僕が歌を書くなら どんな詞をさ、乗せるんだろう?>という言葉が重なって、さらに、<もしも僕がスターになったら どんな詞をさ、歌えるんだろう?>とつながっていく流れが大好きです。是さんとは歌詞をいただく前にいろいろな話をしたので、きっと自分の今後の行く先を思って書いてくださったんだと、彼女の優しい思いが伝わってきました。
また、『沫雪』は、自分が書き溜めていた詞をメロディに当てはめていく形で作り上げた曲で、2ステップのような軽快なサウンドの中に、あえて文学的な色のある歌詞を入れてみたら、アンバランスさが面白いんじゃないかと思いながら作りました。別れ際の刹那の情景をスローモーションのように引き伸ばした曲なので、美しい情景を感じてもらいたくて、髪や風、窓や糸など、モチーフになる言葉を盛り込んでいて、<遠退くほど想い出した 柔らかな君の解けていく髪>というサビの歌詞にその特徴が色濃く表れていると思います。
──ユニット『BIN』を組んでいる、ボカロPのこめだわらさんには『日々』と『イノセント』の2曲を提供してもらっていますね。
yama:こめだわらさんには、今回のアルバムはこういうコンセプトで、なるべく初心に帰ったような楽曲にしてほしいですと、何となくのリクエストだけを伝えて書いてもらいました。『日々』の方はお願いした通り、ちょっとやさぐれた曲を書いてくれたんですけど、『イノセント』の方はこめだわらさんの提案みたいなところが含まれていて、前向きに歩いていくような歌詞が気に入っています。
──なるほど、2曲の中にリクエストに答えてくださった曲と、yamaさんへのプレゼント的な曲があるんですね。それでは歌唱の面で新しいチャレンジになったことはありましたか?
yama:『偽顔』は、技術的にちょっと難しかったです。プロデューサーのMattさんをはじめ、海外的なアプローチをするチームだったので、例えばR&B寄りの半音でのハモリとか、ちょっとブルーノートっぽいブラックミュージック的な外し方とか、いろいろと細々言われた時に、得意だと思っていたことがちゃんと習得できていなかったことに気付かされて、スタジオで何回かトライしました。ノリとかも2番以降で<重ね重ねお詫びします>あたりのセクションはラップっぽいノリで、今まではそういうのはあまりなかったから、連弾のダダダダっというリズムがすごく難しかったです。
──本作にはキタニタツヤさんとの『憧れのままに』と、ぼっちぼろまるさんとの『ハロ』という2曲のコラボ曲が収録されていますが、他のアーティストさんとの共作が、ご自身の成長につながったと感じることはありますか?
yama:これも『偽顔』での経験ですが、Mattさんのチームは本当にコライトで、その場で修正しながらメロディを考え、歌詞もその場でセッションしながら作り上げていったところが、とても刺激になりました。ただ、それは見方を変えれば、まさに自我を出さなければならない瞬間でもあったので、リアルタイムで意見を言わないと置いていかれると思う場面もたくさんありましたね。一旦持って帰って後から言うこともできるけど、その時には既に前に進んでしまっていることもあるから、思った瞬間に瞬発的にちゃんと自分の意見を言わなければならないというのはかなり勉強になりましたし、自分の意思を言語化する面でも良い練習になりました。
自分に自信が持てない人たちへのメッセージ
──本作のリリースに際してyoutubeの公式チャンネルにアップされたダイアローグムービーでは、ご自身のことを赤裸々に語られています。偶像でもいいというアーティストもいる中で、仮面に隠れているようで自分の生の存在をしっかり伝えたいというyamaさんの姿勢を感じました。yama:みんなからかっこいいと思われる偶像を演じられる人は、それを演じられる技術や器があって、それこそ本物のスターなんだと思います。自分はそれをやってみて、できなくて全然かっこよくいられない自らを痛感しているし、飾れば飾ろうとして空回りして自分の良さが消えていくことも経験してきました。だからこそカメラを回して、素直にかっこつけない自分を見せることで人間として応援してもらいたいという思いが、あのダイアローグムービーの中に籠っています。
──yamaさんは自らの弱い部分を認めつつも、ステージではあれだけ力強いパフォーマンスができるじゃないですか。それって多くの人に勇気を与えていると思うのですが、yamaさんと同じように弱い自分を抱えていたり、あるいは自分のことが好きではないという若い人たちにメッセージとして与えられることってありますか?
