ドラマ「3年B組金八先生」主題歌を解釈
1971年に結成された福岡出身のフォークバンド・海援隊。
『母に捧げるバラード』で大ヒットを記録し、のちに『人として』や『思えば遠くへ来たもんだ』など数多くの名曲を世に送り出してきました。
今回考察するのは、1979年にリリースされた海援隊の代表曲『贈る言葉』。
ボーカル・武田鉄矢が主演を務めたTBSドラマ『3年B組金八先生』の主題歌として制作された楽曲です。
今ではドラマ主題歌としてのみならず卒業ソングとしても広く愛され、学生時代に卒業式や音楽の授業で歌ったという人も多いかもしれません。
別れの歌として多くの感動を誘う『贈る言葉』の歌詞には、はたしてどのような意味や物語が見出せるのでしょうか。
悲しんだ分だけ優しくなれる
まずは1番の歌詞から見てみましょう。
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暮れなずむ町の
光と影の中
去りゆく あなたへ
贈る言葉
≪贈る言葉 歌詞より抜粋≫
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「暮れなずむ」は、日が暮れそうでなかなか暮れないという意味です。
春に差し掛かり、これまでよりも日が長くなった夕暮れ時がイメージできますね。
別れの季節と別れの時間が重なった町で、主人公のもとを去りゆく「あなた」。
続く歌詞では、そんな「あなた」への「贈る言葉」がつづられます。
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悲しみこらえて
微笑む よりも
涙かれるまで
泣くほうがいい
人は悲しみが 多いほど
人には優しく
出来るのだから
さよならだけでは
さびしすぎるから
愛するあなたへ
贈る言葉
≪贈る言葉 歌詞より抜粋≫
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悲しみを表に出さずに微笑むのは、見方によっては大人な対応です。
しかしここでは、自分の気持ちに正直に「涙かれるまで泣くほうがいい」と述べられています。
そしてその理由は「人は悲しみが多いほど人には優しく出来るのだから」。
自分が傷ついたり悲しんだりした分だけ、他人の痛みに気づき、心を配ることができる。
そんな大切なことを教えてくれるフレーズですね。
「さよならだけではさびしすぎるから」と、愛する「あなた」へと言葉を届ける主人公。
人生を支えてくれるような大切な言葉が、以降の歌詞にも続きます。
優しさを期待するのは「臆病者」
続いて、2番の歌詞を見てみましょう。
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夕暮れの風に
途切れたけれど
終わりまで聞いて
贈る言葉
≪贈る言葉 歌詞より抜粋≫
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「夕暮れの風に途切れた」というフレーズからは、主人公の素朴で控えめな語りようが想像できますね。
それでも健気に「終わりまで聞いて」と、主人公は「贈る言葉」を続けます。
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信じられぬと
嘆くよりも
人を信じて
傷つくほうがいい
求めないで 優しさなんか
臆病者の
言いわけだから
はじめて愛した
あなたのために
飾りもつけずに
贈る言葉
≪贈る言葉 歌詞より抜粋≫
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「信じられぬと嘆くよりも 人を信じて傷つくほうがいい」。
誰も信じられずに立ち往生するより、真正面から人と向き合って傷ついたほうがいいという意味合いでしょうか。
続く「優しさなんか臆病者の言い訳だから」というフレーズにも、他人の善意だけを期待するより、勇敢に傷ついて自分自身が優しくなることの大切さが鋭く伝わってきます。
これらの飾らない言葉は、「はじめて愛したあなた」だけでなく、現代社会を生きる私たちすべてに突き刺さるものですね。
失恋相手にも「贈る言葉」
ここからは、終盤の歌詞を見ていきましょう。
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これから始まる
暮らしの中で
だれかが あなたを
愛するでしょう
だけど私ほど
あなたの事を
深く愛した ヤツはいない
≪贈る言葉 歌詞より抜粋≫
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じつは『贈る言葉』の歌詞には、作詞を手がけた武田鉄矢の失恋体験も反映されているそうです。
好きだった相手に振られたときの思いも『贈る言葉』には込められているのだとか。
それを踏まえると「私ほどあなたの事を深く愛したヤツはいない」というフレーズが出てくるのも理解できます。
『贈る言葉』は、旅立っていく生徒たちのみならず、はじめて愛した恋人に捧げられた歌でもあったのですね。
最後の歌詞も見てみましょう。
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遠ざかる影が
人混みに消えた
もう とどかない
贈る言葉
もう とどかない
贈る言葉
≪贈る言葉 歌詞より抜粋≫
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「遠ざかる影が人混みに消えた」。
夕日が沈みきるような切なさや寂しさが感じられます。
もう届かない「贈る言葉」ですが、不器用ながら伝えきることができた悲しみや優しさにまつわる教訓は、きっと「あなた」の心にじんと響いたことでしょう。
今の私たちの心に『贈る言葉』が響くのと同じように。
授業では教わらない人生の教訓
今回は、海援隊『贈る言葉』の歌詞の意味を考察しました。優しく語りかけるようでありながら、要所要所でハッとするフレーズに出会える楽曲でしたね。
それこそ「金八先生」の教えのような、学校のカリキュラムを超えた人生訓が心に残る歌詞だったのではないでしょうか。
悲しみを素直に受け入れ、人を信じ、傷つきながらも優しさを育む。
別れを迎えた誰にとっても大切な『贈る言葉』は、これからも私たちに多くの気づきを与え、私たちを成長させてくれそうです。