「晴る」と「葬送のフリーレン」の関係性
ヨルシカの新曲『晴る』は、TVアニメ『葬送のフリーレン』第2クールの主題歌に決定した楽曲です。まずは『葬送のフリーレン』のあらすじをご紹介します。
マンガを原作とする『葬送のフリーレン』の舞台は、勇者ヒンメルとそのパーティーによって魔王が倒された、その後の世界。
勇者と共に魔王を倒した、千年以上生きるエルフの魔法使いフリーレンが主人公です。
ヒンメルの死をきっかけに、人を知るための旅へ出るフリーレン。
彼女が新たに出会った人々との旅路が描かれていく物語です。
ちなみに、アニメ『葬送のフリーレン』の「フリーレン」はドイツ語で「凍る」という意味の言葉です。
物語で登場する人物名や地名はドイツ語を由来としているものが多く、勇者の名である「ヒンメル」は、ドイツ語で「空」や「天国」という意味があります。
死んでしまう登場人物であることを踏まえると、腑に落ちますね。
ヨルシカの『晴る』という曲名もGoogle翻訳でドイツ語に翻訳してみると、「Blauer Himmel」と表示され、なんと「Himmel(ヒンメル)」が出てきます。
この仕掛けはYouTubeのコメントやSNSで話題となっており、偶然ではなく意図されたものであるとすれば、作詞者の遊び心に感服するほかありません。
「Blauer」は「より青く」という意味の単語で、「空」を意味する「Himmel」と組み合わせることで、「青空」=「晴れ」という意味になります。
曲名が「晴れる」ではなく「晴る」なのは、「春」にかけているのに加え、ドイツ語に翻訳した際に、「Himmel(ヒンメル)」を表示させるためでもあるのかもしれませんね。
これらを踏まえると、主題歌『晴る』は、勇者ヒンメルにスポットライトを当てた楽曲だと考察できそうです。
「貴方」と「僕ら」は誰を指している?
早速、『晴る』の歌詞を冒頭から見ていきましょう。
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貴方は風のように
目を閉じては夕暮れ
何を思っているんだろうか
目蓋を開いていた
貴方の目はビイドロ
少しだけ晴るの匂いがした
≪晴る 歌詞より抜粋≫
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歌詞に登場する「貴方」は誰を指しているのでしょうか。
アニメ『葬送のフリーレン』の内容を重ねるのであれば、歌詞の主人公はフリーレンで、「貴方」はヒンメルを指していると考察できそうです。
死んでしまったヒンメルを、風に重ねて思い出し、心を向けるフリーレンの姿を表現した歌詞だと捉えられるでしょう。
一方で、以下のように、続きの歌詞には「僕ら」という言葉も出てきます。
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胸を打つ音よ凪げ
僕ら晴る風
あの雲も越えてゆけ
遠くまだ遠くまで
≪晴る 歌詞より抜粋≫
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“僕”は男性が使うことの多い一人称であることを踏まえると、歌詞の主人公はヒンメルで、「貴方」はフリーレンを指していると考察することもできるのではないでしょうか。
死んでしまったヒンメルが、空からフリーレンを見守っている歌詞と捉えても、違和感がないように思います。
「貴方」や「僕ら」が誰を指すのかによって、様々な捉え方ができそうです。
ちなみに、「貴方の目はビイドロ」という歌詞もありますが、ビイドロはガラスを意味する言葉で、様々な色のガラスを連想できます。
「貴方」が誰を指すのかを、ビイドロという言葉から特定するのは難しいでしょう。
天気や空をモチーフにした心理描写
ヨルシカ『晴る』は、曲名のとおり、晴れを描いた楽曲です。
天気や空にまつわる表現が多く登場するので、いくつか見てみましょう。
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泣きに泣け、空よ泣け
泣いて雨のせい
降り頻る雨でさえ
雲の上では晴る
≪晴る 歌詞より抜粋≫
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「空よ泣け」というフレーズは、雨を表現しているように思えますが、「泣いて雨のせい」と続くのが気になりますね。
空が泣くのには他に理由があるのに、雨を理由にしようとしている、と捉えられる歌詞です。
「空=ヒンメル」と解釈すれば、空が泣く理由は、雨ではなく、自身が死んだために、冒険を共にした仲間達に会えなくなってしまったからでしょう。
また、会えなくて悲しいのは、ヒンメルだけでなく、フリーレンも同じはず。
千年生きるフリーレンは、出会った人々との死別を何度も経験しなければなりません。
フリーレンの悲しみを「空よ泣け」というフレーズで表現しているとも捉えられそうです。
「降り頻る雨でさえ 雲の上では晴る」という歌詞からは、今は雨でも、今は悲しくても、いつか雲が散れば太陽が見えるはず、この世界は悲しみだけが全てではない、というあたたかいメッセージを感じます。
「晴る」と「春」に込められた希望
『晴る』の最後は以下の歌詞で締めくくられます。
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晴れに晴れ、花よ咲け
咲いて春のせい
あの雲も越えてゆけ
遠くまだ遠くまで
≪晴る 歌詞より抜粋≫
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雨が降り、雲のかかった空が、晴れることを願うようなフレーズですね。
ヒンメルが「もう悲しまないで」と言っているようにも、フリーレンが寂しさに囚われずに前へ進まなければと決意しているようにも聴こえます。
また、同曲では、天気のほかに「春」という季節も印象的に描かれています。
春は、花が芽吹き、冬眠していた動物たちが活動を始める季節です。
前に進んでほしいと願うヒンメルや、前に進もうと決意するフリーレンの思いと重なる季節だと言えるでしょう。
冬に積もった雪が溶け、春が訪れるように、新たに出会った仲間達と旅を続け、人を知ることで、フリーレンの凍った心が溶けていく。
そんな物語もまた、楽曲の中で表現されているのかもしれません。