あなたの近くに、もしギリギリの状態の人がいたら。
例えば、職場の人間関係に疲れ切っている友達や、学校でのいじめに苦しむ我が子。思い詰めてどん底の状態にいる人に、面と向かって励ましの言葉はかけにくいものだ。
公開日:2016年4月17日
あなたの近くに、もしギリギリの状態の人がいたら。例えば、職場の人間関係に疲れ切っている友達や、学校でのいじめに苦しむ我が子。思い詰めてどん底の状態にいる人に、面と向かって励ましの言葉はかけにくいものだ。
そうはいっても心配だし、少しでも楽になってほしい。そんな時、傷ついた人に、言葉の代わりにそっと送りたい歌がある。高橋優の「少年であれ」だ。
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僕なんか生まれなきゃよかったの? 傷付いた心が言う
そう思わせるのが奴らの狙いだ 負けるな少年よ
心を休めることすら 許してもらえなかったんだな
もう少し遊べ 抜くとこは抜いていけ
楽しいことだけを選べ
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冒頭の一節「僕なんか生まれなきゃよかったの?」は、悩みを抱えているなら誰でも一度は陥ったことがある気持ちだろう。聴く人をギクッとさせるフレーズで、閉ざした心の鍵をこじ開けるような強さがある。でも続いて、「そう思わせるのが奴らの狙いだ」「心を休めることすら 許してもらえなかったんだな」…優しく包み込むような言葉が心にしみわたってくる。
悩んでいる時って、往々にして自分を責めてしまうもの。でも、そう感じるのは君のせいばかりじゃない。肩の荷を下ろして、気楽にいっていいんだ、と。
「奴らの狙い」の「奴ら」というのは、少年にとっては教室での悪意ある視線だし、大人にとっては職場や公共の場を含めた社会全体だろう。正体がわからなくて、立ち向かいようのないもの。でも、そんな圧力に屈したら損だ、と、歌詞はこちらを励ましてくる。
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抱えきれない痛みは 抱えなくて別にいい
無理に苦しむ必要がどこにある?
誰しも気ままで元々
羽ばたける鳥のように 海を跳ねる魚(うお)のように
その遊び場で 誰よりも自由に 笑える少年であれ
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高橋優は、以前インタビューで「自分もかつて、いじめられていた」と打ち明けたことがある。だから「抱えきれない痛みは 抱えなくて別にいい」は、彼が少年のころの自分自身に対して言ってあげたかった言葉でもあるのかもしれない。「抱えなくて別にいい」の「別に」が、「考えすぎるなよ」と背中をポンと押すようなニュアンスを加えている。
そして高橋優の作品には、過去の体験を包み隠さず描いた「CANDY」(アルバム『BREAK MY SILENCE』収録)のような、心に鋭く突き刺さる辛辣な歌も多い。耳に心地いい言葉を並べるばかりではないからこそ、優しい歌はどこまでも優しいし、実感のこもったメッセージは、こちらの心を揺さぶるのだ。
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流行の服で着飾れば 明日には古くなる
それを追いかけるも追いかけないのも
面白そうな方を選べ
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世の中にあることは、いつだって「ダサい」か「かっこいい」かに二極化していて、自分がどっち側にいるのか、常に観察されているような窮屈さがある。
でも、そんな中で自分の「面白い」と思うほうに歩き続けてきたからこそ、こんなにまっすぐな言い方ができるのだろう。
そして、この後に続くフレーズが、冒頭の「僕なんか生まれなきゃよかったの?」という問いかけへの答えのように感じられるのだ。
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生まれてきた意味ならば 後付けでも素晴らしい
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この曲の中の言葉が、あなたの大切な人に届きますように。もちろん、傷ついている時のあなたの心にも。優しい思いが伝われば、きっと、言葉はいらないはずだ。
TEXT:佐藤マタリ