中毒性の高いjon-YAKITORYのボカロ曲を解説
遊び心のある歌詞とキャッチーなメロディが魅力であり、近年では様々なアーティストとフィーチャーしたオリジナル曲でも注目されているボカロP・jon-YAKITORY。2023年8月30日にリリースしたデジタルシングル『混沌ブギ』が中毒性が高いと話題になっています。
リズミカルで気分を盛り上げてくれる爽快なサウンドや、いちまるによるかわいらしいアニメーションが相まったMVは何度もリピートしたくなるでしょう。
しかしそんなハイテンションな雰囲気を持っていながらも、歌詞を見ると意外にも不穏な空気が漂っています。
どのようなメッセージが込められているのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
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純情?なにそれ 愛情?なにそれ
美味しいの?ねぇ
美味しいのって なあ
乱暴ダメダメ 感情捨て去り
いっせーので ぶっ飛ぶだけ
≪混沌ブギ 歌詞より抜粋≫
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冒頭から「純情」や「愛情」といった人が持つ魅力的な性質を「なにそれ 美味しいの?」と問いかけてきます。
詰め寄るような問いかけを見ると、周囲からの「純情であれ」「愛情を持て」という言葉に反発し皮肉っているように見受けられます。
歌唱している初音ミクは16歳の女の子なので、余計にそうした世間からの圧力を感じている世代かもしれません。
しかし周囲から何を言われようと、自分は何も考えずに「ぶっ飛ぶだけ」でいたいと言っているように感じます。
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混沌ブギウギ ハッピー特盛
ドンビーシャイだ ドンビーシャイだもう
段々堕ちてく IQクソワロ
いっせーので 死ぬまで踊れ
≪混沌ブギ 歌詞より抜粋≫
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「ブギウギ」は1940年代に流行したジャズ・ピアノのスタイルのことで、スイングの効いた8ビートのリズムが特徴です。
そこに「混沌」とついているため、人も感情も様々なものが入り乱れて一心にリズムに乗っているイメージが伝わってきます。
「ドンビーシャイ」は英語の「Don’t be shy」を指し、「遠慮しないで・ためらわないで」という意味があります。
つまり、みんな遠慮せずに「ハッピー特盛」で踊ろうよと誘っている歌詞だと解釈できるでしょう。
そのせいでIQが「段々堕ちてく」ことは分かっていても、そんなことはどうでもいいと笑います。
「いっせーので死ぬまで踊れ」という言葉からも、悩んでいる人みんなに全てを忘れて無我夢中で楽しもうと伝えている様子が感じ取れます。
楽しく踊る主人公の本音は?
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完全体の山田
無関心なんてありえない
三千体の桑田の方がいいかな
≪混沌ブギ 歌詞より抜粋≫
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この部分では「山田」と「桑田」という名前が登場していますが、実在の人物というよりも2つの異なるものを比較する比喩として用いていると考える方が自然かもしれません。
山と桑はどちらも植物に由来していますが、それらを見た時の印象は全く違うのではないでしょうか?
それで、完成された存在感のある山は人の目を惹きつけるものの、自分は不完全でもそこで懸命に枝を伸ばす多くの桑の木の方を好ましく思うということを伝えていると考察しました。
他の人の意見がどうであれ、自分が良いと思うものを大切にする気持ちが込められているように思えます。
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わがままばかりじゃ落ち着かない
冷や汗が出すぎて気持ち悪い
当たり前のことも手につかない
もうなんて言ったらいい?ばかりで
世間体とか投げ出したい
狂った様に泣き出したい
思うがまま生きて消えていきたいな
≪混沌ブギ 歌詞より抜粋≫
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ここでは主人公の不器用な本音が綴られています。
好き放題わがままを言うのは性に合わず「冷や汗」が止まりません。
誰もが当たり前にやっていることすら手につかないほど悩んでいて、「もうなんて言ったらいい?」と答えのない問いを繰り返すばかりです。
そして世間体を投げ出して感情のまま「狂った様に泣き出したい」、「思うがまま生きて消えていきたいな」と零します。
このように生きづらさを抱えているからこそ、全てを忘れてただ楽しみたいと願ってしまうのでしょう。
自分を信じて殻を破れ
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ワンツーまさかり 三四 刈り取り
もういいんだって もういいんだってもう
ハッピーおかわり Give meトキメキ
いっせーので さあ 飛び込め
≪混沌ブギ 歌詞より抜粋≫
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「まさかり」は実際には大型の斧のことですが、ネット上では技術的なコメントや対応に困る批判などの意味を持つスラングとしても使われています。
スラングの意味で用いられているとすると、SNSでの自分の言動に対して批判的なコメントを投げられたと解釈できそうです。
そのことにショックを受け、「もういいんだってもう」と楽しくSNSを使えないことへの嘆きを言い表しているように見えます。
いつでも「ハッピー」や「トキメキ」だけを求めているから、楽しいだけの世界に飛び込みたいと思っているようです。
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もういいや全部全部ほら
忘れてしまおう
簡単なことじゃないが
我々なら出来るだろう
なあ? Get Down
≪混沌ブギ 歌詞より抜粋≫
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最後にはうまく生きることを諦めて、過去の苦しいことや悩みを全部忘れてしまおうと考えます。
無意識の内に忘れてしまうことは多いですが、意識的に忘れようとするのは意外と難しいものです。
それでも「我々なら出来るだろう」と歌っていて、自分の本質を信じてもいるようです。
そして「我々」という表現や「なあ?」との問いかけから、多くの人が自分と同じように悩みながら生きていること、それを乗り越えていける力があると確信していることも感じられます。
ラストの「Get Down」は本来「降りる・身をかがめる」という意味ですが、スラングでは「ダンスする」という意味になります。
楽曲全体を通して、問題や悩みは忘れてブギのリズムに乗って踊ろうとリスナーを駆り立てるメッセージが表現されていることが読み取れますね。
“ハッピー特盛”なボカロ曲を楽しもう!
jon-YAKITORYの『混沌ブギ』の歌詞を紐解くと、その根底には世間の見方によって自分を自由に表現できない人たちの苦しい思いがあるように思えます。そのような人たちに向けて、いっそみんなでバカ騒ぎをして自分を解放しようと背中を押しているのではないでしょうか。
『混沌ブギ』の楽しい音楽と共に、憂鬱な気分を吹き飛ばしていきましょう!