アーバンギャルドはトラウマテクノポップバンド。ポップさの中にアングラの魅力を兼ね備えているグループです。
フロントマンの松永天馬が書く歌詞は毎回意味深。性的な内容、生死、都市、文学や映画などからの引用など数々の要素を散りばめています。
リードボーカルは、もともとシャンソン歌手だった浜崎洋子。これに松永天馬の声が加わる男女2人の声の掛け合いになっています。この『ワンピース心中』も浜崎メインで天馬が加わる構成。これで日本人男女の恋の価値観を表現しているのです。
ワンピースはこの曲の場合、まず服のワンピースを指しています。上下が一緒になった構造の服。そして、人気漫画の『ワンピース』に関しても少なからず意識を向けています。それは大ヒット漫画、海賊が主人公、能力バトルという面ではなく、「ワンピース」という単語を「ひとつなぎ」という意味で使っていることにおいて。
『ワンピース心中』というタイトルは、ひとつにつながっているという状態そのものへの憧れ、日本人のこの言葉に対するロマンのようなものを込めているタイトル。心中に憧れるような価値観はワンピースを着て恋をするような価値観と密接であると言っているんですね。
“玉川上水 さらばふたり グッド・バイ
未遂に終わって あなたひとり Dog Die”
「玉川上水 さらば二人 グッド・バイ」太宰治が玉川上水で心中をはかったことを歌詞にしています。『グッド・バイ』は太宰治の遺作で未完の作品。太宰治がこの作品を最後にあの世へ行ってしまったことを指しています。
「未遂に終わって あなたひとり Dog Die」こちらの歌詞で、太宰治の心中が未遂に終わったことがあることも示しています。これも史実を反映させている歌詞。ドッグダイは犬死、自分のためだけに死ぬこと。太宰治は女と何度も心中を図っていて、その中で女だけがひとり死んで、太宰だけが生き残ってしまったことがあります。このやるせない事実を反映させている歌詞。太宰治は最終的に愛人と心中して亡くなっています。
“ワン、ツー、ピース ふたりの
心中 斜陽の恋さ”
「ワン、ツー、ピース ふたりの心中 斜陽の恋さ」ここでも『斜陽』という太宰治の作品を引用。『斜陽』は没落していく名家の物語。現代日本が不況で没落していく様を反映させています。ここでも日本人の恋愛が心中という価値観に結びつきやすい様を歌っています。
“お命ください わたしひとつあげるから
おハジキください あなたひとつくださいな”
PV(このバンドにおいてはプロパガンダビデオの略)の監督は『水中ニーソ』写真集で有名な古賀学。ニーソの女の子を水中に入れる写真という独自の路線で人気を得ている人です。だから浜崎洋子が水中にいるんですね。浜崎が水の中に浮かんでいるのは、入水自殺の暗喩。さらに「お命ください」で刀を持ち、「おハジキください」でピストルを構えます。ここも『お命頂戴!』という時代劇を反映し、ハジキ=ピストルを指すことでいずれも「死」を連想させる歌詞。
軽快な曲調の中に、いくつも死の要素や日本人の死生観を入れた凝っている曲。このバンドが人気の理由も分かります。
TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)