yama:今でも自分の嫌いなところがたくさんあるんですが、少しずつそれを許せるようになってきました。たぶん自分が嫌いな人って、すごく自分自身に期待しているんだと思うんですよ。期待しているからこそ、その期待通りになれない自分が嫌いになってしまった。そんな自分を一旦ちょっとだけ許してあげて、今は到達できないけれど一歩一歩やっていくしかないと思えたら、生きづらさもちょっとだけ和らぐと思います。自分も期待や責任感を持つ中で自己嫌悪に陥ることがありますが、いい加減にしないと自分が壊れるということに気付いて、少しずつ感情をコントロールできるようになりました。
──本作では『陽だまり』と『ストロボ』の2曲をお一人で作詞されています。普段から詞をストックしているんですか?
yama:断片的な詞ですけど、思いついた時にメモに残して書き溜めています。
──「陽だまり」は大切な人への思いを言語化された曲とのことでしたが、普段はどういうアプローチで詞が浮かんでくることが多いですか。
yama:マイナス感情から浮かんでくることが多いですね。ただ、ずっとそれでは大変なので、今はもう少し前向きな方向からのアプローチもできるようになりたいと思っていますが、今のところはネガティブなことがあった時に浮かんでくることばかりで…。
──それでは違ったベクトルの詞を書くために意識して取り組んでいることは?
yama:例えば、歩いている最中に目の中に飛びこんでくる景色や情報から、いつもと違った感情の詞が生まれてくることがあります。ただ、休みの日はずっと家にいるので、もう少し外出しなければと思います。
──歌い手であり書き手として、言葉に敏感になるために、日頃から心がけていることはありますか?
yama:心がけなくても敏感なんですよね。仲の良い友だちとの会話の後に「あの時どうしてあんな言葉を使ったのだろう」「ああいう言い方はなかったんじゃないか」みたいに、ある一点がどうしても気になって、そこで悶々としすぎたら、長文の日記を書き出して、自分の中で整理をしたり。もともとネチネチした性格なんです(笑)。
──文学などの活字ではなく、生きた会話の刹那の中にじわっとしたものを感じて、いろいろなイメージが浮かんでくるみたいな?
yama:活字って言葉が整理されていますよね。歌詞の状態になった言葉もそうですけど、十分に考えた上で残された言葉に比べて、会話というのは考える間もなく言葉を発さなければならないので、そうした中で相手が出してきた言葉というのがとても気になってしまうんです。
見守ってくれたファンに成長を見せる機会に
──2月3日からは、青森を皮切りに全国20会場を巡るツアー『yama “the meaning of life” TOUR 2024』が始まります。ここではどんなパフォーマンスを届けたいですか。yama:この3年間は基礎的なパフォーマンス力を上げることを目標にライブをしたり、いろいろなフェスに参加したりしてきましたが、もう十分に基礎は身についたという自信はあるので、今度のツアーでは、yamaらしい世界観であったり、yamaだから表現できる演出を今までより多く入れていきたいと考えています。
──この3部作を通じてアーティストとしての自我が目覚めるまでのyamaさんを見守り、応援してくださったファンの方々へ感謝の気持ちを届ける機会にもなりそうですね。
yama:そうですね。今のファンの方たちはここまでの過程を見てくれていて、臆病でステージの上で震えていた初めの頃から、徐々に心が開いていって少しずつ自分らしいパフォーマンスができるようになるまでをずっと見てくれていた方もいると思うので、そういう人たちが、ちょっと地に足がついた自分を見て、この先どうなっていくのかと、さらに成長していく姿を楽しみに思ってもらえるライブをお見せしたいです。
──それでは最後の質問です。この3部作を終えて、次のフェーズでは、僕たちはどんなyamaさんを見せてもらえそうですか。
yama:今回のアルバムは、0から100までこれだけできますというのを知ってもらいたくて、とにかく自分のレンジを広げるためにいろいろな楽曲を作りました。今後は、その広がったレンジの中でどれだけyamaとしての世界観を濃くしながら、その上で多くの人に共感してもらえる楽曲が作れるかが次の段階だと考えています。
TEXT 鈴木翔
PHOTO TATSUYA ITO
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